全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

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53.眷属

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『なっ、何!? やつらはようやく狭間まで来たというのかあぁ!?』

 謁見の間にて、魔王が口を引き攣らせて呆れたような笑みを浮かべる。

『なんかさあ、いくらなんでも遅すぎね……?』
『相変わらず仲違いばかりしているようで、危うくオルドが死にかけたという情報も……』
『グハハッ! あの人間の皮を被った化け物がか!? そりゃまた随分と劣化したものだのう! いやー、こりゃ愉快だ。ワハハッ!』

 玉座の肘掛けをバンバン叩きながら愉快そうに笑う魔王に対し、大臣が威圧するように一歩前に詰め寄る。

『魔王様……油断してはなりませんぞ。そういう作戦かもしれませぬゆえ……』
『わかっておる! 余はもう準備は万端だし、今までで一番戦うのが楽しみだから早く勇者パーティーとやり合いたいのだっ!』

 魔王が立ち上がり、得意顔でシュッシュと素早くパンチを繰り出す。

『甘いですぞ、魔王様。このままいけば確かに魔王様が勝つのは明白。しかし、勝負は最後の最後まで何が起こるかわからないというのが道理。現状に満足せず、常に上を目指すことこそ勝利への近道――』
『――も、もうよい! 大臣よ、怖いからあまり近付くなっ! また一歩近付いてきておるし、その目で見つめられると余も降参するしかないわ!』
『これは失礼。ついつい……』
『しかし、大臣。お前を見ていると死霊王のやつを思い出すなあ……』
『……』

 大臣の目にぼんやりとした灯りが宿る。

『覚えておいでなのですか、魔王様……』
『そりゃなあっ! お前のようなカタブツだったが、芯のある男でもあった。味方にしたかったが、魔王と死霊王は相容れぬ存在だと言い張られて消すしかなかったのだよ……』
『魔王様、昔話は酒と同様に魂を弱めてしまうゆえ、そこまでになさったほうが――』
『――わかったわかった。どうせもっと鍛えろというのだろう!?』
『いかにも……』
『まったく、慎重なやつめっ。死霊王は消滅したが、その側近だったお前がいるから余は心強いぞ。では最後の仕上げといこう! グハハハハッ!』

 高笑いを響かせながらいずこへと消え去る魔王。

『……もう出てきてもよろしいですぞ』
『……ジルベルト様もお人が悪い。もう鍛える必要などありませぬのに……』

 大臣の発言からまもなく、その場に現れたのは魔王軍の大将――ダークエルフの少女ティアルテ――であった。

『魔王様には少しでも肉壁として機能してもらわねば困りますからな』
『……しかし、本当に実行するおつもりで……? もう少し待たれたほうが……』
『もう充分すぎるほど待った。何百年とな……。それに、いくら鍛えようと最早丸くなった魔王様には求心力など皆無。大した抵抗もなく魔王軍は死霊軍となり、それがしを新たなる王……死霊王として迎えるであろう……』
『ジルベルト様、また地が出ておりまするよ』
『最早隠す必要もあるまいて。ティアルテ、お前はどちら側につくのだ?』
『……わかりきった質問にはお答えしかねまする』

 ティアルテのそっけない反応に対し大臣は嬉しそうに嗤う。

『カカカッ……。魔王軍にも愛着はあると思ったからだ』
『配下たちに対してはともかく、魔王様に対するわらわの心はとうに離れておりまするが』
『……それはそうだろう。お前も知っているだろうが、今や人間にとって魔王といえば、最後は必ず勇者に一蹴されてしまう存在だそうだ。約束された敗北としての象徴など、これほど陳腐な概念があろうか。魔を総べるものとして、死霊王が全盛期だった頃ではとても考えられぬ異常な事態。長らく人間界を蹂躙できなかった代償は魔王様が支払うべきであろう……』

 静かに語るジルベルトの声には呪いのような重みが付加されていた。

『仰る通りでございまする。しかし、それでも魔王軍の中には未だに魔王を慕う者もおりまするゆえ、反発もあるかと……』
『そんなものを恐れていては何もできぬ』
『もし多くの者が反旗を翻さず、魔王側についたらどうなさるおつもりでありまするか……?』
『……そのときは、それがしの考えが甘かったとしてツケを払うことになるだろう。ただそれだけの話なのだ。例え希望を無残に打ち砕かれようと、我々眷属の崇高な志だけは遥か深淵の地で永遠に彷徨い続けるであろう。無念の死を遂げた死霊王のように……』
『……ジルベルト様……』

 ひざまずき、ジルベルトを見つめるティアルテの目にはいつしか涙が溢れていた……。
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