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第41回 色
しおりを挟む「「……」」
宙に浮いた巨大な仮面――ボスのデスマスク――に見下ろされた俺たちは、しばらくその場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
ただ単に怖気づいてるってわけじゃなく、今やつを攻撃したところで無意味だからだ。おそらく、以前戦ったデッドリーゼリーのように、本体が光り輝く瞬間を狙わないとダメージは一切通らないだろう。
覚悟を決めて戦うことを誓ったばかりとはいえ、何も考えずに無暗に手を出すのは無謀なだけで、どっちかっていうと現実逃避や悪ふざけのカテゴリーに近い。
攻撃するにしても、まずは相手の攻撃パターンを注意深く観察してからのほうがいいに決まっている。攻撃は最大の防御というが、そんな人間界の理屈が容易に通用するような相手じゃない。
「――スウウウゥゥッ……」
「「っ!?」」
やがて、ボスのほうからくぐもったような吸息音が聞こえてきたかと思うと、徐々に仮面が罅割れていって、怒り狂った鬼のような形相が露になった。
こ、これはなんだ? あの刺々しい顔色が示す通り、ボスが怒っているっていう意味なのか……?
状況がわからずに困惑する中、あの恐ろしい顔に呼応するかのように、俺の視界がこととごとく赤色で染められていく。
お、おいおい……セーフゾーンはどこにあるんだ? どこを見渡してもウォーニングゾーンしか見当たらないわけだが、これは一体、どうすれば回避できるっていうのか……。
10,9,8,7――ボスによる攻撃のカウントダウンは既に始まっている。
このままじゃ、俺たちはボスの攻撃をまともに食らうことになるわけで、デッドリーゼリーの攻撃力の高さを知っている身としては、無事じゃ済まないどころか即死の可能性が極めて高いように思えた。
「か、風間さん、ここにいたらやられます……」
「……へ? さ、佐嶋よ、一体何を言っておるのだ……?」
「あと5秒後に、このまま立っていたら死ぬってことです――」
「――なっ、なんと……!?」
「…………」
風間が目を見開いたときだ。俺は自分の台詞に対して妙な引っ掛かりを覚えていた。あれ……俺、今さっき何か重要なことを口にしたような……。
このまま立っていたら死ぬ……? そうだ。これといったセーフゾーンが存在しないのなら作ればいい……って、もう俺たちに残された時間はあと3秒で、あまりにも少なかった。
「風間さん、なるべく高く跳んでくださいっ!」
「へ……?」
「いいから、早くっ――!」
「――フシュウウウゥゥゥッ……」
デスマスクの吐息が耳に届く頃には、俺たちの体は高々と跳び上がっていたわけだが、それまで立っていた場所には、幾つもの大きな赤い手の平が飛び出しており、一斉にグッと握るような仕草を見せたあとで引っ込んでいった。もしあれに捕まっていたらと思うと心底ゾッとする……。
ただ、跳び上がった際にわかったことがあって、ほんの一瞬だけだが鬼の形相が輝いたように見えた。つまり、やつ攻撃してきた直後に隙があるってことだ。そりゃボスだからさぞかし強いだろうが、絶対に倒せないボスなんて存在しないはずだしな。
俺と風間が地面に着地してから少し経ったのち、スタンバイ状態に入ったのかボスは例の仮面で覆われた。
「……ふうぅ。さすがは佐嶋だ。勘がいいのー……」
風間の声には怯えの色もあったが、危機を回避したことの安心感のほうが上回っている様子。
いくら勘がいいからってここまで都合よく攻撃を避けられるわけがないんだが、こういう状況なのも幸いしてか、俺のことを怪しんではいないみたいだった。
それにしても、俺は改めて【クエスト簡略化】スキルがいかに凄いものなのか思い知らされるとともに、これがあるということのありがたみを噛みしめていた。みんなが命懸けのゲームをしている中で、自分だけ攻略本を見ながらやっているようなものだからな。
「スウウゥゥゥゥッ……」
お、例の吸息音がしたから再び攻撃してくるみたいだが、こっちからしてみたら反撃するチャンスでもある。
仮面が割れてまた鬼のような形相が出てきた場合、ジャンプしつつ攻撃してやればいいんだ……とか思っていたら、次に俺たちの前に姿を見せたのは、一転して青ざめた物憂げな顔面だった……。
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