道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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三十話 道具屋のおっさん、見せつける。

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「ただいまー」

 武器屋でエレネとお楽しみ中、オルグが帰ってきた。

 手筈通り、俺はすぐに店内の展示ケースの後ろに隠れる。前回あっさりお別れしたときに気付いたが、こいつをいじめないと何か物足りなくなることに気付いたんだ。兄妹そろってそういう性質があるのかもな。

「おかえりなさい、オルグ兄さん……」

「……って、あれ? エレネ……なな、なんで全裸……!?」

「……実は……ぐすっ……」

 エレネのやつ、顔に両手を当てて泣き崩れてる。演技が上手いなんてもんじゃないな。こいつもジーク・モルネトにまた一歩近付いている……。

「……ま、ま、ま……」

「……」

 俺はオルグのあまりの動揺振りを見て、笑いを堪えるのに必死だった。

「ま、まさか……や、や、やられちゃった……?」

「……うん。ごめんね、兄さん……」

 エレネがうなずくとオルグの顔が見る見る赤くなった。まあ察するよな……。 

「……だ、誰が……こんなっ……許せない……許せないぃぃ……あああああぁぁぁぁっ! いだあぁぁ!」

 あいつ、気が狂ったように暴れ始めたが、足の指が展示ケースの角に当たったのか転げ回っている。いちいち笑わせに来るやつだ……。

「だ、大丈夫? 兄さん……」

「いだだぁ……。だ、大丈夫だっ……。エレネ、とりあえず服を着てくれ……」

「うん……でも、もういいの。しばらくこのままでいさせて……」

「畜生……何も知らない純粋な妹を傷つけたのは一体誰なんだ……」

 オルグ、すまんな。それは俺で、しかもエレネはもうただのウサビッチなんだ……。

「……は、はん……」

 お、ビッチのやつ早速この状況に興奮したのか、自分の股に手を当てて恍惚とした顔になった。

「……エレネ……くっ。穢れてしまった体を無性に洗いたくなる気持ちはよくわかる。お前の仇は兄さんが必ず取る……」

 オルグのやつ勝手に解釈してるし、しかも仇って……殺されたわけでもないのに。兄妹だが年齢が離れてるのも大きいのか、相当熱を上げてたみたいだな……。

「それが……兄さん……」

「ん?」

「相手はそこに……」

「な、なんだって!?」

 さー、そろそろいいだろ。満を持してのジーク・モルネト降臨である……。

「よー、久々だな、オルグ」

「も、モルネト君……!? ……え、まさか君が……?」

「ああ、オラが頂いちまったぜ。おめぇのでぇじな妹のココをよぉ。すんげぇ気持ちよさそうにしてたから、感謝してくれよな兄さん?」

 俺は歯茎丸出しで大股開きになると、股間を触って挑発してみせた。

「お、おのれ……」

「おっと、わりーけどオラにはこれがあんだよ」

 近寄ろうとしてきたオルグに自慢の看板娘を見せつけてやる。

「そ、それは……迅雷剣!? な、何故……」

「それが、兄さん……処女を奪われたくなきゃ、鍵を持ってこいって脅されて……それで……」

 エレネのやつノリノリだな……。

「う、うぬぅぅー。で、でもエレネ、よく鍵を見つけたね……」

「え?」

「普通のと違って、迅雷剣のケースを開ける鍵は倉庫に入れてあるんだけど、暗号を解かないと開けられないのに……。偶然だろうけどまさかそれを解読してしまうなんて……」

 ……興味深い話だ。この先迅雷剣を紛失する可能性もあるし、聞いておいたほうがいいのかもしれない。じゃないとオルグが帰ってくるまで待たなきゃいけなくなるからな。

「……なんとかしようと思ってたら、自然と開いちゃって……」

「そうか……頑張ったね……はっ。もしかしてエレネ……兄さんの気持ち、知ってたのかい……?」

「……どういうこと?」

「オルグ兄さん大好き……それが暗号だったんだ……」

「そ、そうだったんだ……うん。兄さんのこと、好きだよ……」

「エレネ……!」

 オルグの野郎が泣きながらエレネに抱き付いてる。胸糞だな。

「でも私ね、モルネトさんのほうがもっと好き……」

「……え、エレネ……?」

 おー、いいぞいいぞ。オルグのショックを受けた顔、最高に受ける……ププッ……。

「こんな……なんの取り柄もない貧乏底辺道具屋のどこがいいんだ……」

 お、本音が出たな。

「違うよ。モルネトさんはとても素敵な人なんだよ、兄さん……」

「エレネ……そうか。初めてを奪われたから……初めての相手だから、悪い人じゃないと思い込みたいんだね。でも、それは違う……」

「兄さん……?」

「体は汚れても……心は汚れてないんだ。だから、大丈夫だ。エレネ、君はまだ汚れていない……。こんな汚い底辺道具屋なんかじゃ決して君を穢せやしない……」

 ……かー、こいつ、放っておくとホントむかつくやつだな。そろそろ幕引きにすっか。

「おうおう、言ってくれるじゃねえか自慢野郎がよぉ。オラには迅雷剣があるの、忘れてねぇか?」

「……ちっちっち……」

「ん?」

「モルネト君、甘いよ。それは魔法攻撃力が高い人のためのものなんだ。君なんかが扱える代物じゃないんだよ……」

「俺のレベル、175なんだが……」

「……またまたぁ。そんな嘘を……」

「オルグ兄さん、大嫌い」

「……え、エレネ?」

 はっはっは。空気を読んでくれたな、エレネ。

「ほら、こっち来い、エレネ、お前の大好きな俺の唇だよ」

「はい。嬉しいですっ……」

「「……ちゅー……」」

「そ、そんな……。やめろ……やめろおおおおぉぉぉ!」

 やつが怒り狂って間近に迫ってきたところで、タイミングよく迅雷剣を振ってやった。

「えびゃああああああぁぁぁぁぁあああああっ!」

 電撃の中で踊り狂うオルグ。予想以上に面白く死んでくれたな……。
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