44 / 87
44.吐き気
しおりを挟む「はっ……? おい、なんだよここは……?」
「わ、私は一体何を……」
俺の【逆転】スキルにより、正常なアレクとロクリアの久々のご帰還だ。
当然だが二人とも明らかにオーラが変わっていて、肌がヒリヒリして吐き気さえ催してくるような嫌な空気をこれでもかと発してくる。とはいえ、今の俺は別人ってことになってるので嫌悪感を露にするわけにもいかず、湧き出る苛立ちを隠そうと必死だった。
折角久々に味わったこいつらに対する嫌悪感に【逆転】スキルを使うのも癪だし勿体ないからな。嫌がらせのパワーにするためにも心の中では素直に嫌悪したい。
「アレク様、ロクリア、お帰り!」
「おかえりなさいですぅ、アレク様、ロクリア……」
「グルル……お、お帰りである」
「ウミュッ……お帰りです……」
「……お、お帰りなさいませ、勇者様とロクリアさん……」
ちなみに最後の台詞は俺だ。虫唾が走るがぐっと我慢。
「それが――」
「――というわけなんですぅ……」
エスティルたちが経緯を簡単に説明すると、ロクリアとアレクは時折舌打ちや溜息を交えつつうなずいていた。
「……本当にふざけた男。悪巧みばかり考えて……」
「……だな。正々堂々勝負もできねえのかよ。蛆虫めが……」
「……」
それはお前らのことだろうと心の中で返す。なるべく表に怒りを出さないようにしたいが、今にも口元が引き攣りそうだ。というわけで、俺は怒りの表情を作るとそれを【逆転】させてやった。なので今はさぞかし嬉しそうな顔に見えるだろう。心の中では鬼の形相だが……。
「でも……よかった。元に戻れて。それも、アレク様も一緒に……」
「ロクリア……」
「アレク様……」
二人が見つめ合って感動の再会を演出してるが、これには全然むかつかなかった。交尾しながら飛ぶハエが同じ部屋にいるみたいなもんで、ただ単に気持ちが悪いだけなのだ。もちろんこれはこれで気分が悪いので【逆転】させてリフレッシュする。
「アレク様ぁっ……あ……?」
アレクがその場から離れたため、ロクリアの両手が宙を虚しく抱く格好になる。ざまあないな……って、なんだ? 折角面白いものを見られたと思ったのに、それを相殺するかのようにアレクが俺の近くまで寄ってきて熱い視線を注いでくるんだが、これは一体……?
「……ひっ……?」
アレクに手を握られてしまった。違う意味で胸が高まる。今すぐ振り解きたい、全力で。しかし今の俺はオルドではなくオルレアンだ。嫌で嫌でたまらないが我慢せねば……。
「お前が俺たちを救ってくれたオルレアンって子か。礼を言わせてもらうぜ……」
「は、はぃ、どうも。勇者様……」
「アレク様でいいぜ?」
「……わ、わかりました。アレク様……」
げっ、こいつウィンクまでしてきやがった。っていうか、その汚い手を早くどけろ。今すぐにだ……。
「まったく……相変わらずアレク様は手が早いんだから……」
「いや、感動のあまりによ。てか、この子可愛すぎだろ。俺が手を握っただけで緊張して固まってるし……」
「そりゃ、天下のアレク様が相手だもの。全然モテないどこかの賢者さんなんかとは違うんだから」
「ヒャハハッ! モテないやつってなんか共通してるんだよな。ご立派で近付き難いっていうか、俺はお前らとは違うみたいな面してるし、キレてもつまんねえ嫌がらせしかできないゴミ」
「まったくもってアレク様の言う通りだ」
「ですねぇ。アレク様の仰る通りですぅ」
「……わ、我もそう思う」
「クオンも……そう思います」
「……で、ですね……」
自分自身に対するしょうもない陰口大会に俺も参加しないといけないという苦しさ。【逆転】スキルで楽になろうかと思ったが、このほろ苦さのあとにはとんでもない甘さ……すなわち幸福感が待っているはずだ。だからもうしばらく耐えろ、俺……。
「今すぐクソゴミオルドの寝首を掻いてやりてえけどよ、それじゃ物足りねえし……まず魔王を倒さないと始まらねえんだよな。あー、めんどくせえ……」
「……そうね。しかも、エスティルの案だとずっと狂った振りをしてなきゃいけないんだし窮屈すぎるわ……」
「しかし、アレク様、ロクリア。その先にはあの憎き男の無様な最期を見られると思えば安いものかと……」
「そうですよぉ。あいつにはもう味方はだーれもいませんし……魔王を倒して消えるだけのピエロだと思えば気が楽ですぅ……」
「……ま、そうだな。エスティル、マゼッタ。てか、まずは元に戻った記念にたっぷりみんなで酒を飲もうぜ! オルレアンちゃんも!」
「……」
まさかのちゃん付けかよ。俺が純情だと思ったからなんだろうが、まだ酔ってもいないのに吐きそう……。
1
お気に入りに追加
1,263
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
オカン公爵令嬢はオヤジを探す
清水柚木
ファンタジー
フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。
ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。
そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。
ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。
オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。
オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。
あげく魔王までもが復活すると言う。
そんな彼に幸せは訪れるのか?
これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。
※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。
※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。
※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる