ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第88回 目論見

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 杜崎教授が医師集団にやらせた拍手のせいで、なんとも異様な空気が漂う中の出来事だった。

 ミュータントミラーが凝縮されるかのように小さくなったかと思うと、またたく間に消えていったのだが、そのとき当たり前のように視界に表示されたものを見て、俺は目を疑った。

「なっ……」

「工事帽、どうした?」

「おい、何があった!?」

「い、いや、なんでもない」

 俺は声をかけてきた野球帽と原沢に対し、心配させないように首を横に振るとともにそう答える。

 実をいうと、自分の視界にカウントダウンが示されたわけだが、なんと残り5分もあったのだ。おいおい、これだけ猶予をくれるのか……。

「「「――っ!?」」」

 しかも、長い秒数が表示されてからまもなく、ボスが早くも次の形態を見せてきた。こ、これは……。

 時計だ。それも、手術室の台を中心として、床全体に広がった巨大な時計。ちゃんと大きな針がついているだけでなく時を刻んでいた。

 5分という残り時間に加え、対策できるものならやってみろといわんばかりの早すぎる登場。

 その分攻撃方法もさぞかしえぐいんだろうが、焦燥感や恐怖心を植えつけたいがために、あえてそう思わせようとしている可能性もある。

 実際、時間があったらあったで、ああだこうだと余計なことを考えてしまいがちになるもんだ。本当にボスにそういう意図があるのかどうかはともかく、俺たちを混乱させるにはうってつけのやり方だろう。

「――佐嶋ぁ」

「…………」

 あーあ、恐れていたことが起きた。1分ほど経過したあと、痺れを切らしたのかやつが話しかけてきたんだ。

「何故ボスを攻撃しない……?」

「羽田……そんなの、わかりきってるだろ? ボスを攻撃できるチャンスがないからだ」

「もしかして、何か意図があるのかぁ? 既にボスが弱っていて、しかも待っていれば、相手が勝手に倒れるようなスキルでもあるんじゃないのかぁ?」

「はあ……。そんなものがあるんだったら、とっくに倒してるはずだろ?」

「……それもそうかぁ」

 内心、俺は羽田に対して憎たらしいほど鋭いやつだと思ったが、当然悟られないように顔には出してないつもりだ。

 ――ん、待てよ? 俺は今、を思いついた。よし、この作戦でいくとしよう。

「俺はチャンスだと思ったら、普通に攻撃するだけだ。そんなに心配なら、ずっとボスを攻撃するのはどうだ? あんたみたいな巧みな念力使いならそういうことだってできるだろ」

 俺のこの台詞の裏には、ちゃんとした考えがあった。ボスは当然、攻撃され続ければ防御反応が働くはずで、その間は光らなくなる、すなわち倒せなくなるはずだからだ。

 そうなると羽田にも隙ができるわけで、やつを攻撃すると見せかけたときに、念力を自身のところへ戻そうとするだろう。そこでボスの本体が光っていたら、羽田に攻撃すると見せかけてボスを叩き、横取りされずに倒すことができる。我ながら中々の名案のように思う――

「――んー、その考えは正直ダメだと思うね」

「え……」

 絶望的な言葉を発したのは杜崎教授だった。

「ボスはプロテクト機能により、攻撃中は弱みを見せないのでは?」

「…………」

 畜生……余計なことを言うやつだ。

「フンッ、私もそれくらいは理解している。それにだ、佐嶋ぁ、私がボスを常に攻撃している間、その隙を狙おうと思っているなら、無駄なことだぞぉ……」

 なんだ、こっちの目論見はバレバレだったか。

「もう一つ……もし、お前に待っていればボスが倒れるようなスキルがあると私が判断したら、その時点で必ず死体に変えてやるから覚えておけぇ……」

「勝手にしろ」

 やはり、その部分についてはまだ疑ってるんだな。

 カウントダウンが残り2分まで迫っているから、ボスの攻撃の対処法について考えたいところだが、このまま何もしない状況が続くとまずいか。

 対策を考えつつ、攻撃する素振りくらいは見せないといけない。それが見え見えのフェイクだということも羽田なら勘付きそうなのが怖いところだが、そうも言ってられない状況だ。なるべく自然体を装ってやるしかないだろう……。
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