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46.棘
しおりを挟む「……」
月明かりに照らされたグラニアルの村にて、一人の少女――狂戦士の末裔ソムニア――が、逆向きになった巨大な斧に座って窓から宿内の様子を覗き込んでいた。
「ふわあ……みんな楽しそうだね、あんなに仲が悪そうにしてたのに、不思議……」
『……血ダ。血ヲ奪エ……』
くぐもったような低い声を発したのは誰でもない、少女の座る両手斧だった。
「ブラックスったら、まだダメだよ。あの人たちが魔王を倒してから暴れないと、お兄ちゃんが死んじゃう……」
『……嗚呼、血ガ欲シイ……』
「しょうがないなー。それっ!」
斧を茂みに向かって軽々と放り投げるソムニア。勢いよく戻ってきた斧にはべったりと血が付着していた。
「小動物の血だけどね、今はこれで我慢して」
『……不味イ……ヤハリ人間ノ血ガ良イ……』
とはいうものの血は徐々に吸い込まれるようにして消えてなくなり、ソムニアは苦笑いを浮かべるのであった……。
◇ ◇ ◇
「アレク様、そろそろ起きて。朝よ……」
「う……?」
「あ、起きたのね。アレク様、おはよう――」
「――あ、あれ……? なあロクリア……」
「ん、なぁに?」
「俺のオルレアンちゃんは……?」
「……」
アレクの反応に対してロクリアは露骨に顔をしかめるも、すぐに温和な表情に戻った。
「彼女なら帰ったわよ」
「か、帰っただと……?」
「ええ、役目はもう終わったからって……」
「……な、何故なんだ。俺がまだここにいるってのに勝手に帰るなんてありえんだろ……」
苛立った様子で捲し立てるアレクだったが、まもなく何かをひらめいたような顔になる。
「……そうか……。一般人にしてみれば狭間が近くにあって危険な場所だしな。オルレアンちゃんの本音としては俺の側にいたかったんだろうが、まあ仕方ねえか。オルドをぶち殺して凱旋したらたっぷり可愛がって――」
「――アレク様……」
「……あ……」
ロクリアに脇腹を肘で突かれ、アレクは彼女の視線の先にフェリルとクオンが眠っている姿があるのに気付いた。
「そ、そいつらはまだ寝てるだろ?」
「タイミングよく起きるかもしれないでしょ。で、可愛がるってどういう意味なの?」
「……コホン。そんなの決まってんだろ? たっぷり飯とか奢ってやるって意味だ。ヒャハハッ!」
「あら、そうだったのねっ」
「「……」」
そんな二人の和やかな様子を前にほっとした表情のエスティルとマゼッタ。
「危なっかしいが、アレク様らしくなってきたな、マゼッタ」
「そうですねぇ、エスティル。この自信こそがアレク様の最大の魅力なのですぅ……」
改めてアレクをうっとりと見つめる二人だったが、そこに呆れ顔でロクリアが歩み寄ってきた。
「まったく、みんなも正直者ね。私だって復活したっていうのに……」
「あ……わ、悪い、ロクリア」
「ロクリア、ごめんなさいぃ……」
「まあいいわよ。アレク様の復活が何より嬉しいのは当然よ。私だって彼がいなかったら、正気に戻っても意味がないし……」
「ロクリア、それ地味に酷い……」
「ですぅ……」
「うふふ。これでおあいこね……」
「おいおい、お前ら楽しそうだな?」
アレクがニヤリと笑いつつ、ロクリア、エスティル、マゼッタの肩を両手で抱きしめる。
「「「やあんっ……」」」
「あとはクソゴミ野郎のオルドに魔王を倒させて、みんなでお祝いとして八つ裂きにしてやるだけだな! 新人もまだ寝てるしよ、前祝いとして少し楽しもうぜ? ヒャハハッ――」
「――みんな、もう起きたか? そろそろ出発するぞ」
「「「「……」」」」
突如現れた賢者オルドを前に、凍り付いたように動かなくなるアレクたち。
「ん? どうしたんだ? あぁ、昨夜はちょっと精神的に落ち込んでたから来られなかった。悪い……」
「て、てめバブゥゥー!」
「かっ……可愛い私のアレク様……」
「……あれ? いつものビンタ攻勢はないのか?」
「……ア、アレク様っ! お出かけ前におめかししましょーねえ!」
「バビバビバビビイッ!?」
アレクが強烈なビンタの嵐を食らい、凄い形相でロクリアを睨みつけるもすぐにはっとした顔でうつむく。一方でロクリアは顔面蒼白になっていた。
「「ウプッ……」」
エスティルとマゼッタが噴き出し、アレクとロクリアから睨まれて猛然と視線を逸らす。
「グルルァ……よく寝た。ん? みんなどうしたのであるか?」
「ウミュァ……どうしたのですか?」
棘のある空気に刺激されたのか、フェリルとクオンが起きたのはそれからまもなくのことであった……。
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