道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

文字の大きさ
上 下
1 / 66

一話 道具屋のおっさん、理不尽な目に遭う。

しおりを挟む
 俺は道具屋を営んでいる、極フツーの35歳のおっさんだ。

 道具屋っていうのはずっとカウンターに立ってるだけの印象があるみたいだが、実は全然違っててとにかくやることが多い。

 素材収集、薬草等の買い出し、ポーション精製、倉庫整理、道具点検、掃除、収支決算……あと、雪が降る町なので朝から雪かきに追われることもある。

 もう一つ、最高に大事なのが笑顔だ。これがなかったらお客さんに敬遠されるから致命的だろう。俺は男だが、なるべく愛想よく振る舞うようにしている。

 自身が落ち込んでるときや体調が悪いとき、ましてや客の態度が凄く悪いときでもそれをやり遂げるのは難しいが、無理矢理にでも笑ってみせる。そうすると、ほんの少しだが前向きになれるんだ。大体笑顔なんてタダなんだから出し惜しみはしない。

 ん、まだ朝の8時なのになんか外が騒がしいな……と思って窓を見たら、四人の勇者パーティーがいた。

 美麗な顔をした勇者の青年が先頭で、周囲に赤いマントとドヤ顔をちらつかせながら歩いてる。ちょっと偉そうだが、やっぱり恰好いいなあ。

 そのあと、少し間隔を開けて露出の多いムキムキの女戦士が続いたが、なんか不愛想だった。機嫌悪いのかな? ビキニアーマーを強引に着せられてて恥ずかしいからとか……。

 続いてやってきた魔術師の男は、なんかやたらとだらけていて眠そうにしている。着ているローブもよれよれだ。観衆のほうも欠伸しながらぼんやりと見てるし、やる気を全然感じない。

 最後に歩いてきた僧侶の少女は、ゆっくり歩きつつ穏やかな微笑みを周囲に投げかけていて好感が持てた。地面まで届きそうな長髪がなんとも印象的だった。

「勇者様ー!」
「こっち向いて-!」
「「「キャー!」」」
「……」

 それにしても凄く盛り上がってるなー。女の子はみんな黄色い声を上げながら後を追いかけ回してる。

 そういや、町じゃ一週間前から勇者パーティーが来るってお祭り騒ぎしてたんだっけ。俺は道具屋の経営で毎日手一杯だったせいか、あれからもう一週間が過ぎていたことに今初めて気付いた。

 近くの山の頂に伝説の剣が眠ってるらしくて、それを勇者パーティーは狙ってるようだ。

 あそこは屈強なスノードラゴンが何匹も出てくるんだよな。縄張り意識が強くて山に近付かない限り襲ってこないが、運が悪いと遭遇して食べられてしまうんだ。

 勇者はよくあんなところに行けるなあ。あそこはエリクサーっていう凄い回復剤の材料になる花があるんだ。伝説の剣には興味ないが、花は欲しいなあ……。

 そういや俺も子供の頃、勇者になってその剣を抜くんだとか思ってたっけ。でもあれって、なりたくてなれるもんじゃないらしい。なんか召喚がどうの血筋がどうので、とてもじゃないが俺みたいなただの一般人じゃお払い箱ってわけだ。

 ……あ、走ってた子供が転んだと思ったら、僧侶の子が透かさずヒールをかけて歓声が飛んだ。優しいなあ。

 って、あれ? なんか勇者パーティーがこっちのほうに来るんだが……。まさか、この道具屋に来るのか? こうしちゃいられない。すぐにカウンターに戻ったが、足の震えが止まらなかった。35歳にもなって、情けねえな。いよいよベルの音とともにドアが開いて、緊張は最高潮に達した。

「――い、いらっしゃい!」

 よしっ、少し噛んだがちゃんと言えた。

「……」

 なんだ? 勇者が入ってきたんだが、何か様子がおかしい。まるで俺が初めから存在しないかのように、視線を一切合わせずにきょろきょろと店内を見渡し始めた。

 急いでるんだろうか? あ、ポーション瓶に手を伸ばした……かと思うと蓋を開けて口元まで運んだ。なっ……俺が唖然とする中、腰に手を置いて一気に飲み干してしまった……。

「ふう……」

「あ、あの!」

「……」

「あの、勇者さん!」

「……あ?」

 ……やっと反応してくれたと思ったら睨みつけられた。な、なんなんだ。この人すっごく態度悪いんだが……。

「お金を……」

「は? 俺様は勇者なんだからタダでいいだろ」

「え?」

「はあ。田舎の道具屋ってどいつもこいつもケチなんだよな。お前みたいに」

「え、えっと……お金を……」

「でも田舎の道具屋の女店主なら処女で可愛い子いるかもしれないって思ってさ」

「あ、あの……」

「んで、入ってみたらこれ。ホント哀しくなる。そりゃポーションくらいタダで飲みたくもなるだろ」

「えっと……」

「お前しつこいな。モテないだろ?」

「……」

「しかも童貞だろ? 可哀想になあ。そりゃケチにもなるか。俺はな、ガキの頃から勇者だし、んでこの美しい顔だろ? モテまくって色々手出してきたんだけど、化粧が濃い女には飽きてるわけよ、もう」

「……」

 な、なんか凄く嫌な客だが、笑顔だけは維持だ……。

「お前、何ヘラヘラ笑ってんだよ。そんなんだからモテねえんだよ」

「……」

「女ってのはよ、媚びるよりも睨みつけるくらいのほうがアソコが濡れるらしいぜ?」

「えっと……黄ポーション一つ100ゴールドになります!」

「ほらよ」

「……」

 勇者の足元に銀貨が一つ転がった。もしかして、取りに来いってことかな。

「早く来いよ。いらねえのか?」

「あ、いえ!」

 カウンターを乗り上げて急いで拾いに行ったら、銀貨を踏まれてしまった。

「あ、あの……」

「ん?」

「靴を舐めろよ底辺道具屋。そしたらどかしてやる」

「……」

「いらねえのか? じゃあいいや」

「あっ……」

 銀貨を拾ってポケットに仕舞い込む勇者。まさか、勇者がこんなならず者だったなんて……。

 あ、今度は女戦士が入ってきたと思ったらまた無造作にポーションを掴んで飲み始めた。

「ライラ、この道具屋、全部タダでいいんだってよ」

「あっそう。てかこれ不味っ。ブエッ!」

「……」

 床にポーションの中身を盛大に吐かれてしまった。もう笑顔を保てそうにない……。

「おいおい、クリス、また一般人を泣かしているのかね……」

 ……こののんびりとした声、あの魔術師の男っぽいな。まともっぽいが勇者や戦士の横暴を止める気配はなかった。

「アルタス、おせーぞ」

「――クリス、ライラ、アルタス。もうっ、私一人置いていかないでください!」

「ミヤレスカ、おめーがおせーんだよ……」

 凛とした声がして頭を上げると、あの僧侶の子が慈愛に満ちた表情で俺に手を差し伸べるところだった。ミヤレスカっていうんだな……。

「私が来たからには、もう大丈夫ですよ……」

「あ、ありがとう……」

 俺が握ろうとしたミヤレスカの手が寸前で離れていく。え?

「何この人っ……。たかが道具屋のおっさんのくせに、私の手を握るつもりだったんですか? まあー、なんて汚らわしい畜生なのでしょう……握手なら足でしてあげますっ!」

「えっ……」

 空振りした俺の手は、思いっ切り踏まれていた。

「いだああああっ!」

「――ヒールッ、ヒールッ、ヒールウゥゥッ!」

「うぎぎぎいいぃっ!」

 踏まれたままのヒールという、激痛と回復の繰り返しに悶絶し、地獄を垣間見る。しばらくしてようやく解放されたが、精神的なショックのほうがでかかった。なんでこんな酷いことをするんだ……。

「おいおい、ミヤレスカ。このおっさんは君に期待していたみたいだし、さすがに可哀想ではないのかね。我の病気を再発させないでくれたまえ……」

 アルタスという魔術師の股間が見る見る盛り上がっていく。……え……?

「きゃははっ。アルタスってホントに変態ですねー。ねえ、みなさん、今日はこのおっさんを弄り倒しちゃいましょうか」

「うむう、それはいい。たまらん、たまらん……」

「お、いいねえ、あたいも田舎の糞不味いポーション飲んでむかついてたんだよ」

「ま、ドSのミヤレスカやド変態のアルタスと違って俺は女の子のほうがいいけど、たまにはこういうのもいっか」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

勇者パーティーを追放された召喚術師、美少女揃いのパーティーに拾われて鬼神の如く崇められる。

名無し
ファンタジー
 ある日、勇者パーティーを追放された召喚術師ディル。  彼の召喚術は途轍もなく強いが一風変わっていた。何が飛び出すかは蓋を開けてみないとわからないというガチャ的なもので、思わず脱力してしまうほど変なものを召喚することもあるため、仲間から舐められていたのである。  ディルは居場所を失っただけでなく、性格が狂暴だから追放されたことを記す貼り紙を勇者パーティーに公開されて苦境に立たされるが、とある底辺パーティーに拾われる。  そこは横暴なリーダーに捨てられたばかりのパーティーで、どんな仕打ちにも耐えられる自信があるという。ディルは自身が凶悪な人物だと勘違いされているのを上手く利用し、底辺パーティーとともに成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...