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57.光
しおりを挟む『グワッハッハッハッ! そうか、遂に勇者パーティーが余と同じフィールドに辿り着きおったか!』
魔王城の謁見の間にて、玉座から立ち上がった魔王の高笑いがこだます。
『魔王様、喜んでいる場合ではございませんぞ。決して油断だけはなりませぬ。確かに賢者オルドは魔法力が半分ではございますが、それでもここまで来ましたゆえ……』
『ガハハッ! 大臣は相変わらず慎重よのー。それとも……余の力を侮っているというのか!?』
『滅相もございません。信じているからこそ、気を引き締め――』
『――フハハッ……これを見てみよ、大臣!』
魔王が両手を掲げるやいなや謁見の間はたちまち揺れに揺れ、大臣が転んで頭蓋骨を落としてしまうほどであった。
『ま、魔王様……これは一体……』
『……ん? 余が今持てる力を見せつけてやっただけだ! これでお前も安心できるであろう!? グハハハハッ!』
『……』
落ちた髑髏を自分で拾い上げる大臣。
『どうした、大臣? 普段冷静沈着なお前でもさすがに怯んだのか? ガハハッ!』
『……魔王様、お言葉ですが……』
『ん? まさか、まだ足りないとでも抜かすつもりかあ……?』
『……いえ、そうではなく、今まさに魔王様が万全の状態であらせられるからこそ、勝利をさらに確実なものにするためにも、自ら出陣なされては、と……』
『な、何……? 余に対して、座して待つのではなく勇者パーティーに奇襲せよと申すのか……?』
魔王がぽかんとした表情で大臣を見やる。
『……はい、魔王様。これにはさすがのオルドも予想の範疇外かと……』
『ふむう……迫りくる勇者パーティーを前にしても、それでもどっしり構えるのが魔王たるものの務めだと思っておったが、自ら動く、か……それもありかもしれんな! よし、賢者オルドが驚く姿、しかとこの目に焼き付けておくとしようではないか! では出陣の準備だ……おっと、その前に片付けねばならんことがある……』
ギロリと大臣を睨みつける魔王。
『……な、なんでございましょうか、魔王様――』
『――飯に決まっておるだろう! 腹ごしらえせねば戦争などできるか! グハハッ!』
『……』
魔王が謁見の間から立ち去ってもなお、大臣はしばらく頭を下げたまま微動だにしなかった。
『――ジルベルト様……』
『……勝手に出てくるな。まだ呼んではおらんぞ、ティアルテ。お前は魔王軍を率いる大将なのだから少しは慎重になれ』
『し、しかし、我々に残された時間はもう残り少ないように思われまするが……』
『心配せずとも、魔王様の食事の時間は毎度長い。特にこういう大きな戦いがある前はな……』
『……はあ。ところで、さすがのジルベルト様も肝を冷やされたのでは……?』
『まったく逆だ』
『……え?』
ティアルテの問いに対し、さも取るに足らないとばかりにカタカタと嗤う大臣。
『魔王様を微塵も恐れてはいないといえば嘘になるが、ああいうお姿を拝見することでむしろ興奮している。完全体の魔王様と決着をつけるそのときは近いのだなと。失敗だろうが成功だろうが結果が出る。それが何よりも嬉しいのだ……』
『ジルベルト様、必ずや成功するとわらわは祈っておりまする……』
『ふむ。ところで祈るという字と折るという字は似ておるな』
『ジルベルト様……』
『わかっておる。そう睨むな。それがしと運命をともにしたければ好きにするがいい。しかし……』
『……しかし?』
『ティアルテ、お前にはまだやるべきことがあるはず。結果を見られるのは素晴らしいことだが、成功だろうが失敗だろうがほんの一瞬の煌めきにすぎない。それが自分のことではないのであれば尚更……。そんなくだらないものに引き摺られるな』
『……ジルベルト様、そのように仰るのはおやめください。まるで死にゆく前のお姿に見えて不吉でありまする……』
『成功が約束されたものではない以上、多少ネガティブになるのは仕方あるまい。だが、朽ち果てるとしてもそう簡単には終わらんさ。簡単には、な……』
終始穏やかな口調で語る大臣の目に光はなかった。ただその暗い目はいつもよりもずっと深い闇を感じさせるものであり、僅かな希望の光でさえも見逃すまいとしているかのようであった……。
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