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10話 恥曝し
しおりを挟む「「「はぁ、はぁ……」」」
洞窟ダンジョンから命からがら脱出した、ゴート、ロナ、カリンの三名。
しかし、彼らの姿は誰が見てもボロボロの状態で、今にも倒れそうなほどぐったりとした様子であった。
白魔導士のカリンがデスフロッグの消化液で顔面を負傷したことで、周囲を照らしていた彼女の白魔法が消えてしまったため、彼らは転んだり壁にぶつかったりしながらも慌てて退却せざるを得なかったのだ。
「ち、畜生……心臓集めが終わるまであとほんの少しだったってのによ……! おいカリン、早くその顔治せっ! 右半分が溶けちまってるぞ!」
「そ、そうよ、カリン! 依頼を達成するスピードも大事なのよ!? あたしたちは討伐途中なんだから足引っ張らないで、さっさと治してよっ!」
「……わ、わかってますって……! あ、あれれ……?」
「おい、どうした、カリン、何やってる!? 勿体ぶるな!」
「そうよ、カリン、早くしなさい!」
「……で、できないんです。いくら回復しようとしても……」
「「え……?」」
カリンは自身のただれた顔に治癒魔法をかけるが、何度試行しても一向に治らないことに気付いた。
「どうして治らないのか見当もつかなくて……。以前だったらこれくらいの損傷、すぐ回復できたのに……あ……」
「「カリン……?」」
不意にはっとした顔になるカリン。
「そ、そうでした……。以前モンドさんから、なるべくリラックスすることができれば白魔法は上手くいくって教えてもらったんでした……!」
「「はあ……!?」」
「な、なんでもないんです! 今のは聞かなかったことにしてください! えっと……リラックス、リラックス……できた!」
まもなく、カリンの溶けた右半分の顔が元に戻っていく。
「お、よくやったじゃねえか、カリン! でもかなり時間をロスしちまったから、休んでる暇はねえ! とっとと行くぞ!」
「ほら、行くわよ、カリン!」
「は、はい!」
三人は駆け込むようにして再び洞窟ダンジョンへ突入したわけだが、しばらくしてまた外へと戻って来る羽目になった。
その原因は、回復魔法で元に戻ったはずのカリンの顔半分で、今や醜くただれている有様であった。
「お、おい、ふざけるな、カリン! どういうことなんだよ、全然治ってねえじゃねえか!」
「そうよ、しっかりしてよ、カリン! 一体どうしちゃったの!? あなたらしくないわよ!」
「そ……それはこっちの台詞です……」
「「え?」」
「そもそも、お二人があの蛙のモンスターを仕留めきれなかったことが原因じゃないですか」
「は、はあ? それを言うならよ、カリン、そうなったのはお前のバフが切れてたせいじゃねえか!」
「そうよ、カリン! あんたの失態がなきゃ、あたしたちはあのままデスフロッグを仕留めてたわ!」
「バフが切れてたなら切れたとちゃんと言ってください! 私には周りを照らし出す役目だってあるんです、とっても忙しいんです! うう……」
「「……」」
カリンが嗚咽を上げながら泣き始めたため、パーティーは一層重い空気に包まれることになった。
「はー……やっと終わったぜ……」
「つ……疲れたあぁ……」
「……もう、戦えません……」
それからゴートたちが残りの5匹を仕留める頃には、洞窟の外は黄昏色に染まっていた。彼らは依頼を達成したものの一様に浮かない顔で、カリンに至っては溶けた顔を隠すように深々と項垂れていた。
「――依頼を終わらせたぞ! これが例の心臓だ! 報酬を頼む!」
「【風の紋章】パーティーの方々ですね、かしこまりました。数量等の確認のため少々お待ちください」
冒険者ギルドへ到着した彼らは、受付嬢にデスフロッグの心臓が入った袋を渡し、報酬を受け取るとすぐに背中を向けた。
「あ、お待ちください!」
「「「へ……?」」」
受付嬢の凛とした声に対し、ゴートたちが怪訝そうに振り返る。
「あなた方は確か、A級パーティーの方々でしたよね……?」
「そ、そうだが?」
「それがどうしたの?」
「……どうしたんですか?」
「A級なのにB級の依頼を、しかもこんなに遅く攻略されるなんて、おかしいですよね」
「そ、それは、道草食っただけだ! ちゃんとクリアしてるんだから文句を言われる筋合いなんてねえんだよ!」
「そ、そうよ! いくらなんでも失礼じゃない!? 受付嬢如きが、一流のA級パーティーに対して!」
「……そうですよ、失礼極まりないです」
「その一流パーティーの方々が、デスフロッグの討伐如きにこんなに時間がかかって、しかもボロボロの状態で帰還なさるんですか? そこにいる人なんて顔が溶けてますけど、どう見てもデスフロッグの吐く消化液によるもので、道草なんて言い訳ですよね……?」
「「「……」」」
「もし今後同じようなことが起きましたら、A級からB級への降格も検討いたしますので、どうかご了承くださいませ」
「「「ぐぐぐっ……!」」」
受付嬢の言い分に対してゴートたちは誰一人反論できず、周囲にいる冒険者たちから失笑を買う有様であった……。
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