39 / 91
第39回 導き
しおりを挟む「…………」
いち早く野球帽の藤賀を探し出して合流するという最初の目的から、学校ダンジョンを攻略する方針に切り替えたとはいえ、俺はあの場から逃走したという事実をずっと引き摺っていた。
いくらそれしか選択肢がなかったとはいえ、逃げたことに変わりはないからだ。それも、俺の憧れのスレイヤー像を木っ端微塵にしたあの二人――虐殺者の羽田京志郎と破壊者の鬼木龍奈――に恐れをなして退散した格好ってことで、悔しさも倍増していた。
「さ、佐嶋よ、顔が鬼のようだぞ……」
「……そ、そうですかね」
「う、うむ……」
風間もギョッとした顔で二度見してくるほど、俺はいつの間にか恐ろしい形相になっていたようだ。
とはいえ、難航した野球帽の藤賀探しとは一転して、俺たちはスムーズに先へ先へと進むことができていた。
なんせ、こっちには超レアスキルの【クエスト簡略化】があるんだ。ボスがいる方向を矢印で的確に教えてくれるんだから、これほど楽なことはない。ワープゾーンがどこにあるかわかりにくいところであっても、矢印が導いてくれるので簡単に触ることができる。
こんなことになるなら、最初からボスを探していればよかったんじゃないかとも思うが、急がば回れってやつで、今回は色んなことを経験できたからむしろよかったんじゃないか。
その中でも最も大きかったと思うのは、やはり羽田と鬼木の戦いを間近で見られたことだ。二人とも吐き気を催すくらい自分勝手でどうしようもないクズとはいえ、スレイヤーとして最高峰の力を持っていることに変わりはないしな。嫌というほど味わったこの屈辱を燃料にして、一秒でも早くあのレベルに近付きたいものだ。
それにしても、藤賀が一体どういう状態だったのか、結局わからずじまいだったのが気懸りだ。どうしてあの場所にいたのか、マーカーが一向に動かなかったのか……知りたかったことは山ほどある。
確かにあいつは協力を拒んだり、山室が死んだことを俺のせいにしてきたりと、なんとも生意気で頭にくるやつだったが、それでも最後まで一緒に戦ってくれたパーティーメンバーだし助けたいという気持ちはある。
頼む、俺たちがダンジョンを攻略するまで、どうか生き延びていてくれ……。
「――ちょ、ちょっといいか、佐嶋よ」
「え?」
「なんか、やたらとスムーズにワープポイントを選んどる気がするのだが、どうしてわかるのだ……?」
「あ……」
そうだった。俺がこういう便利なスキルを持っているってことを、風間は知らないんだったな。まるで初めからわかっているかのように的確にワープゾーンを踏んでたから、そりゃ怪しまれるか。
「……あ、あれですよ。今までのパターンを解析したってことですよ。それと、俺って勘もいいほうなんで」
「……な、なるほど……確かに、佐嶋の勘はかなりいいほうだったのう」
「…………」
多分、上手くごまかせたと思う。勘がいいのはコンビニダンジョンで一緒だったから理解できるだろうし、問題ない。味方とはいえ風間は口が軽そうだし、とにかくこのスキルについてはなるべく他言しないほうが身のためだ。
「――グガアアアァァッ!」
初めて訪れた美術室にて、風間の大きな剣による一撃が決まり、マスクマンが石膏像を巻き添えにして消滅する。
「どうだ、佐嶋よ、見たかぁっ! わしの怪力っぷりを。むんっ……!」
興奮した様子で袖を捲り、力こぶを俺に見せつけてくる風間。今、微妙に羽田の真似をしてたな。かなり調子に乗ってそうだからむかつくが、これからボスを倒さなきゃいけないってことで、風間の体を温めるためにもと俺が譲った格好なんだ。
「風間さん、それはわかりましたけど、あとで割れた石膏像の弁償もしないとダメですよ」
「まったく、佐嶋はいちいち細かいのう……」
「俺が学生の頃に写生したやつだから思い入れがあるんですよ。それに、肝っ玉が小さいよりマシですよね?」
「ぐ、ぐぬぅ……言うのー、言うのー……」
風間、顔を赤らめて悔しがってるな。よしよし、これでいいんだ。スレイヤーの彼が力を発揮してくれないと、超レアスキルがあるといっても一般人の俺だけじゃ到底勝てないだろうしな。
……お、片隅にある画架に置かれた絵画がワープゾーンになっていて、その先にボスがいると表示された。あれに触れれば学校ダンジョンのボスがいる場所へ飛べるってわけか。いよいよだな……。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!
真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる