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十一話 道具屋のおっさん、迅雷剣を試す。
しおりを挟む「お、これ結構軽いんだな」
迅雷剣はすぐに俺の手に馴染んだ。まるで運命の人と巡り合ったかのような心境だ。
この剣も感情があれば同じように思うだろう。我が主よ、あなたこそ私の持ち主に相応しい……と。かつて俺はただのお人よしな道具屋だったが今はまったく違うわけだからな。
「……も、モルネト君、そろそろエレネを返してほしいんだが……」
「はあ? いつ俺が返すって言ったんだよこのタコッ」
「……え?」
オルグの間抜け面が非常に面白い。鼻水は垂らしちゃってるし髪も乱れてるし、イケメン野郎だって思ってたけどこうして見るとただのブサイクだなこいつ。
「この剣をくれたらよー、こいつの首を切断しないでおいてやるってことだよ。それくらいわかれよボケナスが」
「……返して……くれ」
「……あ?」
「返してくれ。返してくれええええぇ!」
オルグの野郎が充血した目を見開いて飛び掛かってきた。
「クソッ! 気でも狂ったのか!」
「返せ返せ返せ! 君なんかには渡さない。渡しはしない……、全部……全部僕のなんだあああぁぁっ!」
「いい加減にしろゴミムシ!」
「ごばっ!」
俺の拳がオルグのほっそい顎にクリーンヒットした結果、やつはもんどりうって倒れた。俺よりガリガリの癖に暴れるからだ。
「ざまあみろ、自慢野郎が……」
「……う、うう……」
「ペッ……!」
サービスとして唾を顔に吐きかけて足で万遍なく広げてやる。追い打ちしないだけありがたく思えボケが。
「兄さん!」
「――あ、お前!」
エレネがオルグを庇うように覆いかぶさった。おいおい、兄妹愛でも見せつけるつもりか? あー、くっだらねえなあ。そんなもんなんの役にもたちゃしねーよ。糞を拭く紙以下なんだよ。
「おい、エレネ、どけよ」
「どきません……私の大事な兄なんです……」
「ほーん。あっそ。んじゃ二人とも丸焼きでいいな。そのあと串刺しにして店頭にでも飾っとくよ」
俺は鼻をほじりつつ、片手でおもむろに迅雷剣を振りかぶってみせた。
「え、エレネ、僕のためにすまない……。兄さんと一緒に死のう……」
「兄さん、ごめんなさい!」
「え……?」
俺が剣を振った瞬間、エレネが申し訳なさそうにオルグから離れた。わかりきっていたがこれがこの世の真実だ。
「ぎゃあああああぁぁっ!」
エレネに手を伸ばしながら焼け焦げて死んでいくオルグ。感動のシーンだ……と思ったが、感電で失神する程度だった。クソッ、大袈裟に叫びやがったから無様に死んでくれたもんだと思ったのに、なんだこのしょぼい雷は。この程度の威力なのか?
「おいエレネ、これはどういうことなんだ?」
「あの、モルネトさん、それはあなたのレベルが足りないからではないでしょうか……」
「あ?」
「ひっ、ごめんなさい。でも、レベルに応じた電撃を出せるのがこの武器の特徴なので……」
「レベル、ねえ」
そういや冒険者の間ではそんなものがあると聞いたことがある。俺は道具屋だから一生縁がないと思ってたが……。んじゃ俺もこの上等な得物でレベル上げするとしようか。一日が無限に続く以上、時間はたっぷりあるんだし、嫁もいる。飽きることはあるまい。
「……あ」
エレネと一緒に武器屋を出たわけだが、俺は大事なことに気が付いた。もう夜だった。しかもかなり雪が強く降ってきている。
思い出すなあ、昨日のこと。横殴りの雪が体と心の震えを一層強くさせていたのが、今ではエレネの小さい体から伝わってくる心地よい温もりをより感じるための舞台道具に過ぎないなんて……。
不思議なものだ。とはいえ、この厳しい状況下で街の外に出てモンスターと戦うのはちょっとな……。大体こんなことは想定してなくてポーションも持ってきてないわけだから条件としては厳しすぎる。
というわけで、俺は神様のところに行くことにした。もっとカード欲しいしな。最終的にはあの勇者パーティーも全員ぶっ殺したいし。それに、ほかにもやりたいことは沢山ある。二匹目、三匹目目と嫁を増やしていく案もあるんだ。
とにかく俺が王だ、俺が全てだ、俺がこの世の真実だ。
俺を舐めるなよ、愚民ども! ジーク! モルネト!
――えーっと、確か昨日、俺はこの道をまっすぐ歩いたんだっけ……。
「あ、あの、モルネトさん、どこへ……?」
「黙ってついてくりゃいいんだよ豚が」
「はぃ……」
「逃げたら、わかってるな。お前を……」
「は、はい。わかっています。滅多刺し、ですよね……」
「……よ、よくわかってるじゃないか」
「覚えました……」
「……」
これはいかんな。慣れてしまうと恐怖もぼやける。舐められたら終わりなんだよ。ここはもうちょっと演出しとかないと……。
「滅多刺しもいいが……お前のアソコから脳天にかけてこの迅雷剣で突き刺し、電撃を流すっていう手もあるな」
「……ひ、ひぃっ……」
「クククッ……」
エレネのやつ、露骨に肩を窄ませちゃって、効いてる効いてる。
「ほら、エレネの大好きな俺の唇だよ……」
「チュ、チュウゥ……」
困惑の色は隠せないが、俺の接吻をいとも容易く受け入れるエレネ。厳しくするだけだと却って逆効果になる場合もあるし、こうして甘いところも見せる必要があるんだ。これぞ飴と鞭ってやつだ。これでこいつは完全な俺の性奴隷ってわけだ……あー、人生簡単だなあ。
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