道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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六話 道具屋のおっさん、神様に出会う。

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 寒い寒い寒い寒い、寒い。さむいさむいさむい。サムイ……。

 慣れているはずなのに、今日の寒さはとにかく身に染みる……。でも、あのままオルグの世話になるよりは遥かにマシだった。

「――だったんだあ……」

「おーそうかそうか。偉いぞ……」

「本当にいい子ざますねえ……」

「……」

 家族を乗せた馬車が、幸せの余韻を残して通り過ぎていく。まるで自分など初めから存在していなかったかのように。俺は路傍の石なのか? そうなのか……? 俺にもあんな人生があったんだろうか。選択肢を間違えていなければ……。

 でも、俺は道具屋として母さんの跡を継ぎ堅実に生きていくつもりだった。決して他人に自慢せず、愚痴を吐かず、笑顔を大事にしながら人に尽くすように生きていくつもりだった。なのになぜこんな惨めな気持ちにならなければならないんだ……。

「畜生……うぐっ」

 母さん、ごめんよ。涙が止まらない。辛いときこそ笑わなきゃいけないのに、笑いたいのに、ごめんよ……。

 目が霞む。俺はいずれ歩き疲れて倒れ、誰にも看取られずに凍え死ぬんだろう。母さん、怒られるかもしれないけど、もうそっちに行かせてくれ。

 ……俺、疲れちゃったんだよ。あの鬼畜勇者たちの言う通りだった。力がないものは大人しく消えるしかないんだ。世の中ってのは、俺には少し厳しすぎたんだ……。

『甘えてんじゃねえぞ! アホンダラ!』

「……だ、誰だ……?」

 頭の中に何かが浮かんでくる。凄みのある笑みを浮かべる汚いおっさんが……ってこの顔、なんか見覚えが……。

『……俺ってかお前だよ。お前自身』

「……え……?」

 否定できなかった。それは本当に俺自身の顔だったからだ。しかし、俺にこんなにも邪悪に満ちた表情が作れるものなのか……。

『いいか、よく聞け。人間ってのはな、誰しも悪いところもあれば良いところもあるんだ。お前にも悪いところはいっぱいある』

「……そ、それがどうしたっていうんだ……」

『善人面してこの世が生き辛くなってきたんだったら、いっそ悪い部分を出してみたらどうなんだよ。開き直りやがれ』

「……悪い部分を、出す?」

『おう。自分に正直に生きろ。人生なんてみじけえんだからよ……。んじゃな』

「……」

 気が付くと、じんわりと体に熱が籠っていた。温かい……。これならまだ歩けそうだ。思えば、自分にも狡賢いところは沢山あった。あまりにも醜くて見ないようにしていたが、これが俺の味方をしてくれるというのか。幸せへと導いてくれると言うのか。それなら、思い切って自分を変えてみるのもありなのかもしれない……。

 というかここはどこだ? 凄い霧が出ていてまったく周囲の様子がわからなくなっていた。

 ……ん? 前方にぼんやりとした灯りが見える。誰かいるのなら助けを求めてみよう。

「――そこ、誰かいるのか?!」

「……いるぞい」

 ……お……いた。急いで向かってみると、つぎはぎだらけのローブを纏う胸まで伸びた白髭の爺さんがランプの横で胡坐をかいていた。手元にはカードがずらっと並べてある。裏返しになってるからわからないが、トランプか……?

「だ、誰だ、あんた……」

「わしか? 神様じゃ」

「……」

 そうか、頭をやられちゃったんだな。もう歳だし、この寒さだから仕方ないか。ホームレスに恵みを与えるほど俺には余裕がないし、立ち去るか……。

「わしはホームレスじゃないぞ」

「え?」

 心を読まれた? いや、それくらいのことは誰でも読めるだろう。

「んなことはないぞ、モルネト」

「……」

 ほ、本当に神様なのか……?

「ああ、本当だとも。童貞、処女しかわしの姿を見ることはできないがな」

「……」

 喜んでいいのか悲しむべきなのか、なんか複雑な心境だ。

「神様がこんなところで一体何を……?」

「見たらわかるじゃろー。暇じゃし、不幸な者を導いておる」

「童貞は不幸だとでも……?」

「その年齢で童貞はさすがに可哀想じゃろー……あ、冗談じゃからそんなに睨むでないっ……」

「……仕方ないだろ。俺に合う人なんていなかったんだから……」

「あれか? 引きこもりでもしておったのか? それなら確かに仕方ないの」

「……いや、ただ単に奥手だったから……」

「ふむふむ」

 ダメだ、神様だし見抜こうと思えば見抜けるよな。

「そりゃもちろんだとも」

「……やっぱりか。正直に言うよ。この年齢になって俺じゃもう厳しいだろうって諦めてて……。顔も悪いし、売れない道具屋で貧乏だし、小さいときから女の子と遊ぶ経験もなかったから……」

「んで理想も高いんじゃろ?」

「う……」

 さすが神様。痛いところを突く。

「理想が高いといっても、顔は普通でいいし、性格だって……」

「そんなの、そこら辺に転がっとるぞ」

「そんな、石みたいな言い方……。普通に落ちてるわけないし、仮に石だとしても厳しいんじゃないかな……」

「石ころみたいなおなごでも自分には釣り合わないと?」

「……コクリ」

「何故そう思うのだ?」

「……底辺道具屋だから。俺が底辺として生まれてきたから……。だから、合うやつなんてどこにもいない。割れ鍋に綴じ蓋なんて嘘だってことは自分が証明してる。初めから不幸なやつは不幸、幸せなやつは幸せだと決まっているんだ。いくらなんでも神様は不公平すぎる……」

「うむ。それはそうだな。わしに感情をぶつけて少しは落ち着いたか?」

「……」

「お前が思っている通り、この世は公平ではない。わしも悪戯好きでのー。努力してるやつをさらに甚振ることもよくあるのじゃ」

「サディストかな?」

「そういう側面もある。こうして、不幸な者の話を聞いてやるイケメンすぎる側面もな」

「自分で言うのか……」

「ホッホッホ」

 神様は愉快そうに笑った。もしかしたら少しは気に入ってもらえたのかもしれない。

「気に入ったぞい。お前がその年齢まで童貞だということも含めてな」

「……」

「だが、だからこそわしに会えたともいえる。これは幸運なことじゃよ」

「……え……」

「ホッホッホ。何か恵んでくれるのかって顔じゃな。プレゼントしてやってもいいが、中身までは保証せん。わしは腐っても神じゃからの。いいものをゲットするにはお前の幸運も必要になる」

「運……」

 考えてみりゃ今までの人生、ラッキーだなんて思ったことなんてあまりなかったような……。

「そりゃそうじゃよ。人はな、ラッキーなことがあってもすぐ忘れてしまう生き物なんじゃ。嫌なことはずっと頭に残る。そんなものじゃろ?」

「……確かに」

「じゃから、運がいいか悪いかはまだわからん。ほれ、ここにあるカードの中から一枚だけ抜きなさい」

「……じゃ、じゃあこれを……」

「……本当にそれでいいんじゃな?」

「はい」

「本当にじゃな?」

「はい!」

「……本当にじゃな?」

「しつこい」

「ホッホッホ。メンゴ。ではそのカードを捲りなさい」

「――こ、これは……」

 カードを裏返しにした俺は、とんでもないものを目にしてしまった……。
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