道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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二話 道具屋のおっさん、リンチされる。

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「やべてくれ……ひぐっ、もう、たにょむから……」

 ぐにゃぐにゃにひしゃげたカウンター、うつ伏せに倒れて折り重なった戸棚、床一面に散乱したポーション瓶の破片、壁一面につけられた無数の切り傷や凹み……俺の道具屋はもう滅茶苦茶になっていた。

「なんで……なんで、こんぬぁ酷いことを……」

 この勇者パーティーは、たかが道具屋に過ぎない俺に一体なんの恨みがあるというんだ……?

 割れた硝子の破片に映る俺の顔面は腫れ上がり、涙と鼻水と鼻血でボロボロになっていた。勇者のクリスに羽交い絞めにされて、あのライラとかいう筋肉隆々の女戦士に一方的に殴られたんだ……。

「ふう。すっとしたよ……」

「悔しいか? 道具屋のおっさん。感想頼むわ」

「……なんで……なんでこんなことを……」

「あ? お前おんなじことばっか言いやがってオウムか? 楽しいからに決まってんだろうがカス。勇者だって人間だしよぉ、屑行為も隠れてやるに決まってんだろ? そんなこともわからないなんてアホかよ。お前、まさか可愛い女の子はウンコしないなんて考え方か? いくらなんでもピュアすぎんだろ……」

「クリス、そこは察してあげたら? どうせ童貞なんでしょ。いい歳こいてきもすぎ」

 僧侶ミヤレスカが冷たく言い放ち、笑い声がしばらく続いた。童貞の何がいけないんだ。何がそんなに面白いっていうんだ……。

「頼む……頼むから解放してくれ……」

「頼むから解放してくれえ(キリッ、だってよ。みんな、どうする?」

「きゃははっ。ねえねえ道具屋のおじさん、まさかここ飛び出してさー、町のみなさんに勇者パーティーにやられたーって、告げ口するつもりなのです? そんなの誰が信じるのですかー?」

「……」

 ミヤレスカの台詞後に俺が黙り込んだのが笑いのツボにはまったらしく、また大きな笑い声が上がった。……俺だって、今日まではまさか勇者パーティーがこれほどろくでもない連中だとは思わなかったし、きっと誰も信じてくれやしないだろう……。それでも逃げたい。早くここから逃げ出したい……。

「いいねえ、その悲壮感に満ち溢れた顔……。たまらない、たまらない……」

「うっ……」

 アルタスという魔術師がトロンとした目で見つめてくるのもたまらなく嫌だった。なんなんだこの男は……。

「悲しいよなあ、道具屋のおっさん……。カワイソウ、カワイソウ……。けどよぉ、これが現実なんだよ? いい経験になったんじゃねえの? 誰も知らないところでよ、みんなお前のこと笑ってんだよ。底辺の道具屋さんってさ。なあゴミ。つまり、俺たちはゴミは一生ゴミっていう現実をあえて教えてあげた親切な人たちってわけだ。わかるか?」

 何を言ってるんだ、このクリスとかいう男は……。こんなのが本当に勇者だというのか……?

「おい、返事しろ!」

「は、はいいぃ! わかりましたあっ!」

 俺の声が裏返っていたのが面白かったのか、一層盛大な笑い声が上がった。俺は運が悪かっただけなんだろうか。こんなどうしようもない連中に玩具にされるなんて……。

「――ど、道具屋のおじさん、どうしたんですか!?」

 誰かが入ってきたと思ったら、いつもここのポーションを買ってくれる馴染みの客だった。両耳が垂れ下がった白兎の帽子がキュートな金髪お下げの女の子だ。

「に、逃げ……もがっ……」

 勇者クリスに口を塞がれてしまった。

「もう大丈夫だぜ、お嬢ちゃん」

「……え? あ、あなたは、まさか……勇者様!?」

「ああ、街中の噂なんだってな。俺は勇者クリスだ」

「あたいは戦士ライラ」

「我は魔術師アルタスである」

「私は僧侶ミヤレスカです……」

「す、凄い、勇者パーティーがこんなところまで来てたなんて……でも、なんでお店の中がぐちゃぐちゃになってるんですか……?」

「聞いてくれ。このおっさん……いや、道具屋さんがうちの僧侶に悪戯しようとしてさ、やめてほしいってお願いしたら暴れちゃって、今なんとか取り押さえたところなんだ……」

「ぐ……ぐむっ……」

 畜生。なんてことを言うんだ。でも、この子がそんなの信じるわけがない。いつも笑顔で買い物してくれる優しい子なんだ……。

「本当に、そんなことを……?」

「本当だって。ほら、ミヤレスカだって泣いてる」

「……ぐすっ。いいんです。触られるくらい、私は気にしてませんから……」

 こんな見え透いた芝居、信じるワケ……。

「最低ですね」

 ほら見たことか、最低の勇者パーティーめ。この子はちゃんとわかってくれてるんだ……。

「いつもカウンターのほうからジロジロ見られててちょっと不愉快だったんですが、そういうことだったんですね……。ぞっとしました。もうこんな店来ません。さよなら!」

 そ……そんな……。バタンと乱暴に扉が閉められる音が、こんなにも心に響くなんて思わなかった。

「……う、うぅ……」

「おい、見ろよこいつ泣いてるぜ! おっさんがガキみてえにボロボロ涙流してよぉ。かー、マジみっともねえ……」

「さすがは童貞ですねっ。さっきの子、本当に可哀想です。こんな汚物に毎日ジロジロ見られて、さぞかし辛かったでしょうね……」

「おい、これでわかっただろ、ゴミクズのおっさん。もしお前が若くてイケメンだったら、少しは信じてくれたかもな? あの子がお前を信じる要素なんて何一つありゃしないんだよ。いいか? 本当に大事なものは目に見えないなんていうやつがいるが、ありゃあ大ウソだ。目に見えるものこそが全てだ。それがよくわかっただろうが」

「……」

 ……本当にそうなのか? 俺は間違っていたというのか……?

「あ! あたし、面白いこと考えたよ。こいつを外に連れ出そうよ」

「……何をやるつもりだね、ライラ? しかしこのおっさんの表情、いいね……たまらん……」

「おいアルタス、お前そればっかりだな」

「きゃははっ!」

 勇者たちの鬼畜な笑い声が遥か遠くに感じた……。
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