全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

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5.化け物

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 フェンリルのあとを追い、俺は迷いの森のさらに奥深くへと足を踏み入れていく。

 勇者パーティーにいた頃でさえここまで入ったことはなかったが、いつしかただの森だと錯覚してしまうほどに静かだった。周りの木々が今にも化け物になって襲い掛かってきそうな、そんな恐ろしい空気に満ちた場所だったはずが、今ではフェンリルを恐れて自ずと避けているような、そんな畏怖の気配さえ漂わせていたのだ。



 どれくらい歩いただろうか。かろうじて周囲を見渡せる程度の月明かりに照らされながら、俺は開けた場所――湖のほとりにある大木前――までたどり着いた。

『――出てこい。我だ』

 ぽつりとフェンリルが呟くと、大木の根元にあった穴に二つの小さな光が宿った。あれは獣の双眸か? 一体何が潜んでいるんだ……。

『ウミュアァッ……』

 絞り出すような獣の鳴き声がしたかと思うと、中から黄金色の何かがおもむろに出てきた。犬? いや、尻尾が九本もある。これは……まさか……。

「……九尾の狐……」
『そうだ。珍しい動物の毛皮を求める人間の群れに追われ、殺されかけていたところを我が保護し、この森の最奥で匿っているのだ』

 九尾の狐には知識が人並みにあるだけでなく魔力も豊富にあり、人に化けたり虎の威を借りたりして悪の限りを尽くしたとされているが、実際は人間が狐を狩ることを正当化するために作った仮説らしい。人を恐れているが興味はあり、普段は人里を眺めるようにして山の中で暮らしているという。

『人間だ……。興味深いですが怖いです。フェンリル様、この人間は安全ですか?』
『大丈夫だ。このオルドという人間は我の大事な友であり、人間にこっぴどく裏切られている。それゆえ、心配には及ばん』
『なるほど……』

 九尾の狐は、俺をまじまじと見たあと人に変身した。

「か、可愛い……」
「ウミュア!? ど、どうもです……」

 隠しきれない狐の耳と九つの尻尾がいい味を出している。服装は質素で、いかにも山里にいそうな村娘といったところだ。

「人に化けられるとは聞いてたが、これじゃ色んな意味で目立っちゃうな……」
『うむ。耳は帽子で隠せるが、尻尾は無理だ。我もな』
「えっ、フェンリルも人に化けられる?」
『もちろんだ。見せてやろう』

 ボンっとフェンリルが人の姿に一瞬で変化する。それはまさに狼少女だった。可愛さと格好良さが同居している感じだ。

「かっこ可愛い……」
「そ、そうか? 照れるぞ……」

 表情はあまり変わらないが頬を赤くするフェンリル。彼女の服装が、以前俺が着ていた青いローブというところが実にわかりやすい。あと、耳はフードでごまかしているが当然のように尻尾は隠しきれていなかった。

「っていうか、なんで二人とも人に化けたんだ?」

 俺が人だから話しやすいようにっていう意味もあるんだろうが、それだけでフェンリルが人に変身するとは思えない。

「さすがに元の姿では目立ちすぎるからな。これから色んなところへ行かねばならんというのに」
「ええ? それって、人間のいるところに行くっていうこと?」
「おそらくそうなるだろう。この森にいるだけでは、積もり積もった無念は晴らせまい。オルドの魔法を封じた者が人なら、それを解くのも人に違いない。我が行って倒すこともできるが……それはオルドが望まんだろう?」
「……ああ、確かにな……」

 勇者パーティーは強いといえど、かつての俺には遠く及ばない。フェンリルならまとめて倒せると思うが、できれば自分の力でなんとかしたい。

「ってことは、俺が力を取り戻すのに協力してくれそうな人間を……?」
「うむ。封じられたオルドの力を解放してくれる者をこれから捜すことになるはずだ」
「なるほど。でもそう都合よくいくかな」
「九尾の狐には、人を幸福に導く力があるという。彼女についていけば、いずれ道が開けてくるだろう」
「へえ……」

 それは賢者の俺でも知らなかった。そういや、九尾の狐は神の使いとして地上へ来たっていう話もあったっけな。

「ウミュアァ。では早速、ご案内しますです」
「ああ、ありがとう。ところで、なんて呼べば?」
「なんでもいいです」
「じゃあ……クオンで」
「はいです、オルド様」
「フェンリルも、そのままだと怖がられるからフェリルでどうかな?」
「……グルルァ? あ、あいわかった……」

 狼少女フェリルは少し戸惑った様子ではあったが、満更でもなさそうだった。
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