1 / 37
1話 追放劇
しおりを挟む「モンド、ここから消えろ。てめえはもう金輪際俺のパーティーに必要ねえ!」
「……え?」
寝耳に水とはまさにこのことか。
俺はモンドっていう名の黒魔導士で、このベグリムの都で数年前から暮らしている男だ。
所属するA級パーティー、【風の紋章】の宿舎の自室で寝てたんだが、リーダーの剣士ゴートがずかずかと入ってきたかと思うと、いきなり追放処分を言い渡されてしまった。
「ちょ……ちょっと待ってくれ、ゴート。俺を追放……? 昨日Aランクに上がって祝勝会を開いたばっかりだっていうのに、一体何を言い出すんだ……?」
なんだこりゃ、わけがわからない。昨晩、これからS級を目指そうってみんなで誓い合ったのに……。
冗談だよ、悪かったなという台詞を期待したが、残念なことにゴートの目は血走っていて鼻息も荒く、演技をしている感じではなかった。
「冗談でもなさそうだな」
「あたりめえだろ、アホか!」
「……なあ、ゴート、理由だけでも聴かせてくれ。俺たちのパーティーは上手くいってたはずだったのに……」
俺の問いに、ゴートはこれでもかと顔をしかめてみせる。
「上手くいってたあ? そう思ってたのはモンド、てめえだけだろうが。追放する理由は、黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ! これだけでもクビになるのは必然なのに、さらに図々しく居座ろうとする精神が信じられねえってんだよ!」
「くっ……」
否定できない事実だった。確かに、魔力についてはカスといっても過言じゃない。
「いや、待ってくれ。それについては加入する前に話したし、了承済みのはずだ。俺は――」
「「――いい加減、黙って!」」
「あ……」
この声は……。部屋に入ってきたのは、パーティーメンバーの戦士ロナと白魔導士カリンだった。俺は彼女たちの姿を見て涙が出そうになる。
「ロ、ロナ、カリン、いいところに来てくれた……」
「あんたって本当に最低ね」
「最悪ですね」
「あぁ、いきなり追放を命じるなんて、ゴートはどうかしてる……」
「はあ? あんたのことよ、モンド!」
「ですです。モンドさん、あなたのことですよ?」
「え……?」
「へっ、バカが……」
二人の発言が自分に向けられたものだとわかって、俺は胸を抉られるような思いだった。
普段から言動が悪いゴートはともかく、ロナやカリンは自分のことを兄のように慕ってくれていると思っていたが、あれはただの幻想だったのか……?
「ロナ、カリン、こいつにとどめを刺してやれ」
「うん、ゴート様、あたしに任せてっ。そこの薄気味悪い男、今まで誰のおかげでここまでやれたと思ってるの? ゴート様やあたしたちのおかげでしょ!」
「そうですよ。リーダー様やロナさん、それに私が頑張ってあなたの魔力の低さをカバーしていたんですよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
実際、このパーティーは今まで何度も何度も窮地に陥っている。
剣士ゴート、戦士ロナ、白魔導士カリンの才能は俺よりもずっと上だと思うが、その分努力を怠ったのか動きに稚拙さ、大雑把さが目立っていて、モンスターとの交戦中に体の一部を失ってもおかしくなかった。
俺がいなかったら間違いなく無傷ではここまで来られなかったと思うし、物足りないかもしれないがそれでも貢献してきたっていう自負はあるんだ。
「まあ、まったく役に立ってねえとまでは言わねえけどよお、こんな石ころみてえなクソ黒魔導士の代わりなんていくらでもいるレベルだっての。なあ? ロナ、カリン」
「うんうん。てか、ここにいるのがモンドじゃなくてほかの黒魔導士だったら、120%もっと上まで行けてるよー」
「ですね。低レベルの黒魔導士だから追放するってだけの話なのに、それで不満を言われるなんて逆切れもいいところじゃないでしょうか? リーダー様が不憫でなりません。ぶっちゃけ、あなたと顔を合わせるのも気持ち悪かったです」
「……」
ダメだ、もう完全にいらない人扱いされてる。てか、まだ納得がいかないことがある。
「なんで、なんでいきなりこんなことを……」
「「「ププッ……」」」
俺の言葉に対し、三人が噴き出すように笑った。まさか、今までの暴言は冗談だったのか? 頼む、そうであってくれ……。
「そんなのよお、厚顔無恥なてめえを天国から地獄に突き落とすために決まってんだろうが!」
「そうよ。そのほうがたっぷりあんたにダメージを与えられるしね。てか、それ以外に理由なんてある?」
「本当に、がっかりする姿が惨めで面白かったです。気色の悪い勘違いさん、目障りですので早く消えてください……」
「わ、わかったよ……消えればいいんだろ、消えれば……!」
俺は立ち上がり、荷物を整理し始めた。畜生……怒りで手が震えて上手くいかなくて、それがツボだったらしくどっと笑い声が上がる。
「あ、そうそう。モンド、てめえのパーティー脱退の手続きはもうしておいたし、実力のない寄生虫で詐欺師だから追放したって噂も広めてやったから、あとのことはなーんにも心配しなくていいぜっ!」
「うんうん。モンド、ついでに才能ないから冒険者も辞めたほうがいいよー!」
「なんなら……モンドさん、人生をお辞めになってもかまいませんよ……?」
「「「アハハッ!」」」
「……」
物凄く惨めだし悔しいけど、俺はもう何も言い返さなかった。ここで顔を真っ赤にして喚いたら余計に面白い見世物みたいになるだろうしな……。
29
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる