78 / 91
第78回 前進
しおりを挟む俺は視界に表示されている矢印通り、まっすぐボスのいる場所を目指すことにした。
羽田や杜崎教授から糸を引くような粘っこい視線を向けられる中で、これ以上遅らせることは危険だからだ。
いくら超レアスキルの【クエスト簡略化】について悟られたくないからといって、虐殺者と絶対者の前でぐずぐずと先延ばしすることは死を意味する。
また、今の構成だとモンスターが何匹現れようとも瞬殺できるので、そういう意味でもかなりスムーズに進むことができていた。
「佐嶋ぁ、ボスまであとどれくらいだ……?」
「……勘だけど、もうちょっとじゃないかな」
「…………」
羽田はそれ以上何も言わなかったものの、やや低くなっている声色からも、堪忍袋の緒が切れかかっているのは明らかだ。やはり、俺が思っていた通り急いで正解だった。
「……佐嶋君、あのときはとても悔しかったよ。自分の折られた膝を食べたくなるほどにね」
「そ、そうですか」
杜崎教授からも声をかけられたわけだが、いかにも彼らしい台詞にゾッとする。実際に齧るくらいのことはしてそうだ。
「きっと、君は虐殺者と僕のクエストを乗り越えて、さらに成長しているんじゃないかな?」
「…………」
さらに核心を突くような言葉を追加されてしまい、俺は返答のしようがなかった。クエストを乗り越えたことによって、そういうスキルを獲得したんだよねとでも言いたげだ。もう虐殺者と絶対者の二人には、俺のスキルについてかなり深いところまで把握されてしまっているのかもしれない。
それなのに殺そうとしないのは、俺がボスを探し出すだけじゃなく、討伐する上でも役に立つと考えているからなんじゃないか。
もうすぐボスを倒せるというタイミングが来れば、二人ともチャンスとばかり襲ってくるんだと思うが、こっちもそう易々とやられるつもりはない。
――あっ……。考え事をしながら歩いていた俺の視界には、東から北に方向を変えた矢印とともに、ここからすぐ先にボスがいると提示されていた。
「多分、この先にボスがいる」
立ち止まった俺の発言によって、周囲から足音が根こそぎ消え去る代わりに、様々な声が上がり始める。
「フンッ、勘の鋭い佐嶋が言うなら間違いない。ようやくボスのおでましだなぁ」
「おー、今まで長かったぜ」
待ってましたとばかり不敵な笑みを浮かべてみせる羽田と、宙を睨みながら袖を捲る仕草をする黒坂。
「ほう。遂にボスを拝めるというわけか。これは素晴らしい。君たちも楽しみだろう?」
「「「「「は、はあ……」」」」」
嬉しそうに欠けた歯を覗かせる杜崎教授とは対照的に、原沢を筆頭とした白衣の集団は困惑した表情だ。スレイヤーじゃない一般人ならこんなものだろう。これからボスと遭遇するわけで、ダンジョンから脱出できるチャンスが来た反面、死ぬリスクも高いはずだからな。
「おい、ボスの登場だとよ。お前たち、今から準備しておけ!」
「「「「「了解っ、ボス!」」」」」
一方、館野とその取り巻きたちは大いに盛り上がっている様子。まあスレイヤーの集団だしな。
「……野球帽、いよいよだな」
「……そうだな、佐嶋……工事帽」
俺と野球帽は複雑な表情でうなずき合う。
遂にゴールが見え始めたとはいえ、この状況は素直に喜べるものではないからだ。これからボスを倒そうにも、虐殺者、絶対者、館野という大きな障害が俺たちの周りで睨みを利かせているわけだから。
それでも、ダンジョンの攻略に向かって一歩前進したこと、それだけは確かだ。
俺たちが足並みを揃えるようにして矢印の方向へ進み始めてから数秒後、不思議な現象が起きた。周囲が壁に閉ざされて一気に狭くなったかと思うと、エレベーターのように部屋ごと落ちていくような感覚がしたのだ。
なるほど……病院ダンジョンなだけあって、ツボを押した格好なのか。今まで足に電撃を感じたのはそれを踏んだってことで、最後のツボを押した時点でボスの体を刺激して目覚めさせたってわけだ。
だが、扉がどこにも見当たらないと思ったら、部屋の落下が止まった直後に目の前の壁が中央から左右に開いた。
その先は一本道の通路になっていて、奥にはオペレーションルームが見える。もう、そこにボスがいるのは誰の目にも明らかだった。中々洒落たことをやってくれるな、ダンジョン菌め……。
通路を渡って内部へ入ると、そこはまさにテレビ等でよく見た手術室とまったく同じ構造だった。
吹き抜け構造になった二階の窓から見下ろせる一階の中央には、ライトが当てられた大きなベッドが置かれていて、巨大な繭のような不気味な物体が横たわっていた。な、なんだ、ありゃ……。
まもなくそれが蠢いたかと思うと、レベル99のボスモンスター、ミュータントと表示された。
今までのボスのデッドリーゼリーが53、デスマスクが78だったことを考えれば、気の遠くなるような強さであることは想像に難くないな……。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!
真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる