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28話 異次元
しおりを挟む俺たちは夜が明けてからも、森の中を延々と歩き続けた。
いつの間にか雨もすっかり上がり、夕陽が射し込んできた頃、それが合図になったかのように俺を含めて誰もが足を止めることになった。まったく同時といってもいい。
それだけ、一日中歩き切ったこともあって、みんなの休みたいっていう気持ちが一つになっていたんだと思う。そうして、俺と【時の回廊】パーティーは遂に最後のキャンプをする運びとなった。
「「「「「……」」」」」
薪を集めて火を囲みながら食事をする間も、俺たちは沈黙によって支配され続けた。さすがに誰の表情を見ても疲労の色合いが濃いのが見て取れる。
あたかも依頼に失敗したかのような湿っぽい雰囲気だが、実際のところは順調すぎるほど順調なんだから不思議だ。
あとはこのキャンプさえ無事に乗り切ることさえできれば、バラモ森林の入り口は目前に迫っているということもあり、依頼は攻略したといっても過言じゃないだろう。
「――ふわあぁ……私、先に寝るね、おやすみなさい」
辺りがすっかり暗くなってきて、最初に動いたのはメルルだった。
「あ、おやすみ、メルル……って、もうとっくにいないし!」
ラダンがいかにもびっくりした様子で周りを見渡してる。確かにメルルの立ち去るスピードはやたらと速かったな。目も虚ろだったしそれだけ眠かったんだろうか。
「……んじゃ、俺もそろそろおいとまさせてもらうぜ」
次に立ち上がったのはバルダーで、なんとも気怠そうな表情でその場をあとにした。
「「「……」」」
そこに残ったのは、俺とラダンとキールの三人だけだ。
いつもは俺が最初に就寝していたせいかなんか変な感じだが、力を隠していたことがみんなにバレた以上、多少我慢してでも起きているべきだと思ったんだ。
「……つ、遂に、攻略だ……」
ラダンが何か呟いてると思ったら、座った状態で目を瞑っていて寝言を吐いてるようだった。彼も相当疲れてたんだろう。
これで今起きているのは俺とキールのみ。
「「……」」
それからかなりの時間が経過したように思えたが、キールはまったく寝る気配がなかった。
「――キール、あんたもそろそろ寝たらどうだ?」
「いや、モンド……俺はお前が寝るまで、絶対に眠ることはない……」
「……」
本当に強情なやつだ。
「やっぱりキールは俺が一番怪しいって思ってるのか?」
「……いや、もしお前が犯人だった場合、一番厄介だと思うからだ……」
「な、なるほど……。でもさ、思い返してみてくれ。今までのキャンプは俺がいつも先に寝てて、みんなが寝た頃には起きてたわけなんだよ。俺が犯人なら、どうしてそのときに妨害しなかったんだ?」
「ふん……まさかそれで言い逃れできたつもりでいるのか?」
「いや、俺のやってきたことはむしろ妨害行為とは逆の行動だろう? なんで妨害している側がパーティーを助けるんだ?」
俺が立て続けに疑問をぶつけてやると、意外にもキールは炎越しにニヤリと笑ってみせた。
「モンド……お前は自覚がないのか、それともとぼけているのかは知らないが、どう見ても異次元の強さを誇っている。だから、常人には理解できない思考の持ち主かもしれない。愉快犯的に、俺たちの狼狽振りを楽しんでいたという見方もできるわけだ……」
「……そうか、わかった。そこまで言うなら俺が先に寝るよ」
キールの論調だと、どんな言葉を投げ返しても無駄だと感じる。そういうわけで、俺は溜め息とともに立ち上がると自分のテントへと向かった。
「……」
その際、テントまで少し時間があるってことで思考してみる。正直、このメンバーの中で誰が最も犯人として相応しいかっていうと、それはキールのように思えるんだ。
普通に考えたら彼が犯人だから、この状況で先に寝るのは危険かもしれない。俺は半分眠った状態を維持できるとはいえ、本気を出した相手の奇襲に対応できるかどうかは疑問だった。
だが、俺の勘はキールが犯人であると訴えてこない。
それどころか、全員が敵ではなく味方だといってるような感じなんだ。これは一体どういうことなんだ?
それだけ、二面性を持つ犯人なのか。あるいは、ほかに犯人がいるとでもいうのか。それとも、呪いっていうのは人ではない何か別のものだったのか……。
いくら考えても答えが出ない、そんな異次元の奇妙さに浸りつつ、俺はテントの中へと入った。いずれにせよもうすぐ決着がつくことは確かだ。
誰が犯人だろうと、必ず朝までには動くはず。【時の回廊】パーティーに居座ってきた呪いを、俺が絶対に解き放ってみせる……。
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