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70.一心同体
しおりを挟む『ばっ……馬鹿な……』
魔王の目がこれでもかと見開かれる。驚愕にまみれたその表情は、勇者パーティーの一人である賢者オルドの気配が近付きつつあることを意味していた。
『何故勇者パーティーは気配を隠した余をいとも簡単に追尾できたのだ!? しかも賢者オルドの驚異的なスピードはなんだ。やつは魔法力が半分になっているわけではなかったのか……!?』
『カッカッカッ……魔王様、勘が鋭くなられたのではございませぬか……?』
『ハッハッハ! ……まんまと騙されたというわけか。まず裏切り者をここで叩き潰し、それから勇者パーティーを迎え撃つ作戦であったが……いやー、これは困った。グワッハッハッハ!』
『……』
魔王が唾を飛ばしながら大笑いする様子を、優しく見守るかのように静かに見つめるジルベルト。
『随分と余裕がおありのようで……魔王様?』
『うむ! 元々、賢者オルドに対しては勝てたらラッキー程度に考えておったしなあ。それに、鍛えたというのもあれは真っ赤な嘘なのだ……。魂を強化されて復活した分強いから、サボっていたというわけだ! グハハッ!』
『ほほう。今度はこちらが一本取られましたな、さすがは魔王様。やはり、元来の怠け癖というやつでございますか。腐敗しきった魔王軍のトップに相応しいお方ですなあ……?』
『ハッハッハ! こやつめ、開き直ったのか余に向かって好き放題言いよるわ。ああ、そうだとも、余は腐りきった魔王軍のトップである! 逆にお前はそのようなご立派な男だからこそ孤立したのだろうよ? あの死霊王のようになあ……』
ニヤリと笑う魔王に対し、ジルベルトの眼の奥が怪しく光る。
『それで魔王様、どうするおつもりかな? このままではそれがしどもと共倒れになりましょうが……』
『まあそれも致し方なかろう。勇者パーティーに相対した場合、余が死ねば魔王軍は統制が取れなくなりたちまち破滅へと向かうだろうが、余はまたいずれ復活する。その際は当然、当時の記憶も抱えてなあ。ジルベルトよ……貴様も余の同胞として蘇るだろうが、最早味方する者は少数であろうから、どうなるのか結果はわかっておろうな……?』
『ええ、もちろんわかっておりますとも、魔王様』
魔王軍から失笑と怒号が沸き起こる中、ジルベルトはなんら動揺する素振りもなく平然と言ってのける。
『ジ、ジルベルト様……このまま終わってしまうのを待つのではなく、一か八か魔王様に許しを乞うてみては? わらわが全ての泥を被るので――』
『――もうよい、ティアルテ。それがしはそう簡単には終わらんよ。たとえこの命が永遠に尽きようとも、な……』
『いやー、実に素晴らしい! 大臣どのの決死の覚悟には胸が熱くなる! みなの者、盛大に拍手してやれ!』
『……』
魔王軍の嘲笑と拍手の嵐を前にしても、ジルベルトは素知らぬ様子で微動だにせず、逆にカタカタと嗤ってみせるのだった。
『この期に及んで強がるとは、見苦しいぞジルベルト。命乞いでもすれば特別に助けてやることも考えたものを……』
『これはこれは、ご慈悲を頂けなかったのは非常に残念ですな。それではこの辺で、腐りきった魔族たちの頂点に君臨する魔王様に良いことを教えて差し上げましょう』
『なんだ? 勇者パーティーがもうすぐ来るのだから、勿体ぶらずにとっとと申せ!』
『魔王様は鍛えなかったと仰ったが、それは必ずや仇となりましょうぞ』
『……何?』
『狂気を振り撒くほどの威力で打ち滅ぼされし魔王は二度と復活できないという言い伝えはご存知ですかな……? かつて、人間によってそのために狂戦士の一族が育成されたということも……』
『……どっ、どういうこと、だ……?』
『一つは、生ある者全てに死だけを求める極大の狂気、もう一つは嫌がらせに己の全てを使う無限大の狂気……その恐るべき狂気が二つ迫っている状況でございまして、このままではただ朽ち果てるだけでは到底済みそうにはありませんぞ……? どうやら我々魔族は生きるも死ぬも、一心同体のようで……』
『ぬ……ぬううぅ……』
髑髏の眼は、魔王を怯ませるほどのおぞましい闇を覗かせていたのであった……。
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