道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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五十二話 道具屋のおっさん、腕が鳴る。

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 俺たちはいつもより早く道具屋を出ると、透明になって勇者パーティーが来る方角へ歩いた。

「あ、あのモルネトさん、本当に大丈夫なんでしょうか……」

「ん? エレネ、不安なのか?」

「だって、まだ勝てる絵が思い浮かばなくて……あっ、モルネトさんは凄く強いですけど……」

「確かに。エレネどのが足を引っ張るからな……」

「むぅっ……」

 リュリアに対してエレネが頬を膨らませてむっとしてるが、それでも前よりは打ち解けてる印象だ。ビッチ同士気が合うのだろう。

「大丈夫だ。まだ戦わない」

「「え……」」

 二人が驚くのも無理はないか。ジーク・モルネトの考えが常人に予想できるはずもないからな。

「さらうんだよ。ミヤレスカを」

 俺は宙を掴む素振りをしてニヤリと笑ってみせた。

「「なっ……」」

 ミヤレスカはタフだしヒール量も大きいしバリアも張るしで、、凄く邪魔だからな。あいつさえ味方に引き込めば魔術師アルタスに勝つチャンスもあるように思える。やつだけは勇者パーティーの中でも別格だから、勝つためにはこういうこともやるしかない。

 ――お、早速見えてきたな。勇者パーティーが町の住民を引き連れてやってきた。


 勇者クリス、戦士ライラの横を通り過ぎていくが、透明になっている俺たちには当然気付く様子もない。

「「「……」」」

 ただ、魔術師アルタスの横を通るときはかなり緊張した。あいつだけは油断できない。しかも、俺たちが通り過ぎたあと、一瞬立ち止まって怪訝そうに振り返りやがった。異変に気付いたのかもしれない。それまでいかにも眠そうな面してたのにヤバすぎだろ……。

 とはいえ、見えないのはやはり正義だった。アルタスは気のせいだと思ったのかまた歩き始めた。

 さあ、僧侶ミヤレスカだ。やつは周囲に穏やかな笑顔を振りまいていた。問答無用で拳を叩き込んでやりたくなるが、まだ我慢我慢。

 さらうにもタイミングが重要だ。もうすぐアレが来る。

 ――来たっ。子供が転んだ。ミヤレスカが立ち止まり、振り返って偽善ヒールを敢行する。巻き起こる拍手と歓声。ここが千載一遇のチャンスだ。

 俺は迅雷剣を遠くに向かって振った。強烈な光、次いで爆音、爆風、さらには立ち上る煙……。こいつらの目を引かないはずもあるまい。

 俺は透かさずミヤレスカの背後に回り込み、透明カードにこいつの名前を念じて消したあと、口を塞いで拉致した。

「むぐっ!?」

 奴隷たちとともに、ミヤレスカを抱きかかえて走る。目指すはエレネと契りをかわしたあの路地裏――。

 きっとやつらは血眼でミヤレスカを探すだろうが、まさかあんなところにいるとは夢にも思うまい……。



「――な、なんなんですの!? あなた方は!」

 透明化を解除された畜生ミヤレスカが吼える。

「おっす、オラ道具屋モルネト。元てぇへんのおっさんだ、よろしくなっ!」

「よろしくです、ミヤレスカさん、私はモルネトさんの嫁のエレネといいます……」

「私もモルネトどのの嫁のリュリアだ。よろしく……」

 歯茎を剥き出しにした俺の挨拶と、性奴隷のダブルペコリンであのミヤレスカも唖然呆然。

「……は、はあ……よろしく……って、ふざけないでください! 私を誰だと思ってるんですか……って、あ、あなたは……」

 お、ミヤレスカがリュリアのほうを見てはっとした顔になった。

「覚えていてくれたか。お前たちのせいで私は王都を追われ、この町に左遷されたのだ……」

「……な、なるほど。読めてきましたわ。それでこの私を人質にして、勇者パーティーを破滅に追い込もうというわけですね」

 さすが鬼畜勇者パーティーの一人、僧侶ミヤレスカ。すぐに調子を取り戻してきたな。片目だけ見開いたあくどそうな笑みを浮かべている。

「人質なんか取っても無駄ですわよ……? あなた方なんて、勇者クリス、戦士ライラ、魔術師アルタスがすぐにやっつけてくれます。それどころか、私を追い詰めることさえもできないでしょうね」

「ほほう。そりゃ頼もしいことだな。ちなみになんでそう思うんだ?」

「……あ、はい。雑魚底辺の道具屋さんに教えて差し上げますねっ。私が勇者パーティーの一人であり、僧侶の中でもずば抜けたヒール量を持つ鬼才のミヤレスカだからですっ」

「ふーん……」

 鼻をホジホジしつつ一応聞いてやったが、コーマンチキチキなミヤレスカがジーク・モルネトを前にして、どこまでこんな不遜な態度でいられるか実に楽しみだ……。
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