32 / 37
32話 罪滅ぼし
しおりを挟む「こ、これは一体どうしたっていうんだい!?」
「ど、どういうことだよ、これは!?」
「や、やっぱりお前の仕業だったのか……!」
「あ……」
メルルが失神してまもなく、ラダン、バルダー、キールの三人がテントの中に飛び込んできた。
確かにこの状況じゃ疑われるのも仕方ないか。誰がどう見たって、俺が襲う目的でメルルのテントに押し入ったように見えるだろうし。
ただ、実際には犯人じゃないのでただちに弁解する必要がある。
「いや、待ってくれ。違うんだ、これは――」
「――モンド君、どうしてこんな。信じてたのに……」
「チッキショウ! モンド、てめえはなんてことをしやがるんだ!」
「モンド、お前が犯人だとわかった以上、絶対に逃しはしないからな……」
「……」
ダメだ。取り付く島がないし、簡単には信じてもらえそうにもない。
どうしようか……。とりあえずこいつらを倒してここから逃げるか。でもそんなことをしたら悪い噂を流される可能性が高そうだ。ただでさえゴートたちにそういうことをされているわけで、今後は仕事がますます減るかもしれない。
それでも、ここで捕まって兵士に引き渡されるようなことがあれば、それこそ噂どころじゃ済まなくなる。どこへ行っても犯罪者として後ろ指をさされるわけで、冒険者としては完全に終わりといってもいい。
となれば、やはり強行突破して逃げるしかないか。しばらくベグリムの都にはいられなくなるだろうが、別の都に行くっていう選択肢もあるしな……。
「――ま、待って……」
重苦しいほどの緊迫感と沈黙に包まれる中、メルルの小さな声が響いた。
「モンドおにーちゃんは悪くない。全部、私が悪いの……」
「「「「メルル……?」」」」
これはかなり意外だった。俺が暗黒状態からメルルに施した光魔法――疑似白魔法――によるショック療法で精神が正常になったとはいえ、本当のことは言い辛いだろうと思いきや、まさかこうも早く罪を認めるとは……。
彼女は頬を濡らしながら立ち上がった。
「実のお兄ちゃんがね、夢の中に出てきたの……。もうこんなことはやめてくれって。僕もそろそろ大人になるからって……」
「そうか、妹のためを思って兄が一肌脱いだのかもな。それじゃ、メルルもその思いに応えなきゃダメだぞ」
「うん……。お兄ちゃんが大人になったから、今度は私の番。みんな、ごめんなさい……」
それから、メルルは何故依頼の妨害をしていたのか、事の経緯をみんなに話すことになった。たどたどしくもしっかり話せてたし、もう彼女についてはほとんど心配いらないだろう。
問題は、今まで散々呪いという名の妨害を受けてきた仲間たちがどう思うかだ。
「――というわけなの……」
「「「……」」」
メルルが話し終わった途端、血相を変えて前に出てきた男がいた。
「メルル……お前っ……!」
「はうっ!」
キールがメルルの頬を勢いよく張ると、バルダーが慌てて止めに入る。
「お、おいキール、やめろって!」
「バルダー、放せっ! おい、メルル、お前自分が何をやったか、本当にわかってるのか!? ふざけるなよ、遊びじゃねえんだぞ!」
「ひっく……ごめんなさい……。気のすむまで殴って……殺してもいいから……」
「じょ、上等だあぁっ!」
「だから、よせってキール!」
「は、放せって言ってるだろ! バルダー、お前は悔しくないのか!?」
「バカ言うんじゃねえ、キールッ! 俺だって悔しいに決まってるだろ! でも、メルルを殺したところでなんにも解決しねえじゃねえか。それとも、仲間を失ってまた依頼に失敗してもいいっていうのか!?」
「くっ……」
確かにバルダーの言う通りだ。キールも少しは納得できたのか、悔しそうにしつつも下を向いた状態で暴れなくなった。
「けどよ、俺にはキールの気持ちが痛いほどわかるし、メルル……お前には心底失望したぜ。可愛い妹みたいに思ってたってのによ……」
「ぐすっ……ごめんなさい……ごめんなさい……私を殺せないなら、依頼が終わったあと、このパーティーを抜けるから、だから、許して――」
「――それだけは許さない、メルル」
その言葉を発したのは、それまで難しい顔で黙って聞いていたリーダーのラダンだった。
「……ラ、ラダン……?」
「自分だけ逃げるのは絶対に許さない。今まで妨害してきた分だけ、君には償ってもらう」
「で、でも、みんな私を許せないと思って……」
「もちろん、簡単に許せるわけがないさ。僕だってそうだ。はらわたが煮えくり返ってる」
「……」
「けど……時間が解決してくれるかもしれない」
「時間、が……?」
「そうさ。みんなが君にこれだけ憤りを覚えてるってことは、メルルのことをそれだけ信頼してたってことなんだ。覚えてるだろ? どうしてこんなパーティー名になったのかを。いくら歩いても何も変わらない、果てしないと思える状況でも諦めずに進むことで、いつか僕たちが時代を動かす寵児になる、そんな意味が籠められてる。だから、どんな状況からでもやり直せるはずだ。みんなで、一から……」
「……」
吟遊詩人ラダンの歌うような言葉は、俺の胸にも響き渡るようだった。臨時メンバーにすぎない自分でさえそうなんだから、それまで仲間だった者たちには相当な重みとして響いたに違いない……。
13
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる