全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

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82.涙

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「グルルァ……久々の我が家だから落ち着くであるな……」
「ですね。クオンも幸せな気分になります。ウミュァ……」
「……」

 実際はただのボロ小屋なんだけどな。フェリルとクオンの目元には涙が滲んでいた。全てはここから始まったようなものなんだし、ちっと大袈裟な表現かもしれないが住めば都ってところか。

 やはりというかユリウス大司教の姿はこの小屋の中だけでなく周囲にも見当たらず、またいつものようにフラッと出かけて、忘れた頃に戻ってきては炊き出しでもやるつもりなんだろう。

 そういや、たまにキラキラ輝く埃のような生き方が望ましいとよく言ってたな。俺にはよくわからないが、あれくらい高齢になったら少しは見えてくるのかもしれない。

 例の少女は、俺たちが捨てたはずの両手斧を抱えるようにして寝ていた。これが本当に不思議で、この斧は何度捨ててもいつの間にか彼女の側にいるんだ。やはり分身的存在なのだろうか。興味は尽きない。

「――うっ……」

 お、早速目覚めた。スキルで起こす必要もなかったようだ。

「起きたか、おはよう」
「ふわあ……おはよう? あれっ……ここは……?」

 ぼんやりとした表情で周囲を見回す少女。こんな優しそうな子があの恐ろしい狂戦士になるだなんて想像もつかないな……。

「お前は異界フィールドで俺に挑んできて負けたんだよ。それで死んだが、背景を知りたいからこうして生き返らせた上で村まで連れてきたってわけだ」
「そうなんだ……あ、でもそれだとお兄ちゃんが……」
「その件だが、ヴァイドっていうのはお前の兄の名前なのか?」
「えっ……うん、そうだよ。でもなんで知ってるの……?」

 少女の目が怪しく光る。狂戦士にしないようにしているはずなのに、ゾクリとするようなものを感じた。資質をなくしても狂戦士化するんじゃないかと錯覚してしまうのは、それだけ死闘を繰り広げた俺だからこそ味わえる感覚なんだろうか。

「ここにいるダラスって子がな、見ちゃったんだ。お前の兄が処刑されているところを、な……」
「ほぇ……? う、嘘だよ。そんなはずないよ……」
「嘘じゃないよ。俺、ちゃんと見たんだ。妹の命と引き換えにって……」
「そっ……そんな……お兄ちゃん……」

 沈痛な空気の中、少女は顔を覆って泣き始めたが俺は悲しみを逆にしてやろうとは思わなかった。思い切り悲しませてやったほうがいいこともあるだろう。人の気持ちを慰めるのは、何も明るい光だけの役割じゃない。しっとりとした暗闇のほうが適している場合だってあるんだ。

「俺の話、本当なんだけど……ごめんよ、嘘じゃなくて――」
「――ダラスは気にするな。お前は何も悪くない」
「あ、ありがとう。オルド様……」
「ダラス、これを子供たちに配ってやってくれ」

 俺は王都の広場で貰ったお菓子箱をダラスに渡した。

「復興のためには、まず沢山美味しいものを食べて気持ちから盛り上げていかないとな。みんなと仲良く食べるんだぞ、ダラス!」
「うんっ!」

 嬉しそうに箱を抱えて出て行くダラス。あの子にはこれ以上重い空気を背負わせたくないというのもある。今の沈んだ空気は異界フィールド顔負けだからな……。

『……オカシイ、オカシイ……』
「……」

 一体誰が喋ってるのかと思ったら、例の大きな斧だった。

「おいおい……お前のほうがおかしいよ。なんで斧が喋るんだ……?」
『ソレハナ、生キテイルカラ、ダ……』

 納得してしまった。なんか悔しい。

「で、何がおかしいんだ?」
『ソムニアガ狂戦士ニ目覚メル気配ガナイノハオカシイ……』
「なるほど……」

 ソムニアっていうんだな、この少女は。いつも側にいる斧が言うんだから間違いない。俺が資質を取り上げてるんだから狂戦士にならないのは当然ではあるが、不気味に思える話だった。憎悪とか喪失感とか、そうした暗い感情が狂戦士のトリガーになってるのかもしれない。

「こんなところで暴れられたら困るから俺が封じてるんだよ、斧」
『ヌウ……サスガハ賢者トイッタトコロカ……』
「……お兄ちゃん、行かないで……」

 ソムニアの泣き声が聞こえなくなったと思ったら、泣き疲れたのか眠っていて寝言を発していた。こんな兄思いのいい子にどこまでも過酷な運命を背負わせた王国に対して、俺は一層腹立たしさが増してきた。
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