全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

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52.独特

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 モクモクとした瘴気に包まれた狭間地帯の入り口を抜けると、視界が徐々にクリアになっていく。

「ここに来るのは久々な気がするな……」

 俺が口を開くも、誰も応答しない。

 視線を反転させると、やつらが顔を向け合って一様に薄汚く微笑んでいるのがわかった。フェリルとクオンはさすがにぎこちなかったが、スルーされた俺を小ばかにできてよっぽど嬉しいのかみんな笑顔を絶やさない。そうかそうか、そんなに嬉しいのか、よかったな。

 俺は憮然とした顔を作って偽りの孤独を満喫しつつ、この場所に対する懐かしさも噛みしめながら前へと進んでいった。

 狭間地帯はとても独特だ。

 森林があると思えば幾つか木が逆さまになっていたり、同じ景色内で左右と上下が昼夜の明度で分かれていたり、壁と思いきや普通に進めて何も見えないところでぶつかったり……本当に神秘的な場所なのだ。狭間でなければ観光名所になったのかもしれない。

「――来た」

 ここの最大の特徴が、いきなり前触れもなくモンスターが現れるということと、いずれも馬鹿みたいに手強くて姿も気味が悪いものばかりだということ。

『ドルルゥ……』

 ぬるっと頭上の何もないところから出現してきたのは、大きな壺のような胴体に長い手足がついた化け物だ。先端が狭まった胴体部分の上部に口腔がついており、手を伸ばして捕まえた獲物をそこまで運んで咀嚼するのだ。歯は鋭利ではないが丈夫で、少しずつ潰すようにして食べるために捕まれば最後まで苦しんで死ぬことになるだろう。

 正直、あいつに今すぐにでもロクリアたちを食べてもらいたいが、さすがにそれはあっけなさすぎるからな。

「オルドどの、頼む」
「任せましたよぉ、オルド」
「バブッ」
「あへぇ……」
「……」

 こんなときだけお得意の無視はせず俺に頼ろうとするのか。まったく、随分と世話が焼けるし都合のいいやつらだ。

『ジュルルッ……』

 戦闘モードの俺を前にして、壺のような胴体の入り口から大量の涎を垂れ流す化け物。何度も倒したのに懲りないやつだ。

 やつらの頭の中にあるのは目の前にある餌を捕まえて食べることのみ。基本的に狭間以降のモンスターに殺気は通用しないので戦うしかないわけだが、圧倒してはまずいし普通に交戦するのも面白くもないので、俺はわざとやつの伸ばした手に捕まり口へと運ばれていく。

「し、しまったっ……!」

 我ながら名演技だ。

 俺の力を信頼しているフェリルとクオンや、狂った振りをしなくてはいけないアレクとロクリアはこの状況でも動けないが、エスティルとマゼッタに関しては違う。やはり俺に死なれたらまずいと考えたのか助けにくるのがわかった。大嫌いな俺を救助させるという斬新な嫌がらせ。

「オ、オルドどの!」
「今助けますぅ!」

 戦士エスティルの大剣がモンスターの両手両足を分断し、マゼッタの火の魔法が胴体を焼く。やつは一応地属性だから火に弱いんだ。さすが勇者パーティー、最低限の知識は持っているな。

『プギュルルルルル……』

 だがここからがこの壺野郎の厄介なところだ。

 耳が痒くなるような気持ち悪い鳴き声を発したのち、びっしりと蛸壺のような目で胴体がびっしりと覆われたかと思うと、涙のような成分で火を消して手足も瞬く間に再生し、また何事もなかったかのように獲物を狙うのだ。

 本来であればこれを何回も繰り返さないと倒せないタフなモンスターなわけだが、俺は急ぐ必要もあるということで小さな火の魔法をやつに食わせると、中で威力を【逆転】させた。

『ギュッ……ルァァアッ!?』

 まもなく超威力の火魔法が壺の中に発生し、化け物は文字通り爆散した。

「「「「……」」」」」

 してやったりの表情を浮かべるフェリル、クオンとは対照的に、ロクリア、アレク、エスティル、マゼッタの四人は何が起こったのかわけがわからない様子で呆然としている。

「……お、もう死んだのか。既に弱ってたみたいだからラッキーだったな」

 またしても俺は無視されてしまったわけだが、多分これは意図的ではないのだろう……。
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