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四一話
しおりを挟む「あの、ユートさまですよね?」
「ん、そうだけど」
冒険者ギルドにて、俺は唐突に受付嬢から話しかけられた。なんだ?
「ユートさま宛てに、お手紙を預かっております」
「手紙……?」
『おそらく、ユートどのがこの村に立ち寄り、さらに冒険者として登録するだろうと思い、手紙をしたためた次第であります。必ず、いずれどこかでお会いできると信じております。プリンさまも、寝言で『ユートと会いたくないけど会いたい』と口にするほどです。ここだけの秘密ですが、それがしもまたお話をお伺いしたい所存であります』
「…………」
おいおい、ホルンとプリンじゃないか。懐かしい。またどこかで会えるといいなあ。それにしても、会いたくないけど会いたい、か。いかにもプリンらしい台詞だな。ホルンも王女の護衛だからか、俺と話したいっておおっぴらにいえない感じで健気だ。
「――泥棒だあああぁぁっ!」
「「「「「っ……!?」」」」」
さあ、これからエルの都へと出発しようというところで、誰かの叫び声が響き渡った。
それからまもなく、猛然と走ってくる二人の男が現れ、状況的に追いかけられているほうが泥棒で間違いないと思って『ストップ』で止めてやる。
「う……!? か、体が動かないだと……」
「泥棒め、観念しろっ!」
「一体どうしたんですか?」
「あ、お騒がせいたしました! 実は、自分が異次元通販で購入した大事なハンマーを、この男めが奪って逃走したのです……」
俺の問いに対し、追いかけてきた男が憤慨した様子で話すと、捕まえられた男が首を勢いよく横に振った。
「わ、私は奪ってなどいない! 体を調べてみればわかる!」
男がそう言い張るので、俺たちは持ち物検査をすることに。
やがて、出てきたのは石板くらいだった。王女のプリンが持っていたものと同じものだ。これも盗んだものだろうか?
「ほら見ろ! これで私が盗んでいないのはわかっただろう! この男は鬱憤でも溜まっているのか、この私に濡れ衣を着せたのだ! けしからんやつめ!」
「そ、そんなはずはっ……! 確かにこの男がハンマーを盗んでいったのです! 皆さん、どうか信じてください!」
「…………」
おそらく、この男は盗んだものを削除したんだろうな。
今までの経験上、異次元通販で購入されたアイテムなら、誰でも所持した時点でスマホや石板を通して削除、すなわち異次元のゴミ箱行きにできるみたいだが、普通はそこから復元なんてできない。
だからこそ、石板で削除して証拠隠滅を図ったわけだ。復元できるのは、そのスペアに当たるゴミ箱へ入ることができる俺くらいだ――って、そうだ。
「みんな、ちょっと待ってて。俺が対策を考えるから」
「「「「「え……?」」」」」
俺は思い立って自分の『アバター』を残し、【ダストボックス】へ入る。
「――ユートさまっ、おかえりなさい!」
「た、ただいま、ラビ」
ラビが駆け寄ってくるなり、俺に抱きついて潤んだ目で見上げてくる。
「ぎゅっ……ユートさま、とっても寂しかったですう。私とずーっと一緒にいなさい!」
「ははあ、ラビさま」
「はうう……」
いつものやり取りを済ませたあと、俺は周囲を見渡す。あった。箱だ。やはり捨てられてたか。
「そういえば、箱が届きましたよ!」
「ああ、今開けようと思ってたところ」
「楽しみですっ」
箱の中身は思った通りハンマーだった。この辺で捨てられたことの証明だ。
「なんだか、物騒なものが出ましたねえ」
「そ、そうだね……」
俺を放すまいとしがみついているラビには悪いが、急いでいるため『スリープ』をかけてベッドに寝かせ、急いで外へ出る。
「――お待たせ。魔法で異次元の中から探してきたよ。ほら、これじゃないか?」
俺が例のハンマーを見せつけると、盗人は見る見る青ざめていった。
「はっ!? バ、バ、バカなっ! ち、違う、私は盗んでなどいない! そもそも私ではなくこの男が持っていたのだから、この男が盗んだに違いない!」
「…………」
こいつ、今度は俺に罪を擦りつけてきやがった。よーし見てろ。白状させる魔法『コンフェッション』を使ってやる。
「いや、盗んだのはお前だろ?」
「そうだ、私だ! 異次元通販で購入したものであれば、盗んで捕まりそうになったとしても石板で削除して異次元の彼方へ放り込めば済むし、金持ちへの嫌がらせにもなる!」
「「「「「……」」」」」
盗人が俺たちの前で首を振りながら白状してみせる。それで金持ちを狙ったのか。汚いやつだ……。
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