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28.道化師
しおりを挟む「んー、おかしいなぁ、おかしいなぁ……?」
白髪男ゾルフの白々しい演技はしばらくの間続いた。あほらしくて正直怒る気にもなれないというのが本音だが、少しは喜ばせてやろうと俺は仕方なくイラついた顔をしてやった。
「おい……早くしろって……何やってるんだよ、もう……」
「グルルァ……」
「ウミュァ……」
「なんかこの辺、ケダモノ臭くないですかぁ?」
な、何? マゼッタに気付かれただと……?
「どうせ誰かさんの臭いだろう」
「エスティル? 誰かさんって誰かしら?」
「もしかしてぇ、今必死な人ですぅ?」
「「「ププッ……」」」
「バブブッ……」
「わははっ! し、失敬……」
ケダモノ臭いという言葉でちょっとドキっとしたが、流れを見てると別の意味のようだ。やつらは煽ってるつもりなんだろうが、バレてないならまったく問題ない。
「ダメよ、みんな。煽るようなことしたらダメ。喧嘩じゃないのだから……ねぇ、アレク様?」
「バブバブッ」
アレクもそうだが、ロクリアのやつも表情に艶が戻ってるな。いよいよ優勢に立ったと思ってるんだろうが、慈悲はここまでだ。
「いい歳こいて赤ちゃん臭いやつよりはマシだろう」
「グルルゥ、まったくだ」
「ウミュウ、そうですね」
「……くっ……」
ロクリアがむっとした顔でゾルフに目配せするのがはっきりわかった。さらに焦らせってことだろう。はいはい、乗ってやるよバカが。
「おい、早くしろ!」
「こ、こんなはずでは……。もう少しお待ちを……プッ……コ、コホッ、コホッ……」
ゾルフのやつ、噴き出したのを咳でごまかしたな。バレバレなんだよ。
「とりあえず、スキルを使う仕草でもいいからやってくれ」
「……へ? ずっと使っておりますが……」
「スキルを使うだけじゃなくて、仕草も見せろってことだ。じゃないと本当に使ってるかどうかわからんだろ?」
「……ププッ……は、はい。それでは……」
やつがロクリアのほうを見て、彼女の口元がわずかに緩むのがわかった。俺が怒りすぎて狂ったとでも思ってそうだな。それはまさにアレクのことなんだが……。
「あ、それそれっ! パンパカパーン!」
ゾルフが調子に乗ったのか、妙な呪文を唱えながら踊り始めた。もういいだろう。これ以上はさすがに不快になるだけだ。そういうわけで、俺は自分の年齢に【逆転】スキルを使用して若返った。
「……なっ!?」
やつの素っ頓狂な声を合図にして、ロクリアたちの目が驚きで見開かれるのがわかる。
「お、ようやく元に戻れたみたいだな。ありがとう」
「……あ、あ、あれ……?」
ゾルフが自分の両手を見て目を丸くしている。まあそりゃそうだろう。俺は【逆転】スキルを年齢だけに使ったわけではなく、この男の【老化】スキル未使用状態を【逆転】で一時的に使用状態に切り替えた。それによって少年の姿だった俺は一瞬で大人になり、ちょうどいい若さ――以前とほぼ同じ状態――に戻れたというわけだ。
「……そ、そんなはずは……このような能力、私にはないはずなのに……」
「なんなのよ……もう……」
「こんなの嘘ですぅ……」
「どういうことだ……」
「バブゥ……」
やつら、一様に似たような表情だから笑いを堪えるのに必死だった。
一応元の姿に戻れたのだから喜ばないと不自然だし、俺は目を輝かせるようにして自分の体を舐めるように眺めることにした。しばらく無言状態が続いたところでようやくネタバレタイムだ。本当に踊らされていたのはどちらなのか思い知らせてやる。
「実はな、【老化】スキルに元に戻す力はないと、俺は初めから見抜いていた」
「はあ!? 嘘に決まってるわ! あれだけ怒ってたのに!」
「ロクリア……俺はな、ゾルフという男に怒ってたわけじゃないんだ……」
「……え?」
「じゃあ誰に怒ってたかって? その前に遅くなったが紹介しよう。ここにいるのは鑑定士のフェリルと、潜在能力を引き出す力を持つシスターのクオンだ」
「そ、そうだ。我は鑑定士のフェンリル……グルルァ、フェリルだ」
「はい、クオンは九尾……ウミュァアッ、シスターなのです」
よし、二人ともやや危なかったが上手く話の流れに乗ってくれた。
「鑑定士のフェリルによって、ゾルフには【老化】を元に戻す潜在能力があるってわかったから、クオンにその力を引き出させてたわけなんだが、まだまだクオンは未熟で上手くいかなくてな……それで彼女に怒ってたってわけだ。勘違いさせちゃったみたいで悪いな」
「「「「「……」」」」」
「それじゃ、明日にでもまたこの場所で落ち合おう。魔王が復活してるから急がなきゃいけないとはいえ、まずは元に戻ったことを喜びたいからな。次はもちろん魔法力を半分返してもらうぞ?」
俺はやつらの沈黙が最高に気持ちよかった……。
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