全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

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51.変

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(なんだか物騒な日だったけど、ライレルさんたちのおかげで何事もなかったみたいでよかった……)

 夜の被追放者村の道具屋にて、閉店後にメアリーが慌ただしく片付けをしていたのだが、まもなく扉が静かにノックされているのに気付いた。

(……ま、まさかオルド様……?)

 一瞬輝くような笑顔で扉の前に駆け付けるメアリーだったものの、はっとした顔で開けようとしていた手を止めた。

(いや、オルド様は魔王退治の旅に出ていらっしゃるはずだし、ほかに用事だってあるだろうしこんなにご帰還が早いわけない……。じゃ、じゃあ一体誰――)

「――開けてくれ、メアリー。私だよ」
「……あっ……」

 その声はメアリーにとって聞き覚えのあるものだった。

「……モ、モルデンさん……?」
「……お、やっぱりここにいたのだね。そうだよ、私がモルデンだ……」

 かつてメアリーは『正義の一撃』というパーティーに所属しており、そこのリーダーがこのモルデンという男だったのだ。

「ど、どうしたんですか?」
「……あの日以降、私はパーティーメンバーから総スカンを食らって追放されちゃってね……何もかも失い、被追放者の村があると聞いてここを訪ねてきて……そしたら見覚えのある道具屋があってね……」
「……あ、はい。元の宿舎にそっくりですよね……」

 メアリーは、この道具屋がどこから運ばれてきたのか知っていたため内心ビクビクしていた。

「そうそう。そっくりだ……。だからここにメアリーがいるような気がして……予感は当たっていたねえ……」
「……そ、そうでしたか。でももうお店は閉まったので、また後日にお越しください……」
「いいじゃないか。固いことは言わずにここを開けてくれたまえよ。君と私はかつて同じパーティーにいた仲じゃないか……」
「で、でも、こんな夜分ですし――」
「――セックスしたのか」
「……え、ええっ……?」
「あの爺は父親ではないのだろう?」
「……あ、あの――」
「――いい加減にしたまえ! セックスはしたのかと聞いているだろう!」
「……し、知りません。そんなの……!」
「フ……フフッ……メアリーよ、強がっても声が震えているのは丸わかりなのだよ。セックスという言葉に対するその怯え方……まだ至ってはいないようだね……」
「……え? きゃああぁぁっ!」

 扉を拳が突き破り、内側から鍵が開けられる。メアリーは恐怖のあまりその場に座り込んでしまった。まもなく扉が開き、モルデンの喜悦と闇に満ちた顔がぬっと覗く。

「……い、いやぁ。来ないで……」
「……フフッ。この道具屋はどう見たって、かつて私がいたパーティー宿舎と構造が同じだからね。バレないとでも思ったかね。どうやって移動させたかは知らんが……どうせあの爺が魔法か何かでも使ったのだろう……?」
「オルド様……助けて……」
「ほほお、オルドというのか、あのふざけた糞爺は。どうやって手懐けたか知らんが、随分とまた仲がよろしいことで……。それでもインポなのかセックスはしていないようだから、その前に私がありがたく頂戴するとしよう。けっ、ざまあみやがれ。私の完全なる勝利はもう間近だ……」
「……ひっく……来ないで、来ないでぇ……」

 涙を浮かべつつ座った状態で後退するメアリー。

「キヒヒッ。雌豚めが……」
「いや……いやぁ……」

 モルデンが満面の笑みを浮かべながらゆっくりとメアリーに近付いていく。

「私のスキルは覚えているだろう?【呪縛】だ。これにかかった者は、私に近付けば近づくほど動きが鈍り、これだけ近くにいる場合、身動き一つ取れん。魔法やスキルには関係ないが……お前は確か【回復量上昇・小】とかいうしょうもないスキルとヒーリングしか使えんはずだなあ?」
「……お願いです……えぐっ。モルデンさん、どうか……どうか変なことだけはしないでください……」
「……グフフッ。その反応から察するにやはりまだバージンか……たまらん……」
「……ひっ……」

 動けなくなったメアリーの濡れた頬を優しく撫でるモルデン。

「い、いやぁ……」
「心配などせずに私に身を委ねなさい。今日はたっぷりボコボコに殴ったあとでらぶえっちするから、綺麗な歯と最後の別れを告げようねえ?」
「いやあぁ……」
「嫌じゃないだろう! いい加減にしないか、この雌豚めが! ……はっ……」

 拳を振り上げたモルデンの首元で、月明かりに照らされた刀身が煌めく。

「残念だったね、ベイベー……」
「ガ、ガリクさん……!」

 ガリクはメアリーの道具屋の常連であった。

「ちょうど見回りしてたらメアリーの悲鳴が聞こえてね、それで駆けつけてきたってわけさ……」
「き、気をつけて! この男は【呪縛】というスキルで動きを封じてきます……!」
「えっ……」
「フフッ……馬鹿め、もう遅い。この距離ならばお前はほとんど動けないから私の勝ちだよ……あ、あれ……?」

 モルデンは立ち上がろうとしたが、体に力が入らずに座り込んだ。

「ん、どうしたんだいベイベー? 俺はよく器用って言われるんだけど、それを利用してここで修行した結果、時間差で倒す術を覚えたのさ。勝ったと思って強がる相手を笑うためにね。だから既にベイベーが気絶するレベルの打撃は与えてるんだよ?」
「……お、おのれ……グフッ……」

 まもなくうつぶせに倒れ、泡を吹くモルデン。

「あ、ありがとうございました、ガリクさん……」
「フッ……それよりメアリー、デートを――」
「――ご、ごめんなさい。私はオルド様一筋なので……」
「いやいや、そうじゃなくて……そのあるじとデートするところを見せてくれないかなーって」
「……え?」
「なんならキスでもしてくれると……んっ……気持ちいい。寝取られ最高っ! 正直言うと、メアリーが襲われていることにはかなり前から気付いてたんだ。でも、趣味とはいえあんな男にヤられるのは胸糞すぎると思ってね……」
「……は、はあ……」
「ま、そういうわけだ。楽しみにしてるぜベイベー。とおっ!」

 颯爽と窓から夜の村へ飛び出していくガリク。

(……あの人、変態なのか紳士なのか……一体どっちなんだろう……)
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