A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し

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36話 苦し紛れ

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「「「――はぁ、はぁ……」」」

 四つん這い状態の三人――剣士ゴート、戦士ロナ、白魔導士カリン――の荒い呼吸が響き渡る。

 そこはベグリムの都からやや離れた場所にあるエルネスの沼地であり、デビルワームという巨大なミミズたちの住処として知られていた。

 デビルワームはDランクモンスターではあるものの、しぶといだけでなく俊敏で、さらに高頻度で出現するため、腕自慢の上級パーティーにとっては恰好の狩場でもあった。

 そこで、【風の紋章】パーティーが前回の件で失った名誉を挽回しようと、デビルワームの心臓を集めるというB級の依頼を受けてここへ向かったわけだが、やはり今回も些細なミスがきっかけとなり、戦闘を中断せざるを得なくなったのだ。

 一つのミスがさらなるミスを生み出すという悪循環を断ち切れず、その結果体力を激しく消耗する羽目となり、18匹目を倒したところで日も暮れ始めたため、今日中にデビルワームを50匹全部倒し終わるのは極めて難しい状況となった。

「チッキショウ、なんなんだよもう……。ちょっと手が滑って一匹倒しそびれるまでは、滅茶苦茶順調だったってのによおぉっ……!」

「ほ、本当だねえ……でも、これくらいのミスは今までだってあったのに、どうしてここまで上手くいかないんだろ……」

「た、確かに。おかしいですね……」

 三人はしばらく考え込んだ表情をしていたものの、何もわからなかったのか揃って首を左右に振った。

「ってか、これからどうしよう、ゴート様、カリン……今日はもう疲れすぎてこれ以上戦うのは無理っぽいよ。さっきから回復魔法を受けてるのに疲れが全然取れないし、腕だって痺れて上がり辛くなってるし……」

「わ、私ももう、これ以上は限界です……。油断すると目眩がして倒れそうになりますし、討伐の続きは明日にしませんか……? 朝早く起きれば、なんとか夕方までには間に合いそうですけど……」

「いや、ロナ、カリン、何弱気なことを言ってるんだ……!? 俺たちはなあ、低級の依頼をこなしてるわけじゃねえんだぞ? 明日だとクオリティ的にB級の依頼を達成したとみなされるかは微妙だから、絶対に今日中に終わらせるんだ! お前ら、A級パーティーの誇りを持って戦えーっ……!」

「「はあ……」」

 それからゴートたちは執拗にモンスターに向かっていったが、全身泥まみれになりながら3匹倒すのがやっとで、やがて諦めたのか項垂れつつ都へと帰り始めた。

「――ぜぇ、ぜぇ……。な、なんなんだよ……なんなんだよこの状況はよ……! 俺たちには間違いなくA級の実力があるっていうのに、もどかしすぎるぜ。焦りが焦りを産む負の連鎖ってこのことだな!? はあ……あと29匹も残ってやがる……クソクソクソクソッ……!」

 鬼の形相で何度も剣を振り回すゴート。

「ゴ、ゴート様ぁ、気持ちはわかるけど、そんなに焦らないでっ」

「はあ? ロナ、これが焦らずにいられるかってんだよ!」

「ほ、ほら、あたしたちって運が悪すぎると思うし、もしかしたら【時の回廊】パーティーじゃなくてこっちが呪われてるのかも……」

「……お祓いが必要かもしれないですねぇ……というか、正直、この調子だと……明日中に達成するのは絶対無理だと思います……あ、ごめんなさい……」

「「「……」」」

 カリンがあまりにも厳しい現実を口にしてしまい、これでもかと顔を歪める三人だったが、まもなくリーダーのゴートがはっとした様子になった。

「そ、そうだっ、いいこと思いついたぜ。証明用のデビルワームの心臓なら、解毒剤や高級ポーションの材料だから売ってるところもある! それを微妙に混ぜて、数をごまかせばいい!」

「ゴ、ゴート様、そんなことしちゃって本当に大丈夫なの? 確か、証明用だと新鮮なものじゃないとダメなんじゃ……」

「リ、リーダー様……? もしバレたらかなりまずいことになるかと思いますけど……」

「大丈夫だって、ロナ、カリン! 心配すんな。なんせ本物の心臓もそこそこ混じってんだからバレやしねえ。さー、そうと決まったらとっとと買いにいこうぜ! もちろん、とびっきり新鮮なやつをな!」

「「……」」

 ロナとカリンがいかにも不安そうな顔を見合わせたものの、まもなく黙ってうなずき合い、ゴートの背中を追いかけるのであった……。
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