ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
上 下
33 / 91

第33回 光

しおりを挟む

「しゃっしゃっしゃ――」

「――はああぁっ!」

「グギギギギギッ!?」

 学校ダンジョンの食堂にて、俺はテーブル上で笑うマスクマンに制裁を食らわせてやったわけだが、素直に喜べるような状況じゃなかった。

 というのも、風間が俺の言葉に全然反応してくれないからだ。どうにも、を引き摺っているらしい。

 俺があの危険人物である鬼木に対し、食いつくように話しかけたことだ。

「風間さん、出すぎた真似をして危険を招いた件については謝りますから、いい加減機嫌を直してくださいよ……」

「…………」

 やはり、無言で返されてしまう。

 このままではまずい。【クエスト簡略化】は、あくまでもダンジョンの攻略に特化したものだし、スレイヤーの彼が立ち直ってくれないと、色んな意味でこれからやっていく上では厳しい。希望の光が一つしかないのと二つあるのでは大違いだからだ。

「佐嶋さん、いい加減怒りを鎮めてくださいよ――」

「――ん、佐嶋よ、わしは怒っておらんぞ……?」

「えっ……じゃあ、どうして今まで黙ってたんですかね?」

「……そ、それはな、衝撃のあまり混乱しておったんだ。よくあんな化け物みたいなやつと普通に会話ができるなと……」

「なるほど……。あの鬼木っていうヒーラーはそんなに有名なんですか?」

「う、うむ……。あの女はレベル100以上のスレイヤーで、破壊者と呼ばれるほどの人物でな、スレイヤーの間では虐殺者同様に恐れられておる。己の正義のためなら、どんなやつでも最後まで苦しめて殺すという恐ろしい女なのだ……」

「へえ……」

 ヒーラーなのに破壊者なんて呼ばれてるのか……。レベルも高いし命を軽視してるしで、道理で虐殺者の羽田と同じ臭いがするわけだ。

「ダンジョンでスレイヤー同士が揉めているときにも、それを止めるどころか面倒だからと両方殺したこともあるとか。最近の若いモンはなんとも恐ろしいものだのう。虐殺者と何か因縁があるそうだが、詳しいことはわしも知らん」

「……そうだったんですね。って、なんで風間さんはそんなことを知ってるんですか?」

「前も話したが、スレイヤーしか閲覧、書き込みできない掲示板があってのう、そこで知ったというわけだよ」

「あっ……」

 そういえば、そんなものがあったんだったか。当然だが、俺はまだ一般人だから掲示板の存在くらいしか知らない。

「スレイヤー限定とはいえ、匿名でも投稿できるから参考程度だが、それでも、普通の掲示板よりはよっぽど信憑性があるし、そこであの破壊者が学校ダンジョンへ向かったという情報が書き込まれていたのだ……」

「……なるほど、だから風間さんは学校ダンジョンへ行くのをためらったんですか」

「……そ、それはだなあ、うん、まあその通りだ……」

「…………」

 それについては彼を責められない。その破壊者がここにいるなら、因縁があるっていう虐殺者の羽田だってどこかにいる可能性が高いわけだからな。それを今まで言わなかったのは、風間もスレイヤーとしての矜持があるからなんだろう。

「とにかく、面倒なことに巻き込まれる前に早く野球帽を探さないといけないですね」

「う、うむ、まったくその通りだ。すぐにこのダンジョンから脱出したいってのが本音だが……」

「そうですか。それじゃ、風間さん、ここでお別れってことで――」

「――ちょっ!? わ、わしを置いていくなっ! 一人にしないでえぇっ!」

 一時は心配したが、風間が立ち直ってくれたみたいでよかった。

 それから俺たちは食堂内を物色するうち、換気扇に触れたことで二階の廊下へとワープした。

「あ……」

「ん、どうした、佐嶋よ」

「……野球帽のやつが近くにいるみたいです……」

「な、なんとっ!?」

 間違いない……。例の動かない黄色のマーカーが現在地のすぐ近くにあるからだ。

 遂に膠着状態を打開したのか、ここまで迫ることができたのは初めてで、この二階のどこかにいるんじゃないかと期待させられる。暗闇の中に一筋の光が射し込んだきたような気分だ。

 ただ、少々気掛かりなこともあった。何故、野球帽は一向にその場を動かないのかと。眠っているのか、あるいは……。まだ死んでいないとしても、重傷を負って瀕死になっているという最悪の事態も想定しないといけない。

 また、近いように見えてもワープゾーンで違う場所に飛ばされる可能性もあるし、安心できるような状況ではまったくなかった。

「風間さん、先を急ぎましょう」

「う、うむっ」

 仲間の捜索クエストでもあればいいんだが、そういうのが生じる気配は今のところない。よほどの重大なものでなければクエストとして認知されないようだ。

 あまりにも見つからない場合、風間と二人でボスを倒してダンジョンからの脱出を図るという選択肢もある。

 それでも、なるべくなら野球帽と合流して三人でボスに挑みたいっていうのが正直なところなんだ。ここはコンビニダンジョンよりも難易度が一つ高いってことを考えても、それが妥当のように感じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...