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47.記憶
しおりを挟む「これより、逆転クジを行う!」
「「「「「わあぁっ!」」」」」
被追放者の村の広場で、ライレルが剣とともに声を張り上げて大歓声が巻き起こった。
「い、いいんですかい? ライレル様。あるじがいない間に……」
ライレルに向かって恐る恐る声をかけたのは、かつて『漆黒の刃』というパーティーで彼のリーダーであったガリクだった。あの敗北以降、色んな意味で惚れたということでライレルの弟子になったのだ。
「いいんだよ、ガリク。僕も一度村人に逆転クジをやらせてみたかったし、そういう声もいっぱい上がってたんだ。だから一回くらいいいでしょ」
「は、はあ……」
「それに、僕はあの方のお嫁さんになる運命なんだしきっと大目に見てくれるよ……」
村人たちが挙ってくじを引くのを尻目にもじもじするライレル。
「で、でもライレル様はあるじの愛人では……?」
「……ガリク、それは建前だよ。いきなりお嫁さんになりたいなんて言ったら、オルド様は重く感じるでしょ?」
「……た、確かに……はっ……」
「じー……」
「そ、そんな冷たい目を向けられましても……。もう俺は心を改めましたし、遊び人だったことは忘れるようにしたんで……」
「動揺しちゃって。やっぱり重いんだね。だからあの方にためらわせないようにする配慮なんだよ」
「なるほど、それでまずは愛人になろうと。さすが男心をわかってらっしゃる。元男なだけにっ……」
「……」
ライレルの顔が見る見る赤くなっていく。
彼がオルドの【逆転】スキルで女の子になったことはこの村では有名な話であり、ガリクの耳にも当然入っていたのだが、彼は最近になってここにやってきたため、それが言ってはならないタブーであることまでは知らなかった。
「ガリクウゥ……僕はもう女の子なんだ。それ以上言ったら首をポーンと刎ね飛ばしちゃうよ?」
鬼の形相でガリクの首元に剣をあてがうライレル。
「も、申し訳ないっす……」
「うふふ、それは禁句だからね。一度目は許すけど、今度言ったら問答無用でアソコを切断して僕の同類にしちゃうからね」
「……は、はい。でも、ベイベー……いえっ、ライレル様のそういうところこそ魅力的に思えます……」
「まったく……そういう女たらしなところは全然変わってないんだから……あ、みんな引き終わったみたい! それじゃ、みんな。僕がこの剣を高々と掲げるまではクジの中身を見ないようにね! じゃないと当たってても外れにするよ!」
ライレルの合図で、一様に緊張した表情だった村人たちが一斉に結果を見る。
「――かあぁっ、またダメじゃった……」
「くぅ、畜生、ついてねぇ……」
「あーあ、なんでだよ……」
「はあぁ……」
次々と夢破れて散っていく中、一人の少年だけがライレルたちの前に残った。
「……な、なんか予感はしてたけど、まさか本当に当てちゃうなんて……」
少年はしばらく呆然とクジを持つ手を震わせていた。
「おめでとう! 君、名前はなんていうの?」
「ダラス。実は初回から参加してたんだ」
「へえ~。そういえば見た覚えあるかも……。ちなみにどういう理由で追放されたの?」
「父さんと母さんに、『お前なんかいらない、出て行け』って言われたから、居場所がなくて彷徨ってたらいつの間にかここに……」
「それは酷いね……。それでどうしたいの? 両親と自分の仲の悪さを逆転させる、とか……?」
「うーん……むしろ、みんな離れちゃったほうがいいんじゃないかな。父さんと母さんも喧嘩ばかりだったし、それぞれ別の人生を歩んだほうがいいんだよ」
「……た、たくましいね。それで願いは?」
「記憶が欲しいんだ」
「えっ? 記憶……?」
「うん。いつの間にか兵士たちに囲まれて死ぬほど怒られたことがあったんだけど、それ以前の記憶がすっぽり抜けちゃってて……あの日、何か大事なものを見た気がするのに全然思い出せなくって……」
「なるほど。忘れちゃった記憶を逆転させたいわけね。むしろなくしたいかな、僕は……」
「え、どうして、お姉さん?」
「僕は男として生きた記憶を消したいんだよ。そしたら完全に女の子になれるような気がして……あ、でもそれだとオルド様のことも忘れちゃうか。今のは忘れて! てへっ……」
「か、可愛いよ、ベイベー……」
「はいガリク死ね」
「あっ……違うんですライレル様、これは昔の癖で――ぐほぉっ……」
ガリクはライレルの手刀を再び頭に受けて無様に気絶するのだった。
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