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9話 悲鳴

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「ういー、ひっく……」

 朝陽が射し込むベグリムの都の大通りにて、酒場からフラフラとした足取りで出てきた男がいた。

 彼はA級パーティー【風の紋章】のリーダー、剣士ゴートであり、得意げな顔で両脇にいる二人のメンバー、戦士ロナと白魔導士カリンの胸を揉みしだく。

「「やあんっ……」」

「うへへへえっ……うえっぷ……ゴミのモンドは追放してやったし両手に花だしで、この上なく最高の気分だぜえぇっ!」

「あぁん……もー、ゴート様ったらぁ、無能のモンドが消えてご機嫌だからってぇ、いくらなんでも豪遊しすぎっ」

「んん……ですですっ。役立たずのモンドさんが消えて嬉しいのはわかりますけど、夜中からずっと飲んでらっしゃいますし、このままのペースだとお金がなくなっちゃいますよー?」

 心配そうに顔を覗き込んできたロナとカリンに対して、ゴートはニヤリと白い歯をこぼしてみせた。

「ういー……金の心配なら、モンドのやつからたっぷり搾り取ってあるし、まだまだ問題ねえ! んじゃ、そろそろ俺たちA級パーティーの力を見せつけてやろうぜっ!」

「「おーっ!」」

 こうして、【風の紋章】パーティーが意気揚々と向かったのは冒険者ギルドであった。

 そこで彼らが引き受けたB級の依頼内容は、都からほど近い洞窟ダンジョンにいるC級モンスター、デスフロッグを30匹討伐して心臓を集めよというものだ。

 早速、豪華な馬車に乗って洞窟の近くまで行くと、徒歩で向かった。

 洞窟内に入って早々、ロナが狙いすましたかのようにゴートに抱き付く。

「きゃー、ゴート様、こわーい!」

「あー! ロナさんったら、ずるいですー!」

「へへっ……二人とも、ここは俺のベッドじゃねえぞお? ま、俺の側を離れることなく、しっかりついてこい!」

「「はぁーい!」」

 カリンによる照明用の白魔法を頼りに、ゴートたちが中を歩き始めた。

「それにしても、ゴート様、一つがあるんだけどぉ……」

「ん、疑問ってなんだ、ロナ?」

「なんであたしたちA級まで上がったのに、B級なんかの依頼を受けたのー?」

「あ、リーダー様、私もロナさんと同じように不思議に思ってました。てっきりA級の依頼を受けるのだとばかり……」

「はぁ……ロナもカリンもせっかちだな! その前によ、俺はを試してえんだ……」

「「あることぉ……?」」

「おうよ。今まで通りB級の依頼を受ければ、モンドがいなくなったことでどれくらい快適にこなせるようになったか試せるし、そのほうがわかりやすいだろ?」

「「あっ……!」」

 ロナとカリンがはっとした顔になったのち、嫌らしい笑みを浮かべ合う。

「さすがゴート様ね、天才だわ!」

「リーダー様、偉大すぎますよ?」

「へへっ……お、早速ゲコゲコと蛙どもの鳴き声が聞こえてきやがった。あいつらを糞野郎のモンドだと思って、ズタズタに切り裂いてたっぷり泣かせてやろうぜ!」

「「おー!」」

 まもなく彼らの前に巨大な蛙たちが出現し、素早い動きで襲い掛かってきた。

「リーダー様、それにロナさん、思う存分に暴れちゃってくださーい!」

 白魔導士カリンから身体能力UPの支援を受けた剣士ゴートと戦士ロナが、剣と斧によって次々と人間サイズの蛙たちを切り伏せていく。

「へへっ! 思った通りだ、邪魔者のモンドがいない分、動けてるっ、動けてるぜえええ!」

「ほんとー、何これ? モンドがいないってだけで、肉体的にも精神的にも快適すぎるうぅっ!」

『『『『『ゲコオオオオォォッ!』』』』』

 ゴートたちの勢いは凄まじく、あっという間にデスフロッグの悲鳴と屍を量産し、心臓を25個も集めてしまった。

「よし、あと5個で終わりだ! このままなら最速記録だぜ!」

「やっほー!」

「リーダー様もロナさんも、とっても素敵ですー!」

 彼らは順調すぎるほど上手くいっていたが、依頼達成までもう少しというところで、ゴートたちの動きが粗くなり始める。

「ちょっと疲れてきたか? カリン、回復頼むっ!」

「カリン、回復お願いっ!」

「わかりましたー!」

 ゴート、ロナ、カリンの三人まったく気付いていなかった。動きが悪くなった原因は、疲れもあるが身体能力のバフが切れた影響が大きいということに。

「おら、くたばれ、モンド!」

「モンド、くたばってよ!」

「モンドさん、くたばってくださいっ」

『ゲコッ!?』

 新たに出現した26匹目のデスフロッグに対し、モンドと名付けて襲い掛かるゴートたちだったが、あっさり飛び退かれてかわされる羽目に。

「「「あれっ……?」」」

『ゲッ……ゲコオオオォォッ!』

「「「はっ!?」」」

 口を膨らませたデスフロッグが消化液を飛ばしたものの大きく上のほうに外れ、その間にゴートとロナがとどめを刺した。

「ふう。危なかったぜ……。そういや、今のでわかったけどよ、身体能力UPのバフが解除されてねえか?」

「そ、そういえばそうね……」

「あ、ごめんなさい、今すぐ準備しますね――ひっ!?」

「「カリン……?」」

 そのときだった。天井に付着していたデスフロッグの消化液が、カリンの顔に垂れ落ちたのだ。

「ひぎいいいいいぃぃぃっ!」

 モンスター顔負けの大きな悲鳴が洞窟内にこだまするのであった……。
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