ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第30回 挟み撃ち

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「「っ!?」」

 教室から出て、しばらく廊下を歩いていたときだった。

 突然景色が個室に切り替わったと思ったら、目の前に内臓剥き出しの人体が出てきたので、俺たちはしばらく言葉を失った。

「――ひいいいぃぃっ!」

「……か、風間さん、遅れて悲鳴あげないでくださいよ。ここは理科室で、これはただの人体模型ですから…………」

「……そ、そうだったか。し、心臓に悪いわい……」

 普通なら作り物だってすぐわかるんだが、いきなり登場した上に今までそういうものを散々見てきただけに、本物に見えてしまうのはわからなくもない。

 それから色んなところを触っていると、今度は保健室にワープしてしまった。ベッドの下におびただしい血だまりとともに、生徒の手だけが覗いていて、それがまた心臓に悪かった。というか、俺の後ろで風間がいちいち悲鳴を上げるので挟み撃ちに遭ってるみたいだ。

 マップウィンドウにはちゃんと野球帽のマーカーもあるんだが、このように学校ダンジョンは複雑な構造になっているため、中々そこまで辿り着くことができずにいた。

 っていうか、あれからまったく動いてないので本当に心配になる。まさかあいつ、もう死んでるのかと思ったが、山室が死んだときはマーカーが消えたので、生きてるのは確かなんだろう。

 ちなみに、ボスがいる方向はなるべく避けようと思っている。まずは野球帽を含めて、生きている生徒たちを助けるのが先だからだ。虐殺者みたいなのがいるんだから尚更。

 それとここは学校だし、野球帽はスレイヤーになったのではなく、ただの一般人として巻き込まれただけの可能性もあるしな。そうなると、連れて行くっていうより安全な場所に避難させる格好になるが。

「……しゃっしゃっしゃ……」

「…………」

 突然、幽霊の囁きのような小さな笑い声が聞こえてきて、俺は思わず身震いしたが、これは多分風間の悪戯っぽいな。

「風間さん……不気味ですから、いきなり変な笑い方しないでくださいよ……」

「ふぇっ? わ、わしはなーんも言っとらんが……」

「え……? はっ……」

 まもなく視界に小さな新しいウィンドウが出てきて、それが廊下の奥のほうに表示されていた。これは、学校ダンジョンのモンスターの登場を示すものみたいだ。今まで出てこなかっただけに興味深い。

 その小さなウィンドウに矢印が追加され、レベル5のマスクマンという名前が表示された。今までは、モンスターが目の前に出てきてからようやくわかるレベルだったが、俺の持つ超レアスキル【クエスト簡略化】の効果によって、あらかじめ距離まで判断できるようになったってわけだ。

「風間さん、向こうからモンスターが来ます……」

「な、なぬっ!?」

「……しゃっしゃっしゃ……!」

 なんとも気味の悪い笑い声と、マスクマンを取り囲むウィンドウ、さらにはその姿が次第に大きくなってきた。

 シンプルなホワイトのマスクをつけた、人型のモンスターだ。それ以外は黒い服を纏っているみたいに見えるが、よく見ると全体的にゆらゆらと揺れていて実体のない黒い影のようになっているのがわかる。

「……な、な、なんだあれは……」

 風間は既に逃げ腰だ。おいおい、あんな物騒な大剣を持ってるっていうのに、ツルハシを持った一般人の俺に任せようっていうのか……?

「風間さん、もしかしてあのコンビニ以降、ダンジョンに入ったのは初めて……?」

「も、もちろんだ……」

「自慢げに言うことじゃないと思うんですが、それは……」

「しゃっしゃっしゃ!」

「「っ!?」」

 マスクマンが徐々に近づいてきたわけだが、まだまだ距離があったのに、それが急に目の前に迫ったので俺たちは面食らう格好になった。

 こいつ、テレポートが可能なのか……?

 もちろん、何をされるかわかったもんじゃないので素早くやつの背後に回ったわけだが、モンスターの背中はまさに黒い人影そのものだった。

「しゃっしゃっしゃ」

「「……」」

 だが、マスクマンはこっちを振り返ることもなく例の笑い後を響かせるだけで、その場から動こうとしなかった。もしかしたら、反動があってテレポートしたあとはしばらく動けないのかもしれない。

 少し経ってやつは振り返り、マスクを外したかと思うと、顔面を形作る影の中心には大きな赤い目玉が覗いていた。お、輝きを放ってるし、あれがこのモンスターの弱点みたいだな。

「しゃっしゃっしゃ――!」

「――っ!?」

 ウォーニングゾーンが俺の足元に表示され、すぐに回避した直後だった。

 まもなくその地点を二つの影が挟み込む形になり、ガシャンという大きな音がしたかと思うと、巨大な歯牙が噛み合わさっているところだった。

 挟み込むまで少し間があったとはいえ、カウントダウンすらなかったし、一歩間違えたら即死級のダメージを食らっていたわけか。そこら辺にいるような雑魚モンスターなのに、この攻撃力はえぐいな……。

 牙が影になって分かれると、再びあのマスクマンが姿を現した。倒すとしたら、あの仮面を外して攻撃してくる瞬間を狙うしかないってわけだ。

「風間さん、あいつの弱点は赤い目です――」

「――な、な、なんという、バケモンだ……」

「…………」

 風間はモンスターの攻撃を見て腰を抜かしたのか、青い顔で座り込んでいた。仕方ないなあ……。

「グギッ!?」

 こうなったら俺がやるしかないなってことで、ツルハシでモンスターの目を叩いてみたわけなんだが、びっくりするほど自分の攻撃速度が速くて驚いた。そうか。移動速度だけじゃないわけだ。

「グギギギギギギッ!」

 そういうわけで、面白いくらいに連続攻撃を浴びせてやると、あっという間に倒すことができた。よーし、いいぞ、スピードだけじゃ不安だと思っていたが、俺はこのスタイルに対してどんどん自信を深めつつあった。
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