42 / 91
第42回 悲観
しおりを挟む「…………」
なんとも物悲しそうな顔をしたデスマスクを前にして、俺は言いしれようのない不気味さを覚えていた。
危機感という意味では、その前に見せてきた鬼のような形相よりもずっと感じるものだ。
風間もそれをひしひしと感じているのか、焦った表情で俺のほうを何度もチラチラと見てくるのがわかる。スレイヤーの癖に、俺に対して早く何か指示しろとでも言わんばかりだ。
「風間さん……そんなに見られたら気が散ってしょうがないですよ。そのときが来たらちゃんと教えるんで、少しは落ち着いてください」
「……お、落ち着けと言われてもな、ボッ、ボス戦だぞ? む、無理無理っ、絶対無理っ……!」
「はあ……もうダメだ……」
「……そ、そこまで悲観せんでもっ……!」
俺はあえて風間をさらに焦らせる作戦に出たわけだが、それが功を奏したのか少し落ち着きを取り戻しているのがわかる。焦りに焦りを加えることで、自分がやらなければいけないっていう心境になり、焦燥感を相殺できることもあるんだ。
彼はボス戦に限らずずっとこの調子なものの、それでも桁外れな力を持つスレイヤーであることに変わりはない。俺はそう遠くない将来、彼の力を借りなければならないときが来るような気がしていたから、多少なりとも冷静さを取り戻してくれたのは大きい。
お、ボスによる攻撃のカウントダウンが始まった……って、なんだ、あと20秒も余裕があるのか――そう思った矢先、俺の脳裏に絶望という文字が浮かんだ。
な、な、なんだこりゃ……? いつものようにウォーニングゾーンが周囲に展開されていったわけだが、宙を含めて、ありとあらゆる場所が真っ赤に染まっていたのだ。
突っ立ったままでもダメ、ジャンプしてもダメなら、一体どうすりゃいいっていうんだ。これってつまり……あれか? 逃げ場はもうどこにもありませんので、どうか大人しくここで死んでくださいってか……?
遂に残り10秒を切った。カウントダウンも相俟って、デスクマスクの悲しげな顔が、まるで俺たちの悲惨な行く末を憐れんでいるかのように見えてくる。これから死にゆく惨めな挑戦者たちよ、涙を流して悲しんであげましょうと。
だが、それが俺にとっては逆に燃える材料になった。見てろ……絶対にお前の思う通りになるものか。どんなところでもいい、ほんの僅かな場所でもいい、青いセーフゾーンを見つけろ、探し出すんだ。だが、いくら目を凝らしたところでそんな場所はどこにもない。もう、ダメだ。ボスの涙が降り注ぐ――
「――はっ……」
涙? そ、そうだ、それだっ!
「風間さん、傘をさしてください!」
「傘あっ……!?」
「傘傘傘っ! 早くっ! けっ、剣の傘あぁっ――!」
「――フシュウゥゥゥッ……」
「「……」」
吐息のあとで猛烈に降り注いできた雨を、俺と風間は凌ぐことができていた。すぐ頭上にあるのは彼の大剣で、足元は青いセーフゾーンになっていた。
風間がこれを構えていたとき、その下は青くなっていたはずだが、普通に構えていたことで範囲が狭かったのか見えなかったのだ。涙から連想して、雨のような攻撃が来るんじゃないかと思い、ようやく剣を利用すればいいってことに気が付いた。危なかった……。
「――あ、アチアチッ!」
雫が風間の手に当たったらしく、酷い火傷を負っているのがわかる。
「か、風間さん、剣を揺らさないでくださいよっ!」
「わ、わかっとるうぅ……!」
たまに雫が足元に跳ね返ってくるわけだが、靴を履いている状態でも焼けるように熱い。これが強酸の雨ってやつだろうか。やたらと長く降り続くし、もし風間の剣がなかったらどうなっていたか、想像するだけでもおぞましい……。
お、ようやく無慈悲な雨が止んだ。今回も前回と同様、攻撃してきた直後にボスの本体がフラッシュしていたのが確認できたものの、この悲しい顔面に関しては遠距離による攻撃手段がないと厳しいだろう。
まもなくデスマスクが仮面を被り、束の間とはいえ平和な一時が訪れるが、まだ胸の鼓動は高鳴っていた。本当に心臓に悪いやつだ……。
「――スウウゥゥゥゥゥッ……」
やがて、俺たちの安息の終わりを告げる吸息音をボスが発し、仮面が崩れていく。怒りの顔、悲しい顔ときて、次はどんな顔が飛び出すのやら。それはある程度予想はできるが、攻撃パターンはまったく予測できないので暗澹たる心境だった……。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!
真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる