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九話

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「「「「「おい、如月っ!」」」」」

「…………」

 担任の反田が去ってすぐ、2年1組の教室に俺が入った途端、不良グループの虎野たちが血相を変えて取り囲んできた。

 でも何故か全然怖さを感じないのは、それだけステータスが上がった影響だろうか。魔法力=精神力なのかもな。

「お前、一体どこにいた?」

「どこにいたんだあ?」

「どこにいたのよ」

「どこにいたんだよ、コラ……」

「キイィッ! どこにいたんですか!?」

「…………」

 虎野、近藤、浅井、影山、永川が鼻息を荒くして詰め寄ってくる。この様子だと、俺をいじめるために血眼で探し回ってたらしい。ご苦労なこった。

「え、えっと、怖いから旧校舎のほうに。それで気付いたらいつの間にか寝ちゃってて……」

 俺は怯えたような顔を作って言うと、やつらは自分に都合のいいように解釈したのかニタリと嫌らしい笑みを浮かべてみせた。おまけの復讐とはいえ、少しは楽しみたいし全面戦争はまだ避けたい。

「ふむ、異世界に来ても、お前はどうしようもないビビリだな」

「まったくだぜ! ボスの言う通り、チキンは死ぬまでチキンだなあ」

「最低っていうのはこのことね。怖いから旧校舎って……呆れた。自分だけ助かったらそれでいいわけ?」

「陰キャ極まってるな、こいつ……」

「アヒャッ。僕、こんな惨めな男にだけはなりたくありませんねえ! 虫ケラにでもなったほうが全然マシです!」

「「「「「ギャハハッ!」」」」」

「…………」

 そうだな……腹はあまり立たないものの、侮辱に対するお仕置きは必要だろうってことで、俺はを作るとともに早速使用してやった。

「「「「「ごっ……!?」」」」」

 連中は頭の上に『タライ』が落ちてきたもんだから、一様にわけがわからなそうに目を白黒させていて、俺は自分の笑い声を『サイレント』で封印するほど可笑しかった。

 タライが頭上に落下するだけだから大した魔法じゃないが、ちょっとしたストレス解消にはうってつけだ。

 お、『《マジックコレクター》の称号を得ました』と脳内に表示された。そういや、魔法をいっぱい作ったからなあ。スキルと違って魔法は多く持ってるのが普通とはいっても、短期間にこれだけの量の魔法を作ったんだから当然か。

 その効果は、魔法を使う際にMPの消費量を抑えることができる、というものらしい。MPを全回復できる『マジックリカバリー』があるとはいえ、それをやる暇がないくらい激戦に巻き込まれる可能性も考えたら、消費量はなるべく抑えておいたほうがいいだろう。

 周囲が明るくなってきた頃、これから授業が始まるわけでもないのに、教室にはいつもの面子が集まっていた。多分、みんなここにいると安心できるっていうのと、天の声が来るのを待つ意味合いもあるんだろうな。

『――皆さま、おはようございます。いかがお過ごしでしょうか。ふわぁ……あ、失礼いたしました』

 お、早速天の声が響いたので周りがどよめく。いつもとは入り方が少し違うし、欠伸するしで、向こうも打ち解けてきた感じか。

『これより、この世界へもっと馴染んでもらうため、それに相応しい仲間を選んでもらおうと思います。ですので、スマートホンの準備をよろしくお願いしますね』

 異世界の仲間だって? もしかして、獣人とか亜人とか、ファンタジー小説でよく見るアレか。もしそうなら楽しみだが、どうせ俺は……。

「イヒヒッ! 没収の時間ですよ、如月っ!」

「そ、そんな……」

 やっぱり永川にスマホを取り上げられてしまった。

 とはいえ、俺は悲愴感に満ち溢れた演技をしつつも、内心は凄く冷静だった。残り物には福があるっていうのは証明されてきたことだし、こっちには【ダストボックス】があるから慌てる必要もないしな。
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