道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

文字の大きさ
上 下
13 / 66

十三話 道具屋のおっさん、キレる。

しおりを挟む
現在僕は、ロイ兄さんたちが剣術の練習場を、お茶を啜り、ふかふかの椅子に腰掛けながら眺めている。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。

「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」

そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。

「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」

この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。

「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」

ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。

「それぐらい容易いよ。」

そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。

「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」

ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。

「いって!なにすんだよ!」

「うるさい。さっさと練習に行け。」

「はいはい。」

そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。

そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。

あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。

なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。

でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?

そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。

「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」

振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?

「えっと、僕はノ……」

名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。

「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」

声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。

「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」

「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」

「その子たちとはもう終わったよ。」

「……やってられない。」

ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。

「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」

「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」

「へぇ……ノエルって言うのか……」

ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。

僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。

「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」

そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。

「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」

「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」

ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」

「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」

ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

勇者パーティーを追放された召喚術師、美少女揃いのパーティーに拾われて鬼神の如く崇められる。

名無し
ファンタジー
 ある日、勇者パーティーを追放された召喚術師ディル。  彼の召喚術は途轍もなく強いが一風変わっていた。何が飛び出すかは蓋を開けてみないとわからないというガチャ的なもので、思わず脱力してしまうほど変なものを召喚することもあるため、仲間から舐められていたのである。  ディルは居場所を失っただけでなく、性格が狂暴だから追放されたことを記す貼り紙を勇者パーティーに公開されて苦境に立たされるが、とある底辺パーティーに拾われる。  そこは横暴なリーダーに捨てられたばかりのパーティーで、どんな仕打ちにも耐えられる自信があるという。ディルは自身が凶悪な人物だと勘違いされているのを上手く利用し、底辺パーティーとともに成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...