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第37回 剥き出し
しおりを挟む「羽田京志郎、わたくしのあなたへの熱い思いは、こんなものではありませんわ……」
破壊者の鬼木の真っ赤な目と肌の色がほとんど変わらなくなってきた頃、その異常な回復量にも変化の兆しが訪れる。
「……ぐ、ぐぐうぅっ……!?」
それまで余裕の表情を浮かべていた虐殺者の羽田が、苦し気に天を仰いだかと思うと宙を不規則に彷徨い始めたのだ。
「ふふっ……是非、今のお気持ちを聞かせてくださいな。わたくしの回復力は、最早生き物なのですわ。あなたの体の中で毒を放ったり逆に癒したりしますの。つまり、あなたが念力の刃を内側に向けた時点で、こちらも回復力を抑えられますのよ……」
「……じ、じぶっ……」
「……はい?」
「自分の体のことは……自分が一番よくわかっているのでなあぁ……」
「……なっ、なんですって……?」
緩んだネクタイを念力によって締めてみせる羽田。その表情には、最早苦痛の色など微塵もなかった。
「自分の体内で起こる出来事ならば、尚更回復量の流れなど容易に予測できる。至高の芸術品を生み出すクリエイターを舐めるなあぁ……」
「……ど、どこまで傲慢な念力を持てば気が済むのですか……」
鬼木の顔が見る見る青ざめていく。
「……さすがにわかったようだなぁ、自分の立場というものが……。お前の知っている虐殺者などもうどこにも存在しない。クリエイターは常に今日の自分から脱皮し、成長を遂げていくものなのだぁ……」
「残念ながら、わたくしには過去の悪行から逃げ出したいだけの言い訳にしか聞こえませんわ……」
「そんなことが言える立場なのかあぁぁっ……!?」
「うっ……?」
羽田が大声を上げた直後だった。鬼木の体が、何者かに羽交い絞めされたかのように動かなくなったのだ。
「な、なんですの、これは……」
「私の友人だ。念力によって作り出した芸術品とも言うがな――!」
「――っ!?」
動かなくなった鬼木目がけて、羽田京志郎が宙に浮かんだまま滑降するように向かっていく。
「ごぼっ、ぐひぃっ、ひぎゃああぁっ!」
鬼木の悲鳴がこだまし、羽田の顔が見る見る返り血に染まっていく。
「どうだぁっ、私と友人による華麗な挟撃の味わいはぁ……!? その小癪な微笑みが熟成されたボロ雑巾と化していくぞぉ、回復量がぜんっぜん追い付いてこないぞおぉぉっ!」
「あべっ! ぶぎひゃっ! なごおぉっ……!?」
「最早、意識も飛び飛びだなあぁっ……ひひっ……生きたままその上等な脳みそを食わしてやるから、少しの間だけ待っていろおおぉっ……!」
羽田による前と後ろからの猛攻により、文字通り鬼木の体が原形をとどめなくなってきたときだった。
「…………」
そこに若干の緩み――空白が生じたのは、決して偶然の出来事ではなかった。
「……はぁ、はぁぁ……」
片腕の折れた藤賀真優が、這った状態でほんの僅かずつ移動しているところを、羽田の左目が捉えていたのだ。
「――はっ……」
しまったという顔を浮かべる羽田。念力が一瞬弱まったことで鬼木が解放され、その杖の先端が自身の右肩に乗せられていたのだ。
「……けほっ、けほおぉっ……こ、この杖が触れた状態では、回復力が倍になるのはご存知ですわよねぇ……? わたくしの丹精込めた手作りの回復力、どうぞ召し上がりくださいませ……!」
「ぬぉっ……? ぬ、ぬ、ぬごごっ、ぬごおぉおぉぉおおおおっ!」
羽田の顔が見る見る赤く染まっていき、大量の汗とともに眼球が今にも飛び出そうになる。
「早く念力を内側に使ってくださいまし」
「しょっ、しょれぢゃ、まにあわにゅ」
「…………」
羽田の姿が忽然と消え、溜め息を零しつつ首を横に振る鬼木。その顔は歪み切っており、筋肉だけでなく骨や脳が一部露出している状態であった。
「はあ……あと少しでしたのに、惜しいところで逃げられましたわね……」
「――ぐ、ぐふぅっ……」
学校ダンジョン、体育館のバスケットゴール下に現れる羽田。
(――も……もう少し【転移】スキルを使うのが遅ければ、この私がハエ如きにやられていたのか。妙なものに気を取られてしまったなあぁ……)
彼はしばらくその場でうずくまった状態だったが、まもなく何事もなかった様子で立ち上がるとともに宙に浮く。
(それにしても、あの野球帽……絶望的な状況でも目が死んでいなかったどころか、むしろ生きていた。妙だなぁ。そういえば、黒坂が佐嶋の名前を出したとき、少し表情が変わっていたような。まさか……)
羽田がはっとした顔になったかと思うと、一転してはちきれんばかりの笑みを浮かべてみせる。
(そういえば、元々パーティーメンバーだったか。ということは、おそらく既に植物状態を脱してこのダンジョンのどこかにいるな……)
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