48 / 91
第48回 真っ逆様
しおりを挟む「…………」
まさか、これほど胸が躍るような場面が来ようとは、夢にも思わなかった。
念願の瞬間がもうすぐそこまで迫っているんだから当然だ。喜怒哀楽の喜のフェーズに入ったデスマスクの勝利の哄笑が轟くまで、とうとう残り13秒を切ったところだった。
俺たちにとっては祝福の音色を聞くことができないのは残念だが、下手すればあの世逝きになるわけだし、それは羽田のやつに任せるとしよう。
「風間さん、その大剣、肩に担いでもらえませんか?」
「ん、こうか……?」
「はい。両手を放しても剣が落ちないように、バランスよく……そうそう、そんな感じです。これで俺たちがやることを隠せますね」
「ま、まさか……佐嶋のとっておきの秘密とは、あれのことか……?」
俺がやろうとしていることを風間も察したらしい。一度経験してる人間じゃないとわからないことだからな。
「そういうことです。それで。もちろん、やることはわかってますよね?」
「うむ……」
この局面は耳を塞ぐだけでいいってのもあってか、余裕の表情を見せる風間が剣を担ぎつつ、俺とともに虐殺者のいる方向を一瞥する。
よしよし、これで隙あらば俺たちが狙おうとしてくるんじゃないかと羽田は考えるだろうし、準備は完璧に整った。残すところあと5秒。
「――フシュウウウウゥッ……」
遂にそのときがやって来た。俺は自分の顔を風間の大剣で隠しつつ耳を塞ぐと、ボスとは対照的に大きく息を吸った。
「羽田京志郎……! これからとっておきの秘密を打ち明けてやるから、俺が言うことをよく聞いてほしい! それは、この笑い声に集約されている! これがどういうことかわかるか!? もうそろそろわかった頃だな!? ボスに笑われるくらい、騙されたお前はとんでもない間抜け野郎ってことだ!」
「っ!?」
羽田がこれでもかと目を開け放ったかと思うと、あたかも羽をもがれた鳥のように真っ逆さまに転落していった。
あいつの苦しむ声を聞けなかったことだけが心残りだが、あの無様な姿は充分に目に焼き付けてやった。
ただ、倒れて痙攣を起こしているところは見えるものの、これで死んだかどうかは不明だ。なんせレベル137のスレイヤーなら、体力の数値もかなり高いだろうしな。
ボスのほうを見上げると、笑い声による攻撃が終わって仮面を被ったところだった。これで耳を塞いでいた両手がようやく自由になる。
「――ふう。よーし、佐嶋よ、よくぞやってくれた。今度はわしが羽田のやつにとどめを刺してやるっ!」
「えっ……か、風間さん、それはちょっと、やめておいたほうが……」
瀕死の状態に見えるとはいえ、やつは腐っても虐殺者だ。本当にとどめを刺せるならいいが、下手に手を出さないほうがいいようにも思える。なんせ、破壊者の鬼木龍奈との異次元の戦いを間近で見せつけられているだけに、余計にそう感じるのだ……。
「若いモンが、何をビビっとるんだか! あの虐殺者を倒す絶好の機会、これを逃さない手はなかろうっ!」
「…………」
いや、確かにそういう考え方もあると思うんだが、実際に行動に移すとなるとな……ってか、なんでこんなときに限って勇敢になるんだか。
「羽田京志郎よっ! 無惨に殺された者たちの恨みを晴らすべく、わしが貴様の首を取ってやるぞおおおぉっ!」
「っ!?」
ここぞとばかり風間が駆け出し、横たわった羽田目がけて跳び上がっていった。おいおい、本当にやる気なのか……。
「はっ……」
俺は目撃してしまった。羽田京志郎の真っ赤に充血した目が、風間のほうにグルッと動いた瞬間を……。
「か、風間さんっ、羽田はまだ意識がっ――!」
「――な、なぬうっ!? だ、だが、やつはもう、虫の息だっ!」
「お願いですから、死にたくなければ武器を捨てて離脱してくださいっ!」
「ぐぐぐっ……!」
風間は悔しそうな顔を浮かべたものの、大剣の腹を蹴り上げるようにして後方に跳躍してみせた。スレイヤーならではの曲芸的な動きだ。
大剣が羽田のほうに落下していく場面を見て、なんかこの光景、どこかで見た覚えがあると思ったら……そうだ、破壊者の鬼木だ。あれは鉄筋をもろに食らっていたが、こんなところまで似てしまうのか。
ということは、結末は――
「「――なっ……!?」」
大剣は、羽田に命中する直前、縦に真っ二つに割れて左右に転がってしまった。あんな丸太のような太さの、それも特殊な金属で作られたものが、虐殺者にとっては割りばし同然になるなんてな……。
というか、今にも死にそうな状態でここまでやれるのか。もし風間があのまま突っ込んでいたらと思うと心底ゾッとする。
「……か、か、勘の鋭い佐嶋を信じて、よ、よよよっ、よかったわい……」
「…………」
風間は青ざめて座り込み、すっかり戦意を喪失してしまった様子で、元の臆病な爺さんに戻ってしまっていた。でもこれでいいんだ。虐殺者のような化け物を相手にするなら、それこそ慎重すぎるくらいがちょうどいい。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!
真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる