A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し

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2話 崖っぷち

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「……」

 半ば放心状態の俺が向かっている先は冒険者ギルドだ。

 金の管理はリーダーのゴートに任せてたから所持金なんてほとんど持ってないし、生活するために早く次のパーティーを見つけないといけないからな。

「はあ……」

 気が付くと溜息が飛び出してしまう。昨晩まではまさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。ゴート、ロナ、カリンと一緒にS級パーティーを目指す気でいたのに……。

 そういえば、祝いの席でそろそろメンバー構成について考える時期が来たなってゴートが言ったとき、ロナとカリンが目を合わせてほくそ笑んでたっけ。

 あのとき、俺はてっきり新メンバーを増やす意味で言ったのかと思ったが、今となっては俺を追い出すことを示唆していたわけだ。俺が唯一優れてるのは戦闘勘だけで、それ以外についてはとことん鈍いからな……。

 まもなくギルドへ到着し、顔見知りの受付嬢イリスの元へ行く。そばかすの目立つ子で美人なほうではないんだけど、いつも愛想がよくて丁寧に応じてくれる子なので個人的に気に入ってるんだ。

「モンド様、おはようございます!」

「あ、あぁ、おはよう……」

 俺の顔を見るなり普段と変わらない様子で挨拶してきて、今の自分にはその優しさ、ありがたさが胸に沁みて泣きそうになった。

「どうかなさいましたか?」

「あ、いや、なんでもないんだ……」

「そうですか……って、お一人でここへ?」

「あぁ、パーティーを追放処分になったから、募集しようと思って――」

「――え、えぇっ!?」

 受付嬢が大声を出したあと、気まずそうに口を押さえた。

 ゴートのやつが脱退手続きしたって言ってたし知ってるかと思ったけど、よく考えるとあいつのお気に入りの受付嬢は別の子だからな。

「も、申し訳ございません。大きな声を出してしまって……」

「いや、全然かまわないよ」

「でも、おかしいです。モンド様が追放だなんて。あんなに頑張っていらしたのに……」

「……ありがとう。まあ仲間たちはそう思ってくれなかったみたいだし、仕方ないよ」

「正直に言わせてください。私は、人を見る目には自信があるんです。【風の紋章】パーティーは、モンド様のおかげでA級までいったんだと思います。なのに、こうもあっさり追放するなんて酷すぎます……」

「イリス……ありがとう。庇ってくれて。だけど、これ以上はもうやめてくれ。泣きそうになってしまう」

「も、申し訳ございません……」

 俺は無理矢理笑ってみせると、イリスもそれに応じて微笑んでくれた。そばかすさえなければ冒険者から人気が出そうな子だ。個人的にはこのままのほうがいいんだけど。

「もう終わったことだから、新たにパーティーを募集したいんだ」

「はい、少々お待ちください。モンド様のために、はりきってお探ししますね!」

 イリスは目を皿のようにして、分厚い書類を猛スピードでパラパラとめくっている。速読ってやつだろうか。あれでもちゃんと読めてるんだろうから凄い。

「――うーん……」

「……」

 全部読んだあと、イリスががっかりしたような顔になった。どうやら今のところメンバーを募集中のパーティーはなかったみたいだ。あと、俺の噂をゴートが広めたみたいだし、変な冒険者が寄り付かないように警戒されてるのかもな。

「探してくれてありがとう。良さそうなのはいなかったんだろ? タイミングが悪かったみたいだし、また来るよ」

「あ、いえ、モンド様、臨時メンバーを一名募集しているパーティーが一つだけあるにはあるのですが……その、えっと……」

 イリスが気まずそうに口ごもってしまった。

「イリス、どうした? 今の俺ならどんなパーティーでもありがたいから紹介してくれ」

「それが、G級パーティーでして……」

「じ、G級だって……!?」

 普通、冒険者パーティーの階級はSからFまでといわれていて、それ以上やそれ以下はよっぽどのことがない限り到達できないんだ。

 階級の上げ下げに関しては、基本的にその場で受付嬢が独自に判断することになっている。

 階級を上げるには、ただ単に依頼の回数をこなせばいいわけではなく、解決するスピードやクオリティのほうが重要らしい。たとえ解決したとしても、その階級に相応しくない内容だったら下げられることもある。

 G級はF級より下だが、よっぽどのことがない限りそこまではいかないらしく、その階級になった場合1回でも失敗すればパーティー解散となり、参加した冒険者はその町のギルドを出禁にされてしまうんだ。

 ってことはつまり、俺が入って一度でも失敗すれば巻き添えで出禁になるわけで……。

「モ、モンド様、この件は聞かなかったことに……」

「いや、イリス。そのパーティーについて詳しいことを聞かせてくれないか?」

「え、えぇっ!? 本気なのですか……?」

「あぁ、確かに崖っぷちパーティーだけど、俺だって変な噂を流されてるわけで、この先拾われるかどうかもわからない似たような境遇だ。ある意味これはチャンスかもしれない……」

 俺の訴えに対して、しばらく経ってイリスは納得してくれたのか大きくうなずいた。

「わ、わかりました。モンド様がそこまでおっしゃるのなら説明させていただきます! G級パーティー【深紅の絆】は剣士、狩人、白魔導士の三名で構成されており、赤い装具が特徴みたいです」

「三人パーティーで、赤い装具か……」

 忘れないように一応メモしておく。

「一人一人の力量はあるもののかなり問題行動が多いらしく、クレーム報告もよく入ってるとか。それについては私の担当ではないので、詳しいことはよくわからないのですけれど……」

「なるほどな……。じゃあそこに入るってことで」

「りょ、了解いたしました!」

 なんとも危うい感じのパーティ―だが、その分どんなやつらなのか興味があることも確かだし、崖っぷちにいる者同士が交われば逆に何かいいことが起きるかもしれないっていう期待感があった。
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