ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第47回 秘密

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 俺は究極の選択を迫られていたが、一筋の光が射し込んできたような気分だった。

 羽田の質問に答えることで、望みは滅法薄いが生き残るチャンスに賭けるか……あるいは、やつに逆らう意味でも答えずに殺されるか……二つの選択肢の板挟みに遭って悩んでいるうち、俺はとある手段を思いついていたのだ。

「羽田、ちょっと待ってくれないか?」

「……ん、何故だ?」

「なるべくっていうか、俺の秘密は何がなんでも、死んでも他人には教えたくないくらい凄いものだから、どうしてもためらってしまうんだ……」

 その手段とは、俺が握っている秘密の部分をさらにクローズアップさせることで、自分の命よりも大事なほど貴重な情報だと羽田に思わせることだ。これは時間稼ぎにもなるはず。その間に、ボスがやつを片付けてくれれば――

「――スウウウゥゥッ……」

 タイミングよく、デスマスクは次のフェーズに入った。

 次はやはり、思っていた通り哀の顔だ。攻撃手段が酸の雨ということで、虐殺者がやられないかと淡い希望を抱いてしまうが、おそらくこれも期待外れに終わってしまうだろう。

「佐嶋ぁ、お前、まさかボスの攻撃によって私が死ぬのを待っているのか……?」

「…………」

 参ったな、完全にバレてしまっている。羽田京志郎は化け物染みた強さを持つだけでなく、狡賢い上に勘も鋭い。この男にごまかしは何度も通用しない。

「私は短気というほどではないが、待たされるのはあまり好きではない……」

「っ……!?」

 首筋にチクッとした痛みが走ったので恐る恐る喉を触ると、カッターナイフで浅く切ったかのような傷があるのがわかった。

 真っ赤に染まった俺の指先は、震えたくないのに震えていた。なんなんだ……一体どこまで繊細なんだよ、やつの念力は……。そういや、羽田は音楽室にいたわけだし、今思えばあのピアノを念力で弾いていたってことか。本当に、常に新たな衝撃で上書きしてくる男だ……。

「フシュウウウゥゥッ――」

「――か、風間さんっ!」

 しまった、すっかりカウントダウンのことを忘れていた。

「ぬっ!?」

 風間はほんの一瞬だけ躊躇したように見えたが、すぐに大剣を担ぐようにして庇を作ってくれた。前回、痛い思いをしていただけに覚えていてくれたんだ。

「…………」

 アシッドレインが降り注ぐ中、俺はどうしても吸い寄せられるようにあの男を見てしまったわけだが、羽田はそれを待っていたかのようにおぞましい笑みを浮かべつつ、いとも容易く雨を弾いていた。

 あたかも、念力の合羽でも着こんでいるかのようだ。本当に、色んな意味で胸糞が悪くなるやつで、恐怖より憤怒の感情のほうが簡単に上回ってしまうほどだ。

 とはいえ、こんなところで怒ってもなんの意味もない。それはボスとの戦いで思い知らされた……って、そうだ。

 やはり、俺の考えた手段は間違っていなかった。このまま時間稼ぎさえすれば、最強スレイヤーの羽田京志郎を倒せるかもしれない。いくらやつの勘が鋭くても、デスマスクの笑い声を防ぐことはできないんじゃないか?

 だが、そのときが来るまで、あんな化け物を相手にどうやって時間を稼げばいいのやら……。

 刺激的な雨が止んだあと、羽田が宙を滑り下りるようにして俺たちのほうへ近付いてきた。まさか、俺が黙ってるからってプレッシャーをかけにきたのか……?

「佐嶋ぁ、いつまで結論を先延ばしにするつもりだ……?」

「…………」

 わざわざここまで来たんだし、ただの脅しってわけでもなさそうだ。俺がこのまま沈黙していたら、羽田はものの数秒後には間違いなくなんらかの行動を起こす。何を言えばいいか、早く考えるんだ……。

「ここでお別れ――」

「――羽田……」

 やつが何か不穏な言葉を言いそうになったとき、俺はようやく考えが纏まったので声を絞り出せた。

「あと、40秒ほど待ってくれ。そしたら大声で俺の秘密を話すつもりだ……」

 多分、それくらいのタイミングだと思う。今ちょうど仮面をつけたデスマスクが、嬉しそうな顔になって死の笑い声を届けてくれるのは。

「……ほう、やたらと具体的だなぁ」

「それくらいなら待てるだろ? そこで俺が何も言わないなら死体に変えてくれてもいい」

「……死体に変えてくれてもいい、だと。それほどの覚悟があるのに、何故たかだか数十秒にこだわる……?」

「…………」

 まずいな、やつに疑われている。ここで変なごまかし方をすれば墓穴を掘りそうだし、どうしようか。流れを変えるためにも、何か手を打たなければ……。

「どうした、何故答えない?」

「くっ、くくっ……あっはっは!」

「…………」

 俺は天を見上げながら、これでもかと笑ってやった。演技に見える心配もない。だって本気で笑っているんだから。こいつがボスの笑い声で苦しみもだえる姿を想像して。

「……佐嶋ぁ、何がおかしい……」

「いやー、これが笑わずにはいられるかってね。天下の虐殺者が、スレイヤーでもない俺の秘密を知りたがっているだけでもおかしいのに、あと数十秒すら待てないほど余裕がないなんてな」

「……まあ、それはそうだな。じゃあほんの少しだけ待ってやるが、これだけは言っておく。私はお前の秘密を知りたいが、イライラしてまで待とうとは思っていない。それを忘れるなぁ……」

「…………」

 羽田が宙に浮かび上がっていく。あと数十秒、高みの見物といったところだろうか。勘の鋭いやつのことだし、危険を察知していて俯瞰することで視野を広げている可能性もある。

 さて、もういつの間にやらボスの顔は喜悦に満ちた顔に切り替わり、カウントダウンが始まっていた。さあ、もうすぐだ……。

「……さ、佐嶋よ、なんの秘密があるか知らんが、本当にあるのか……?」

 風間がいかにも不安そうに声をかけてきた。

「ああ、俺にはがある。だからこそ言うのをためらってるんだ」

 俺はあえてあの男にも聞こえるように大声を出してやった。

「フン。どこまでもったいぶれるものかなぁ……?」

 羽田の嘲笑うような傲岸不遜な声が降りかかってくるが、そのことが近いうちに訪れるやつの不幸を暗示しているかのようで、不快感はそこまで感じなかった。

 さあ、カウントダウンも差し迫ってきて、いよいよデスマスクの笑い声がこだまするぞ。いくら念力を自在に操る力があるといっても、音は防げないし無事じゃ済むまい……。
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