ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
上 下
32 / 91

第32回 類似点

しおりを挟む

「「……」」

 俺たちの後ろには窓のみがあるはずだったが、そこにワープゾーンでもあったのか、穏やかな、それでいて怒気を孕んだような中性的な声色とともに、が現れるのがわかった。

 わかったので振り返ろうとしたものの、俺は金縛りにあったかのように動くことすらできなかった。なんだ、この尋常じゃないプレッシャーは……? 額から汗がとめどなく滴り落ちるほどだった。

 この感覚……どこかで味わったことがあると思ったら、虐殺者の羽田京志郎を前にしたときの心境とよく似ている。そもそも声が違うから別人であることは間違いないんだが、コンビニダンジョンであの男が正体を現したときと同じような恐怖を覚えたんだ。

 新しいウィンドウが出かかっているものの、何故か途中でフリーズ状態になっている上、メッセージも酷くぼやけているため読み取れない。これは、虐殺者クエストみたいなものが掲示されようとしているが、その条件がまだ成立していないってことか……?

「あなた方は、この二人組の仲間なのですか……?」

 俺たちに向けられたこの質問への回答次第では、間違いなく殺される。それを確信してしまうほど強い殺意を感じた。これがスレイヤーの放つ殺気というものか。おそらく、羽田並みの力を持った化け物だ……。

「……ち、ちがっ、違う……」

 それでも、俺はなんとか返答することができた。このまま黙っていたとしても、それが意図的ではないにせよ、この人外とも思える謎の人物の前では命が危ない気がしたから。

 お、出かかっていたウィンドウが立ち消えた。

 正直、どんなクエストなのか見てみたかった気もするが、これでよかったんじゃないか。虐殺者クエストみたいなのが出てきたとして、いくら【クエスト簡略化】スキルがあるとはいえ、まだ一般人の身で高レベルのスレイヤーを出し抜くなんてのは余程のことがない限りあるはずもない。

「……そうだったのですね。正直、わたくしは不機嫌だったので、回答を待たずに勢いで殺してしまうところでした」

「…………」

 おいおい、勢いで殺してしまうって……羽田並みに傲慢なスレイヤーだと思って、俺は怒りのあまりかようやく振り返ることができたわけだが、そこには杖を手にしたロングヘアの女性が笑顔で立っていた。

 ……ん、この人、なんか見覚えがあるような。気のせいだろうか?

「わたくし、鬼木龍奈おにきりゅうなと申します。あなた方は?」

「……お、俺は、佐嶋康介だ」

「……わ、わわっ、わしはっ、か、風間、昇、だだだっ……」

 風間が震えあがりつつ喋ったもんだから、その場がなんともいえない空気に包まれる。それが気の毒に思ったのか、この鬼木というスレイヤーは若干殺気を緩めたように見えた。どこか羽田に似ているとはいえ、あいつよりは話が通じそうだし、一つ質問してみることに。

「こ、この二人の男は、あなたが殺したんですかね……?」

「はい、わたくしがやりました。その二人は快楽殺人者で、スレイヤーの面汚しですから」

「なるほど……」

 それで勢い余って俺たちを殺しかけるほど激怒していたのか。だからって快楽殺人者とは無関係の人間を問答無用で殺すのは理解できないが。

 それにしても、この鬼木とかいう女、微笑んだ顔を一切崩さないのは心理を読まれないためか? 羽田京志郎みたいな悪じゃなく、善に振り切ったタイプに見えるな。だからある意味であいつと似ているように感じたのかもしれない。

 ただ、こんなことを言ったら殺されかねないし、一つ気になることを質問してみるか。

「見たところ、あなたはヒーラータイプなのに、殺せるんですか?」

「……それはですね、わたくしのヒーラーとしての回復量が多すぎたのか、ひっくり返って猛毒になった、ただそれだけの話ですよ。それでこうしてもがき苦しんで死ぬ羽目になったのです」

「な、なるほど……」

 微笑を浮かべつつ淡々と話す彼女の姿に俺は恐怖を覚える反面、相手が快楽殺人者とはいえ、必要以上に苦しめて殺しているということ、自分たちまで殺されていたかもしれないということへの怒りを引き摺っていた。

 命を軽く見ているという点では、虐殺者の羽田となんら変わらないからだ……って、やっぱりこの人、どこかで見た覚えがあると思ったら、今思い出した。

「もしかして……以前、俺が働いてる工事現場で鉄筋の下敷きになりませんでしたか……?」

「……え? あっ……あのときの方でしたかぁ。その節はご迷惑をおかけいたしました」

 棒読みで謝罪しつつ、ぺこりと頭を下げてくる鬼木龍奈。髪が長すぎて床に届きそうになっている。

「それでは、わたくしは目的があるので、そろそろ失礼いたしますね――」

 鬼木はまさに俺たちのことなんて一切眼中にないといった様子で、足早にその場を立ち去ろうとした。それが何故だか無性に悔しくて、俺はやめておけばいいのに一石を投じてみたくなる。

「――目的っていうのは、羽田のことですか?」

「…………」

 俺の投げかけた一言は、波紋を引き起こすどころじゃなかった。空間を大きく揺るがすような殺気が丸ごと返ってきたんだ。しばらくの間、呼吸ができなくなるほどだった。

「……どうしてそのことをご存知ですの……?」

 鬼木は振り返ることすらなく、威圧感を滲ませたような口調で質問してくる。

「な、なんとなく、勘で」

「……それはそれは、素晴らしい勘ですこと。あの人を知っているということは、奇跡的に生き延びた人なのでしょうか」

「……そんな感じですかね」

「そういうことでしたら、その強運をなるべく大事になさらないと、近いうちに台無しになっちゃうかもしれないですわよ……?」

「それはどういうことでしょうかね?」

「どういうことも何も、あなた方のようなただの石ころが軽々しく論じるような相手ではないということです。子ネズミのようにどこかで隠れているほうが賢明でしょう」

「…………」

 こいつ、俺たちのことを石ころや子ネズミ呼ばわりだと。とうとう本性を現したようだな。こうなるとさらに怒らせたくなるし、敬語なんてやめてやる。隣の風間はもうその辺でやめてくれと言わんばかりに青い顔で両目を見開いてるが、知ったことか。

「待ってくれ」

「……はい、なんでしょう?」

「野球帽のスレイヤーを知らないか? 俺はその人を探しにこのダンジョンに来たんだ」

「……存じませんね。スレイヤーなど別に珍しくもないので。あなたのように、スレイヤーでもないのにダンジョンにのこのこやってくるだけでなく、目上のスレイヤーに対してタメ口を聞くようなおバカな人は珍しいですけれど」

「……俺がスレイヤーじゃないってわかってたのか」

「一応、見る目はありますので。とにかく、その方がスレイヤーならば自力でなんとかするでしょう。あなたは他人の心配よりも、まずはご自分のことを心配なさってくださいな」

「……了解した。個人的に、あんたは羽田と似ているように見える。精々、同じ穴の貉にならないように気を付けてくれ」

「……う、うぷぷっ、あはっ……あははははっ!」

 鬼木は変則的に笑いながらその場をあとにした。変なやつだ。もしかしたら俺もそうだと思われてるかもしれないが……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...