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60.初
しおりを挟む「うっ……?」
俺は鳥肌が立つかと思った。異界フィールドへ来て初めての体験なわけだが、これはモンスターや魔王に対してではなく、例の尾行してくるやつのおぞましい気配を肌で感じた結果だ。
「グルルァ……オルドよ、聞こえるか?」
「聞こえますか? オルド様。ウミュァアッ」
「あぁ、聞こえる。フェリル、クオン、お前たちも感じたか?」
ちゃんと耳を閉じて感度を逆にしたので、フェリルたちの小声を問題なくキャッチすることができた。
「うむ、かなり感じた。あれが相当な強敵であるというのはわかっていたが、今の気配は我でも震えてしまうほど尋常ではなかった……」
「クオンも不幸の臭いで頭がクラクラしちゃいました……」
「やはりそれほどか……」
被追放者村に関する胸騒ぎも気にはなるが、今回ばかりは尾行してくるやつを看過できないと確信できるほどにヤバい気配だったし、フェリルとクオンの声が微かに震えているのもうなずける。
「オ、オルドどの、魔王とはあとどれくらいで会えるだろうか……?」
「会えますかぁ?」
「バブゥー?」
「あへあへっ?」
「……」
それまでずっと黙り込んでいたやつらが急に話しかけてきた。魑魅魍魎渦巻く異界フィールドでこいつらに気配を区別できるとは思えないが、嫌いな俺に頼ろうとする程度には不安を感じたらしい。
「んー、わからん。魔力が半分になってるせいか、魔王の気配がやたらとぼんやりしててなあ……。あ、モンスターが来る!? おっと、間違えた……」
「「「「うっ……」」」」
視線を逆にすると、フェリルとクオンを除いてみんな揃いに揃って苦そうな顔を浮かべるのがわかった。わざとだがやたらと目測を誤るし使えないやつだと思ってるんだろう。よし、やつらの心の声が聞こえるように、表の声と【逆転】してやろう。
「陰気な上に使えないとは、ゴミのほうがまだよっぽどマシな男だ」
「早くぶっ殺してやりたいですぅ」
「死ね、クソゴミオルド」
「死ね死ね死ね死ね……」
聞こえる聞こえる。エスティル、マゼッタ、アレク、ロクリアの思考を盗み聞きした格好なわけだが、何を考えているかは概ね俺の予想通りだった。これはやつらの悪口だが、悲鳴でもある。それだけ俺が苦しめているという証拠なのだ。
「「「「あっ……」」」」
やつらが気まずそうに口を閉ざしたところで元に戻してやる。あんまり続けると俺が何かしたんだとバレる可能性もあるからな。これくらいなら、憎さのあまりつい本音が連鎖的に表に出たんだと考えるだろう。
しかし不思議と悪くない気分だ。苦さの向こうに幸せが見えるからだろうか? 嫌がらせのモチベーションが落ちてきたところで充填できたのが大きいんだろう。こういうのが溜まらないと燃えないからな。
……さて、そろそろ尾行してくる正体不明の化け物と決着をつけるとしようか。俺は今魔法力が半分になっているという設定なわけで、嫌がらせライフのためにもあくまでそれは変えたくないし、このままだと重すぎる足枷をつけた状態で魔王と戦わなきゃいけないことになってしまいかねないからな。
「ん……?」
俺は一瞬、気のせいかとも思ったが……これは間違いない。魔王の気配だ。しかも向こうからこっちに接近してきているだと……?
まさか向こうから来るなんて、この国の歴史において勇者が魔王の元へ行って打ち倒すという武勇伝はいくらでも聞いてきたが、魔王のほうから勇者のいるところへ向かってくるという内容は一切なかったからこれが初めてのケースなんじゃないか。
もしかするとあれか、魔王側は俺が魔法力半分なのを既に見越していて、勝利を確実なものにするために奇襲を仕掛けるつもりなのか……?
しかしこれは少々まずいことになってきたな。これから、魔王を相手にする前に尾行してくるやつを片付けようとしていたところなのに。魔王を相手に本気を出さずに戦うと、尾行してくるやつから隙を突かれる可能性があるからだ。かといって本気を出してしまうとロクリアたちに勘付かれて、調子に乗らせることができなくなってしまう。さて、困ったことになったが一体どうしたものか……。
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