ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
上 下
79 / 91

第79回 混沌

しおりを挟む

「「――っ!?」」

 背後のほうから地響きのような音がしたので、俺と野球帽がはっとした顔で振り返ると、後ろにあった扉がなくなり壁だけになっていた。

 二階の窓から見下ろされる構造の手術室――病院ダンジョンのボス部屋――は、これで完全な密室状態となったわけだ。

 ボスのミュータントを倒さない限り、もうここからは絶対に出られないと思うと途端に緊張感が増幅してくる。

 わかってはいたが、異次元の力を持つ異名持ちが二人もいて、さらに館野っていう強敵がいるカオスな状況なだけに心臓に悪い。

「フンッ、いよいよ始まったようだなぁ。さて、私は高見の見物をさせてもらうぞ、ネクロフィリアの佐嶋ぁ……」

 虐殺者の羽田がお得意の念力によって浮遊し、悠然と二階へ上昇していく。

 それにしてもあいつ、そろそろ俺のことをネクロフィリアって呼ぶのやめてくんないかな。確かにそれで助かってる面もあるが、なんか俺自身慣れてきちゃってるし、周りも普通に信じ込んでそうだ。

「佐嶋康介、それに藤賀真優ちゃん、あたしもあんたらの戦い、上からたっぷり見させてもらうぜっ!」

 黒坂が俺たちに向かって、笑顔で手を振りつつ意気揚々と階段を上がっていく。あいつ、羽田がバックにいることをいいことに図に乗りすぎだ。

「このっ――!」

 予想通り野球帽が前に出かかったので、それを制止するのも忘れない。

「――なあ、野球帽、興奮しすぎだから、いい加減冷静になれって……」

「……わ、悪かったよ、さじ……工事帽……」

「…………」

 野球帽が素直に謝るなんて珍しい。それだけ感情的になってるってことか。前回俺が怒った影響もあるのか、今回はすぐに引き下がってくれた。

「では、佐嶋君、藤賀君、は君たちに任せるから、お手並み拝見といこうか……ほら、君たちも来たまえ」

「「「「「はいっ、杜崎教授っ……!」」」」」

 絶対者の杜崎教授を筆頭に、医師団がぞろぞろと二階へ上がっていく。さすがに医者というだけあって、彼らは手術室にいるとサマになるなあ。

 っていうか、教授に任されるなんてまるで自分たちが医者になったみたいな感じだ。いくら患者みたいにベッドに横たわっているとはいえ、ボスの手術なんかしたくないが……。

「……佐嶋、それに藤賀。勝負はしばらくお預けにさせてもらうよ。さあお前たち、来るんだ」

「「「「「了解っ! ボスッ!」」」」」

 館野たちもそれに続いた格好だが、弓を持った男の目の奥は怪しく光っていた。

 虐殺者の羽田に脅されたから仕方なく勝負をやめたものの、俺たちとの決着をつけることを決してあきらめてはいない感じだ。一見冴えない中年の男に見えるが、あの男もまったく油断できないな……。

 とにかく、今はあいつらのことを気にしている余裕なんてない。まずは目の前のボスをなんとかしないと、警戒する以前に自分たちが死んでしまうだけだからだ。

 それでも、手術室中央のベッドに横たわる巨大な繭は、思わず現実逃避したくなるほどの不気味さで溢れ返っていた。レベル99という事実もそうだが、今までのボスよりずっと強烈な威圧感のようなものを放っているんだ。

「「――あっ……」」

 俺と野球帽の上擦った声が被る。繭がピクリと蠢いたかと思うと、亀裂が入ってからまもなく真ん中に大穴が開いたのだ。

 繭の中から一体どんなものが飛び出すのかと思いきや、何も見えない。

 だが、俺の視点ではあと三十秒後にボスが攻撃してくるのがわかった。カウントダウンに加え、視界全体にウォーニングゾーンが表示されていたからだ。

 おそらく、が孵化したのだと思うが、このままじゃ死ぬのを待つだけだ。

 ちらっと二階にいる羽田のほうを見ると、その周囲はやつが念力で結界を張っているためか、あるいはそもそもそこはボスの攻撃範囲外なのかセーフゾーンだったが、やつは待ってましたとばかりニヤリと笑いやがった。クソがクソがクソが。

「ククッ……佐嶋ぁ、わかっているとは思うが、もし二階へ来た場合は、戦闘放棄と見なしてまずお前の仲間を殺す。それを忘れるなぁ……」

「行くわけないだろ? わかりきったことを言うなよ、羽田……」

「フンッ……」

 やつは熟知しているといわんばかりだ。俺の負けず嫌いの性格を。絶対に野球帽を犠牲にはできないってことを。

 既に、ボスの攻撃を知らせるカウントダウンは残り二十秒を切ったところだった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...