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33.内部抗争
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「王様……大丈夫でございますか……?」
「大丈夫……なわけなかろう……! まさか、やつの嫌がらせでロクリアまで精神を壊されるとは……」
謁見の間にて、大臣の問いかけに対し頭を抱える王。
「これでは、魔王を倒せるのかどうか……。仮に倒せたとして、今度は魔法力が半分になったオルドでさえも仕留められるかどうかの話になるのだ!」
「王様、最早打つ手はないかと……」
「いや……あるにはある。その分、リスクは膨大だがな……」
「……ま、まさか王様、あの者を……?」
大臣の目が大きく見開かれ、額から汗が滴り落ちる。
「……うむ。それしかなかろう。制御ができなくなる可能性はあるが、そのときはそのときだ。やつも没落したとはいえ貴族の末裔だし、魔王はもちろん平民出のオルドなんぞにこの国が壊されるよりは何億万倍もマシというものだ……」
「……もう一度確認いたします。王様、本当にあの者をお呼びになられるので……? 確かに強さ、能力、性格……どれも申し分なく使い勝手はよいものの、暴れたときの損失は計り知れません。実際に一度大きな被害を受けて以降、もうあの者を使うのは懲りたと仰ったではありま――」
「――ええい、くどいぞ大臣! もう決めたことだ。厳罰に処されたくなければ至急連れてこい。もちろん、なるべく刺激は与えんようにな……」
「しょ、承知いたしました、王様……」
大臣が青い顔で伝令を呼び寄せる間、王は鬼の形相で宙を睨みつけた。
(一番良い結果は全員が相打ちでくたばることだが、そう上手くいくものか……。とにかく多少の犠牲は致し方あるまい。あの卑しい平民にこれ以上、好き勝手にさせるわけにはいかん。これからもずっと……何百年、何千年先であろうと、この国を支え動かしていくのは我々王室や貴族なのだ……)
◇ ◇ ◇
「――お、来た来た……」
「グルルァ、まったく。足が遅いやつらであるな……」
「ウミュウ。まったくです」
これも今やつらができる最大限の嫌がらせか? とはいえ、俺たちは待っている間に広場で数えきれないほどの祝福の声とプレゼントを民から受け取っていたから、俺自身はあまり苛立つこともなかった。
食べ物系はフェリルとクオンが欲しがっていたので一部だけ分けてやって、あとは被追放者の村にある例のボロ小屋に転送しておいた。ライレルに定期的な見回りを頼んでるし盗まれる心配はないだろう。もちろん自分たちだけで独り占めするわけではなく、魔王退治が終わったら村の発展のために役立てるつもりだ。
「――バッ、バビュゥ……!」
「あへへぇ、お昼だけどこんばんは~」
「……どうもだ」
「ど、どうもですぅー……」
「……」
勇者パーティーも随分と様変わりしたもんだ。勇者アレクは顔が腫れあがって二倍ほどの大きさになってるし目も線になってる。僧侶ロクリアは表情だけは憑き物が落ちたかのように明るいが、目にはまったく光がない。あれだけ威張っていた戦士エスティルは自信なさげに縮こまってるし、ブリッコの魔術師マゼッタも口元を引き攣らせていて笑顔がぎこちない。
「グルルァ、無様なものであるな」
「ウミュァアッ、天罰ですね」
フェリルとクオンは俺よりずっと苛立ってたからな。こいつらを煽りたくなるのもわかる。
「くっ……」
「酷いですぅ……」
「バブー……」
「あへへえ……?」
エスティル、マゼッタ、アレクの三人は悔しそうだ。ロクリアは精神の壊れ具合がアレクよりもう一段回くらい酷いのか、まったくわけがわからなそうだが。
「……まぁまぁ、フェリル、クオン。待たされた気持ちはわからんでもないが今は水に流そう。俺たちは勇者パーティー、すなわち仲間なんだからな」
「グルルゥ、わかった……」
「ウミュゥ、わかりました」
俺はロクリアたちにも目を向ける。
「エスティル、マゼッタ、アレク、ロクリア。お前たちも、遅れてきたことを反省しろよ」
「……す、すまんかった」
「ごめんなさいですぅ……」
「バブン……」
「はひ? はいれふっ」
「……」
ん、何か妙だな。大した引っ掛かりもなくすんなり謝罪してきたので拍子抜けした形だ。精神が壊れたアレクやロクリアはともかく、エスティルとマゼッタはまだまともなはずなので注意しておいたほうがいいかもしれない。
ま、むしろ大人しくされるより何か企ててくれたほうがこちらとしても楽しめるんだけどな。こいつらの性格の悪さは身に染みてよく知ってるし、いずれ何かしてくるだろうからお手並み拝見といったところだ。
「それじゃ、みんなそろそろバルドリア地方へ向けて出発するぞ!」
「グルルァ!」
「ウミュァァッ!」
「合点」
「わかりましたぁ」
「バブー!」
「いきまふいきまふっ」
これから本当の戦いが始まるってわけだ。魔王退治っていうよりほとんど内部抗争になりそうだが……。
「大丈夫……なわけなかろう……! まさか、やつの嫌がらせでロクリアまで精神を壊されるとは……」
謁見の間にて、大臣の問いかけに対し頭を抱える王。
「これでは、魔王を倒せるのかどうか……。仮に倒せたとして、今度は魔法力が半分になったオルドでさえも仕留められるかどうかの話になるのだ!」
「王様、最早打つ手はないかと……」
「いや……あるにはある。その分、リスクは膨大だがな……」
「……ま、まさか王様、あの者を……?」
大臣の目が大きく見開かれ、額から汗が滴り落ちる。
「……うむ。それしかなかろう。制御ができなくなる可能性はあるが、そのときはそのときだ。やつも没落したとはいえ貴族の末裔だし、魔王はもちろん平民出のオルドなんぞにこの国が壊されるよりは何億万倍もマシというものだ……」
「……もう一度確認いたします。王様、本当にあの者をお呼びになられるので……? 確かに強さ、能力、性格……どれも申し分なく使い勝手はよいものの、暴れたときの損失は計り知れません。実際に一度大きな被害を受けて以降、もうあの者を使うのは懲りたと仰ったではありま――」
「――ええい、くどいぞ大臣! もう決めたことだ。厳罰に処されたくなければ至急連れてこい。もちろん、なるべく刺激は与えんようにな……」
「しょ、承知いたしました、王様……」
大臣が青い顔で伝令を呼び寄せる間、王は鬼の形相で宙を睨みつけた。
(一番良い結果は全員が相打ちでくたばることだが、そう上手くいくものか……。とにかく多少の犠牲は致し方あるまい。あの卑しい平民にこれ以上、好き勝手にさせるわけにはいかん。これからもずっと……何百年、何千年先であろうと、この国を支え動かしていくのは我々王室や貴族なのだ……)
◇ ◇ ◇
「――お、来た来た……」
「グルルァ、まったく。足が遅いやつらであるな……」
「ウミュウ。まったくです」
これも今やつらができる最大限の嫌がらせか? とはいえ、俺たちは待っている間に広場で数えきれないほどの祝福の声とプレゼントを民から受け取っていたから、俺自身はあまり苛立つこともなかった。
食べ物系はフェリルとクオンが欲しがっていたので一部だけ分けてやって、あとは被追放者の村にある例のボロ小屋に転送しておいた。ライレルに定期的な見回りを頼んでるし盗まれる心配はないだろう。もちろん自分たちだけで独り占めするわけではなく、魔王退治が終わったら村の発展のために役立てるつもりだ。
「――バッ、バビュゥ……!」
「あへへぇ、お昼だけどこんばんは~」
「……どうもだ」
「ど、どうもですぅー……」
「……」
勇者パーティーも随分と様変わりしたもんだ。勇者アレクは顔が腫れあがって二倍ほどの大きさになってるし目も線になってる。僧侶ロクリアは表情だけは憑き物が落ちたかのように明るいが、目にはまったく光がない。あれだけ威張っていた戦士エスティルは自信なさげに縮こまってるし、ブリッコの魔術師マゼッタも口元を引き攣らせていて笑顔がぎこちない。
「グルルァ、無様なものであるな」
「ウミュァアッ、天罰ですね」
フェリルとクオンは俺よりずっと苛立ってたからな。こいつらを煽りたくなるのもわかる。
「くっ……」
「酷いですぅ……」
「バブー……」
「あへへえ……?」
エスティル、マゼッタ、アレクの三人は悔しそうだ。ロクリアは精神の壊れ具合がアレクよりもう一段回くらい酷いのか、まったくわけがわからなそうだが。
「……まぁまぁ、フェリル、クオン。待たされた気持ちはわからんでもないが今は水に流そう。俺たちは勇者パーティー、すなわち仲間なんだからな」
「グルルゥ、わかった……」
「ウミュゥ、わかりました」
俺はロクリアたちにも目を向ける。
「エスティル、マゼッタ、アレク、ロクリア。お前たちも、遅れてきたことを反省しろよ」
「……す、すまんかった」
「ごめんなさいですぅ……」
「バブン……」
「はひ? はいれふっ」
「……」
ん、何か妙だな。大した引っ掛かりもなくすんなり謝罪してきたので拍子抜けした形だ。精神が壊れたアレクやロクリアはともかく、エスティルとマゼッタはまだまともなはずなので注意しておいたほうがいいかもしれない。
ま、むしろ大人しくされるより何か企ててくれたほうがこちらとしても楽しめるんだけどな。こいつらの性格の悪さは身に染みてよく知ってるし、いずれ何かしてくるだろうからお手並み拝見といったところだ。
「それじゃ、みんなそろそろバルドリア地方へ向けて出発するぞ!」
「グルルァ!」
「ウミュァァッ!」
「合点」
「わかりましたぁ」
「バブー!」
「いきまふいきまふっ」
これから本当の戦いが始まるってわけだ。魔王退治っていうよりほとんど内部抗争になりそうだが……。
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