85 / 87
85.矜持
しおりを挟む「はははっ……あっはっはっは!」
謁見の間に、王の場違いな笑い声がこだます。
「お……王様、笑ってる場合では……。早くここから逃げませぬと――」
「――その必要はない、大臣! わしはな、これでも長い歴史を持つこの国の王なのだ。逃げも隠れもせぬわっ!」
「へえ……」
ソムニアに対してよっぽどトラウマがあるのか兵士たちも逃げてしまって、謁見の間には王と大臣のほかに俺とソムニアがいるくらいだ。しかし、やつらにしてみたら絶望的な状況なのに中々勇敢なことを言う王様だな。病気が治ったせいか声もよく出ていて張りがある。
「王様らしく大層ご立派な言い分だが、俺と自由になった狂戦士を前にいつまで強がって笑ってられるんだろうなあ……?」
「馬鹿めが……強がってるのは平民のお前であろうっ!」
「……ん?」
「どうせその者の兄の仇を取りにきたのだろうが、殺したいならさっさと殺せばよかろう! だがな……それからどうする? 誰がこの国を治めるというのだ……? まさか平民のお前か!? 国民が従うはずなどなかろうが! 王を殺した罰当たりな男を……反逆者に過ぎない卑しい平民のお前を誰が信じるというのだ……!? お前のちっぽけで愉快な反逆者の村人どもだけだろう!」
偉く興奮した様子で捲し立てる王。よく頑張ったな。とはいえ、あまりにもお粗末な言い分ったので心には響かなかった。
「……馬鹿だなあ。ここまで愚かな王だったとは。俺の予想を遥かに超えていた」
「何ぃ……? どうしてそう言い切れるのだ! それがただの悪口ならば、まさに泥臭い平民らしき幼稚さと無教養さを曝け出しているだけだぞっ!」
「ソムニアの兄は俺が生き返らせるつもりだ」
「……え?」
「死と生を逆にするだけでいいからな。正直、生死関連ではこのスキルを使いたくないが……その要領で村人たちも蘇らせた。だから仇を取る必要なんてないんだよ」
「……で、では……何故ここに来たのだ……」
「一応、王様だから魔王退治の報告をしにきたっていうのと、重病を治すために。それと、ソムニアに見せてやりたかったんだ。あんたの見苦しい姿を、な……」
「……オ、オルド……賢者オルド……」
「……ん?」
「今からでも遅くはない……。貴族になるがいい。ここに平民は初めからいなかったのだ。それから、わしのお主に対する憎しみも逆にしてくれ。できればお前とやり合った記憶もな。それならみんなハッピーであろう……?」
「……」
哀れな王だ。ここまで俺にコケにされた以上、平民としての俺を抹殺することしかプライドを保てそうにないってことなんだろう。
「悪いが断る。俺は貴族なんかより平民でいたいんでな。妙なプライドとかそういうのに固執したくないし、途轍もなく見苦しい今のあんたを見れば尚更。それじゃ、ごきげんよう……。行こう、ソムニア、ブラックス」
「うんっ」
『ウムッ』
「このっ……無礼者めがああぁっ!」
王が投げてきた王冠を、俺は背中を向けた状態でキャッチしてみせた。もう能力を隠す必要もないからな。
「王冠、くれるのか? でもこんな汗臭いのいらないし気持ちだけ受け取っておくかな。あ、お礼にこれやるよ」
俺は王の足元に向かってナイフを転がしてやる。
「死ぬのが怖くないのなら、卑しい平民の俺に何度も助けられたのは最高に屈辱的だろうし、自決をお勧めするよ、王様」
「……ぬ……ぬううぅっ……!」
「……」
視線を逆にしてみると、王はそれを俺に向かって投げようとする仕草をしたが考え直したのか自身のほうに向け、しばらく経ってから足元に落とし嗚咽を上げ始めた。ようやく負けを認めたか。これからも彼には末永く王様でいてほしいものだ。
「くれぐれも無能な働き者にならないように、じっとそこに鎮座していてくれ。そのほうが俺たち平民は助かるんだからな」
俺の投げかけた言葉に対し、王はただすすり泣くような声にならない声で返してきた。死を覚悟している人間に対して感情的になって楽に死なせてやるより、こういうやり方のほうがよっぽど屈辱的だし苦痛も味わえるだろう。これで少しは平民に対する考えを改めてくれたらいいんだがな……。
1
お気に入りに追加
1,263
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる