道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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十七話 道具屋のおっさん、ワクワクする。

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「ただいまー」

「おかえりー」

「……って、モルネト君!? それに、え、エレネエェッ!」

 黄昏とともにやってきたオルグが仰天するのも無理はあるまい。店内には、全裸のエレネの首にナイフを突きつける歯茎剥き出しの俺がいたわけだからな。

「ど、どういうことなんだい、これは……」

「どういうことって……おめえ、ココおかしいんじゃねえか? これからお前の妹にアレしようって思ってるに決まってんだろ? ヒヒヒッ……」

「や、やめてくれ……。エレネはまだ処女なんだ……。大事な妹なんだよ……」

「はあ? なんで処女って知ってんだよ、兄のおめえがよ」

 まあエレネには神様が見えてたんだし処女には違いないわけだが、なんで兄貴がそれを知ってるのかというのは興味深い。

「エレネは、男が苦手なんだ……。人見知りするタイプだから……」

「男が苦手っていうけどよぉ、まだ小便くせぇガキだし機会がねえってだけだろ。こいつペェペンだけどビッチの素質はあるぜぇ?」

「ひっく……えぐっ……。お兄さん、助けて……」

 エレネ、なかなかの演技力だな。オラ気に入ったぞ。

「エレネ……辛いだろうけど、耐えてくれ。モルネト君……どうしてそんな風になってしまったんだ。僕は悲しいよ……」

「うっせえ! オメーよお、マジでココイカれてんじゃねえのか? つべこべ抜かしてっと、オラの熱いかき混ぜ棒でよぉ、おめぇのでぇじな妹の穴、ズコズコすっぞ!」

「くっ……頼む……それだけはやめてくれ……。なんでもする……この通りだ……」

 オルグが弱った様子で土下座しやがった。

 へえ。こいつ、妹の命よりも貞操を奪われることのほうが遥かにダメージ高そうだな。自慢するためとはいえ妹を妻ってことにしてたわけだし、ほかの男に奪われるくらいなら殺したほうがマシくらいに考えてそうだ。

「だったら迅雷剣持ってこい。そしたら返してやっからよ」

「……え……」

「え……じゃねえよ。もう勃起がおさまらねえんだよ。早くしねえとよぉ、こいつに赤ちゃんができちまうぞ……」

「……うぐぐ……。わかったよ……わかったよ、もおぉぉぉおお!」

 オルグが泣きながら店の奥に駆け込んでいった。迅雷剣もあいつにしてみたらエレネの貞操に次ぐくらいのものなんだろうな。まもなくやつが鍵を手に戻ってきて、ケースを開け放った。わくわく……。

「どうぞ……ひっく……」

「おぉ……」

 遂に俺の迅雷剣が戻ってきた。会いたかった……。

「さ、さあ……約束通りエレネを返してくれ!」

「よし、んじゃ返す……わけねえだろ。こいつを食らいやがれ……」

「え……やめてとめてやめてとめて」

 すかさずオルグに電撃を食らわせてやった。

「とめったああぁぁぁっ!」

 ……反応は前よりよかったが気絶する程度だ。やはり威力はまだまだだな。

「エレネ、チューの時間だ」
「ちゅー……」

 エレネ、兄が目の前でやられたのにすんなり仇の唇を受け入れてる。しかもうっとりしちゃって……。すっかり俺色に染まってきたな。



「さて、そろそろ神様のところに行くぞ」

「はいっ……」

 エレネと手をつないで武器屋をあとにする。次はどんなカードが引けるのか、オラわくわくしてきたぞ。

 えーっと、武器屋前の大通り、それも真ん中を左に向かって歩いてたんだっけか。雪が降る中、馬車に轢かれてもいいくらいの気持ちで。そしたらどんどん視界が霧で悪くなっていって、気付いたら……。

 ――お、例のぼんやりとした灯りが見えてきた。ん、向こうから近付いてくるんだが……。

「神様あー!」

「モルネト、それにエレネ。よく来たの」

 ランプを手にした神様の姿が見えてくる。なんていうか、神様から凄く熱い視線を感じるのは気のせいか……?

「早速カードを……」

「おいおい、わしはカード屋じゃないぞいっ」

「えっ……違った?」

「うぬっ……神様をバカにするでない!」

「……」

 もう正直俺には神様の顔がカードに見えていたくらい、ほぼカードにしか興味がなかった。

「うぅ……。何か言うことあるじゃろ。カードの前に……」

「……言うこと?」

 しばしの間、神様と俺たちの間に妙な沈黙が生まれた。なんなんだよ、一体……。

「わ、わしに会いたかった、とか……」

「あ、そりゃ会いたかったよ。カードくれるし」

「……最後の台詞が胸に響くのぅ。やっぱりわしはただの便利なカード屋か……。もう今日は閉店といこうかの……」

「え、ちょ……。ま、まさか神様……俺に惚れちゃってるの?」

「あ、アホを抜かすでない! か、神様のわしが人間如き、それも底辺道具屋のおっさんなんぞに惚れてしまうなど……あ、あるわけがなかろう!」

「……」

 この慌て具合。どうやら図星のようだ。俺は神様にさえ惚れられてしまうほどやべーやつになったということだな……。

「でも、そんな爺さんみたいな汚い姿じゃ愛せないよ、神様……」

「調子に乗るな!」

 かなりのツンデレっぽいな、神様……。

「よしよし、愛してやるから、今度は俺好みの美少女になってくれよ」

「……う、うぬぅ。神様に向かってなんと無礼な……」

「でも、そこがいいんだろ?」

「ぐぬぬ……。か、考えとくわいっ! さ、さっさとカードを引け! 引くのじゃ!」

 神様、顔を真っ赤にして座り込むとカードを並べ始めた。何気に女の子座りだ。爺さんの姿でやられるとさすがにキツいな……。

「エレネ、どのカードにしようか」

「んー、モルネトさん、これにしましょうかぁ」

「うんうん。じゃあ、これにする?」

「はいっ」

「……やっぱり今日は止めじゃ」

「ちょ……」

 カード群が消えてしまった。これくらいで嫉妬かよ……。

「神様ぁ。いじけるなよ。大事にしてやるからさ……」

「……いいんじゃ、いいんじゃ。わしなんか……」

「神様キモいよ……」

「うむ。自分でも少し思ったわい」

「……」

 色々あったがようやくカードを引けた。なんだこれ。インフィニティ記号とともに見開いた人間の眼球が描かれてる。

「神様、これは?」

「それはな、所持している限り眠れなくなるカードなんじゃ。当然眠気も一切なくなる」

「「おおっ……」」

 エレネと声を合わせると、神様が露骨に顔をしかめた。相手が相手だけに嫉妬が怖いからちょっと手を打っておくか……。

「神様、今度来るときはちゃんと美少女になっててくれよ」

「も、もちろんじゃ。任せとけ!」

 よし、機嫌が直った。単純な神様だなあ。

「聞こえとるぞ」

「はっ……」

 そうだった。まあいいや。そういうの含めて俺のこと好きなんだろ。

「まあの。圧倒的にキモいところがまたよい……」

「おま……キモいのがいいって、どういう趣味なんだ……」

「おっと、そろそろ時間じゃ。お前好みの美少女になってやるから、必ず来るんじゃぞっ」

 神様のにんまりとした顔が歪んでいく。一体どうなることやら……。
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