ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第21回 訪問者

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「――あっ……!」

 その日の夕方、ステータスポイントを何に振ろうか迷っていた俺のいる病室に、目を真っ赤にした二名――母さんと妹の灯里あかり――が訪ねてきた。

「こ、康介……本当に目覚めたのね……よかったわあぁ……!」

「こ……康介兄ちゃん、本当に、心配したんだからあぁ……!」

 二人とも病院から連絡を受けたってことで、スーパーの仕事と小学校の帰りに病院へ寄ったみたいだ。

「母さん、それに灯里……二人には苦労かけちゃったな。本当に悪かった……」

「ま、まったくだよ。康介ったら、苦労かけたどころじゃないし、許せないよ……って言いたいところだけど、ダンジョンに巻き込まれるなんて不可抗力だからねえ、許してあげるわっ!」

「そーそー……。死んじゃってたら許せないし恨んだかもしれないけど、こうして康介兄ちゃんが目覚めてくれたんだから、特別に許してあげてもいいよ!」

「あはは……」

 母さんと妹は顔だけじゃなく、言うこともそっくりだ。

 とにかく、二人がなんと言おうと俺は一年も植物状態のまま眠ってたんだ。その間、病院代や見舞いとかで苦労させてるのは間違いないし、これからは俺がなんとかしないと。

「それよりさ、康介、あんた……この左足、一体どうしたの……?」

「あれ……何これ、なくなったはずなのに、足があるんだけど……?」

「あ……」

 そうだった。ついつい回復した左足を隠すのを忘れてしまっていた。どうしようか……。勝手に足が生えてくるわけもないし、レベルアップして回復したなんて言ったら化け物扱いされそうだ。なんせ、一般人にとってスレイヤーなんて雲の上の存在だから。

「こ、これは……あれだ」

「「あれ……?」」

「さ、最新式の義足なんだ……」

「へえぇっ! これが義足なのかい……!? なんか人間の足とほとんど変わらないように見えるけど。最近の義足って凄いんだねえ」

「すごー、本物の足みたいじゃーん……!」

「…………」

 二人ともまじまじと俺の足を見つめてきて、なんとも気まずい。ここは話題を変えねば。

「ま、まあ、ダンジョンに巻き込まれたのがさ、家族で俺だけっていうのが不幸中の幸いだったよ」

「康介、何言ってんだい。あたしのいるスーパーだって、半年くらい前にダンジョン化したんだよ」

「私の通ってた塾も、二月ほど前にね!」

「え、えぇ……?」

 なんとも衝撃的なことを聞かされる。

「もうダメかと思ったら、すぐにスレイヤーが駆けつけてきて解決してくれたけどねえ」

「うんうん、私の塾もそうだった! 康介兄ちゃんが巻き込まれたコンビニのことで、スレイヤーさんがマスコミにボッコボコに叩かれてたから、それで凄くはりきってるみたい」

「なるほど……」

 おそらく、虐殺者の羽田京志郎の件がかなり影響してるんだろうな。証拠はなくてもあれでスレイヤーへの風当たりが相当に厳しくなったはずで、それを払拭する意味でも解決する速度が速くなってるってわけか。その一役を担ってるのが、あの裏切り者の黒坂優菜っていうのがなんとも胸糞悪いが……。

「康介、退院するまであたしがなんでもしてあげるから、遠慮せずに言ってちょうだい! 早速肩揉んでやろうか? ん?」

「うんうん、康介兄ちゃん、困ったことがあったら私にもなんでも言いなよ! 足揉んであげよっか? それとも腰?」

「い、いや、そこまでしてもらなくてもいいって……」

「それじゃ、あたしの手作りの弁当を食べさせてあげるよ、ほら、口を開けな!」

「私も作って持ってきたよ! ほらほら、口開けて!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、ここは人目もあるんだから……」

「「いいからっ!」」

「…………」

 相変わらず母さんも妹も世話好きだから、俺は終始オロオロしっぱなしで、周りから失笑が上がる始末だった。



「――ふう……」

 なんとか言いくるめて母さんと妹に帰ってもらい、病室は嵐が去ったかのような空気だった。

 あの二人の世話焼きっぷりは異常だから、入ってきた泥棒でさえ戸惑って裸足で逃げ出すレベルだと思う。何かの宗教に入れられるんじゃないかと勘違いしそうだからな。

「…………」

 ん、今どこかからを感じたと思って振り返ったら、通路にいた看護婦らしき女性が逃げるように立ち去っていった。

 どうやら上からの指示で俺は監視されてるっぽいな……。

 足が治ったことは隠せなかったし、おそらく不自然すぎるということで怪しまれているんだろう。密かに体を調べられている可能性もある。

 レベルアップできる人間自体珍しいだろうし、このことが噂になる恐れだってある。そうなると、いずれ虐殺者や女子高生の耳に入る恐れもあるんじゃないか……?

 そうなると非常にまずいように思う。ただでさえ俺はコンビニダンジョンにいたとき、ボスの攻撃を予測できるってことで羽田に警戒されていたんだからな。

 それがレベルアップもできるとなると、連中はやられる前にやろうとしてくるように思うし、こういう出入りの多い場所で色々と探られる前に明日にでも退院したほうがよさそうだ……。
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