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20話 制御
しおりを挟むあれから俺と【時の回廊】パーティーは、至って順調に森の中を進んでいた。
「はっ……」
先頭を歩いていたキールが、ふと我に返った様子で立ち止まる。
「どうしたんだい? 何かあったのかな、キール?」
「おう、どうしたんだよ、キール?」
「キール、どうしたのぉ?」
「どうしたんだ?」
「……い、いや、なんでもない」
俺たちの声かけに対してキールがそう淡々と返し、何事もなかったかのように再び歩き始める。
でも、俺には彼が立ち止まった理由がよくわかっていた。
索敵を担当するキールが不思議に思うのも当然で、今朝出発してからモンスターが出てくる気配がまったくないからだろう。ただ、エンカウントしない状況がこれくらい続くというのはまったくありえないってわけでもないので、意図的なものだとは気付くまい。
そう、モンスターが出てこないのは、俺があらかじめ消しているからだ。
どうやってモンスターの発生を抑えてるかっていうと、出現しようとしている位置に俺がタイミングよく光魔法を放ってるんだ。
一部例外もあるが、モンスターは光魔法が少しでも生じている場所に発生するのを避ける習性があって、どんなに低魔力なものでも出現することを忌避する。
これによって俺は自分の力を発揮しつつ力を隠せるし、討伐対象のカースフラワーがいるバラモ森林の奥地まで最短距離で進むことができるってわけだ。
「……」
さあ、あとはひたすら森の奥を目指して歩を進めるだけ――そう思った矢先、俺は違和感に気付いた。
これは、まさか……いや、やはりそうだ。ほんの少しずつ、俺たちの進んでいる方向が右側にズレているのがわかる。
このまま行けば、グルグルと同じ道を回り続けて依頼の達成が大幅に遅れる羽目になるだろう。これこそ例の呪いに見せかけた妨害行為に違いない。
しかもこれ、ここにいる全員に可能なことだ。
シーフのキールであれば自身の方向感覚を少しずらしてやればいいだけだし、戦士のバルダーは闘気を使えば対象の手元や足元を微妙に狂わせることができる。
吟遊詩人のラダンの場合、不穏の歌で敵の技術を下げることができるそうだし、白魔導士のメルルはデバフによって集中力を削ることで可能になる。
つまり、妨害行為をしていると気付かれたとしても、誰がやってるのかわからないようにしているわけだ。そこまで考えてるなんて、こりゃ相当に手強い相手だな……。
「モンドおにーちゃん、さっきからむっつりしちゃって、何を考えてるのぉー?」
「あ、いや、なんでもないんだ……」
白魔導士のメルルに目をつけられてしまった。
「ほんとにぃ?」
「ほ、本当だよ」
「ふーん……もしかして、エッチなこと考えちゃった? 今度こそ、しようね……」
「えっ……」
「ダメ……?」
「……き、気分がよかったら……」
「わーいっ」
「……」
メルルにとんでもないことを呟かれてしまった。本当に積極的な子だな……。
って、今はそれどころじゃない。
俺はズレてしまったパーティーの進路を戻すべく、密かに風魔法を使うことにする。魔力が低いので大した風じゃないが、魔法によるものだから方向を少し戻すくらいなら容易にできるんだ。体感的にはそよ風程度なので、俺以外気付くことはできないだろう。
現在進行形で妨害している犯人が、方向をズラすことができていると思い込んだまま、目的地へと辿り着くはずだ。
ただ、まったくモンスターが出てこないのはさすがに不自然ってことで、しばらくは発生を抑えないことにした。
『『『――ギャアアアァッ!』』』
やがて三匹の人面プラントが襲ってきたが、メルルがデバフをかけたのち、キール、ラダン、バルダーの総攻撃であっという間に撃退した。みんな凄い勢いだったし、相当に戦いに飢えてたみたいだな……。
「ふう。久々にいい運動になったな! モンスターのやつ、全然出てきやがらねえし……」
「フフッ。てっきり、僕にビビッてるのかと思ったよ……」
「はあ? ラダンにびびるやつなんかいるわけねえだろ!」
「私もそう思うの……」
「俺も……」
「む、むうぅっ。モンド君まで同意するなんてっ。で、でもきっとキールなら、彼なら否定してくれる――」
「――いや、俺も普通に同意だ」
「ぐぐっ! これでも僕は一応リーダーなのにいぃっ……!」」
こんな具合に和やかな空気が漂う中、俺は呪いを破ってる張本人だと犯人に気付かれないよう、風魔法をしばらく出さないでおく。
それからしばらく歩いて、夜が近付いてきたこともあって再びキャンプをすることに。
やはりバラモ森林は広大といわれるだけあって、最短距離で進んでいるにもかかわらず中々奥地へ到達しないが、この調子なら明日にでも辿り着けるんじゃないかと思う。
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