ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第74回 方向性

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「…………」

 少しばかり宙に浮きながら前進するスーツ姿の男は、進路を北から東のほうへ変えてみせた。

「――はぁ、はぁ……は、羽田、な、なんで急に、こっちに変えたんだよ……?」

 ようやく追いついた茶髪の少女が、懸命に走りながらなんとも息苦しそうに訊ねる。

「……勘だ。昔からよく当たるのでなあ」

「か、勘なのかよ。まるでみたいだな」

「待て、黒坂。あいつだとぉ?」

 羽田がそれ以上進むのをやめた直後、抜き去った格好になった黒坂がはっとした顔で立ち止まり、いかにも気まずそうに振り返る。

「あ……いや、なんでもねえ――」

「――あいつというのは、ネクロフィリアの佐嶋康介のことだろう?」

「ど、どうしたんだよ、羽田。そんな怖い顔しちゃって……」

「私の質問に答えろ」

「た、確かに、あいつってのは佐嶋のことだけどよ……たったそんだけで機嫌が悪くなったっていうのかよ?」

「黒坂ぁ……あの男と私、どちらが魅力的に見えるのか、正直に言え。もし嘘だとわかったら即座に死体に変えてやる……」

 威嚇するかのように羽田の髪とネクタイが逆立ち、黒坂の顔が見る見る青ざめていく。

「え、えっ……? ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんでいきなり、そんなしょうもないこと言ってんだよ――」

「――死にたくなければ早く言え」

「……い、言うからっ、言うからさ、ちょっとくらい待てって! しょ、正直言うとさあ、羽田もまあまあ魅力あるけど、あいつも結構いいかなって……怒るなよ?」

「……フンッ、なるほど。あながち嘘でもなさそうだな。それなら、お前の見ている前であいつを死体に変えてやろう。どんな芸術作品にするかは、そのときに考えるが」

「な、なんなんだよそれ。ほんっと、悪趣味だな……」

「今、悪趣味だと言ったか? もし本当にそう思ったなら、それは至高の趣味だということだぁ……」

 羽田はそれまでの様子とは一転して、この上なく嬉しそうに声を弾ませてみせるのであった。



 ◆◆◆



「――待て。お前たち、静かにしろ」

 唇に人差し指を置いた館野が唐突に立ち止まり、神妙な表情で班員たちのほうに振り返る。

「「「「「ボス……?」」」」」



「えっ……ま、まさか……それって絶対者では……?」

「に、逃げなきゃっ……!」

「ぐ、ぐずぐずしてたら食われちまうぜ……」

「い、嫌だっ、あんな死に方だけは――」

「――お前たち、落ち着け。向こうにいるのは絶対者ではない。俺は視力がずば抜けていいからわかるが、あれは……そうだ、確か、スレイヤーの藤賀真優とかいうやつだ」

「「「「「藤賀……?」」」」」

「確か、半年ほど前にスレイヤーになった人物のはずだ。俺も最近ここに入ったばかりとはいえ、協会に所属しているスレイヤーについてはデータを徹底的に収集してあるから間違いない。ただ、側にいるの正体がよくわからない……」

「「「「「もう一人の男?」」」」」

「データにはない人物だが、もしかしたら野良のスレイヤーかもしれないから油断は禁物だ」

「「「「「どうしますか、ボス?」」」」」

「…………」

 緊張した様子で回答を待つ班員たちに対し、館野はしばし考え込んだ表情を見せたあと、重い口を開いた。

「そうだな……やつらに背中を撃たれるリスクを考えれば、このまま放置するわけにもいかん。同じスレイヤーとはいえ、その考え方はピンキリだからだ。所詮は個人事業主だから、突入班として任されている少数派の我々とは立場が違う」

「「「「「なるほど……」」」」」

「最悪の場合は戦闘になるだろうが、我々の仲間になるかどうかの交渉をしてみるのはありだろう。この先、敵になるか、味方になるか。その判断だけでもしておきたいからな……。よって、これよりやつらとの合流を検討する」

「「「「「了解、ボスッ……!」」」」」

 班員たちが敬礼しつつ声を揃わせる中、館野は前方に視線を戻すと一層険しい顔つきになった。

(藤賀とかいうスレイヤーはともかく、あの工事帽を被った男……何か妙だな。強さはあまり感じないのに、底知れないオーラのようなものを漂わせていて不気味だ。これは俺の勘だが、今のうちに始末しておいたほうが無難かもしれん……)
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