ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
上 下
13 / 91

第13回 手応え

しおりを挟む

「――オオオォッ……」

「…………」

 コンビニダンジョンにて、スレイヤーの羽田京志郎は腕組みしながら目の前の戦況を見守っており、今まさにボスのデッドリーゼリーが登場したところであった。

(……ネクロフィリアの佐嶋康介、か。中々面白い男だが、たかが一般人だ。どうせすぐに決着がつくだろう。終わったら【転移】スキルで一旦脱出して死体の展覧会を再開し、それからボスを倒せばいい。が来ていないなら、の話だが)

「みんなっ! 死にたくないなら俺の側に寄れっ!」

「…………」

「おい、早くしろ、藤賀、死ぬぞ!」

(……あの男、妙に自信ありげだが、まさかな――)

 羽田が佐嶋に鋭い目を向けた次の瞬間、ボスが変形して酸の塊を幾つも吐き出した。

「――こんなもの……むんっ……!」

 羽田にも命中しそうになったが、念力によって見えない壁を作り出し、見事に酸を弾いてみせる。その一方で佐嶋康介たちにも当たらず、いずれも難を逃れることになった。

(……佐嶋のやつ……まるでボスの攻撃を避けられる位置を完全に予測していたかのようだった。まぐれにしてはできすぎているぞ……)

 考え込んだ表情になる羽田だったが、やがて首を横に振った。

(いや、考えすぎだ。エリート種からならまだしも、一般人の中からが生まれるとは思えん。勘がやたらと鋭いだけで長くは持たないだろう。あのお荷物たちを抱えながらボスを倒そうとしているわけだからなぁ。くたばるのも時間の問題だ……)



 ◆◆◆



「フシュウウゥゥッ……」

 変形していたデッドリーゼリーの形状が元に戻っていく。

 俺たちはボスの攻撃を回避することができたものの、それだけではダメだ。反撃してダメージを与えて倒さないとここからは出られないし、そうしないとピンチが続くことに変わりはないんだ。

 でも、この時点でまだ悲観的な考えは持っていない。超レアスキルの【クエスト簡略化】は、相手の弱点すらも映し出してくれるはずだからだ。

「――ブオォッ!」

 まもなくボスが飛び掛かってきたが、あらかじめ攻撃が来るという情報がカウントダウンとともに提示されていたので驚きはなかった。

「こっちだ!」

 さっきの酸攻撃と違い、視界には青いセーフゾーンばかりだから脅威は感じなかった。それでも、あんな強烈な酸を生み出せるくらいだから、命中したら命はないだろう。

「「「「「……」」」」」

 黒坂たちは、俺がどうしてボスの攻撃を予測できてるのかわからないと思うが、今はそれを聞く余裕もないので黙ってる感じだった。強烈な酸の塊によってゾンビが骨も残らずに溶けたのを見ればそれも当然だろう。

 問題はどうやってボスを倒すか、だ。下手に手を出せばこっちがダメージを食らいそうなだけに慎重にならざるを得なかったんだ。

 とはいえ、大分慣れてきてやつの攻撃パターンは掴みつつある。酸の塊を吐き出すことによる全体攻撃と、ジャンプ攻撃だ。

 それ以外にボスの攻撃手段がないのであれば、思い切って反撃に転じてもいいのかもしれない。

「――フシュウウゥゥッ……」

 何度目かのアシッド攻撃が終わったあと、俺は勇気をもってやつの元へ駆け寄り、バットを叩き込んだ。

「ぐっ……!?」

 ダメージを与えたつもりが、やたらと硬くてこっちの手が痺れて痛む始末。コンクリートか何かを叩いたような感触だった。カモフラージュゼリーどころかゾンビよりも硬い。

 これじゃまったくボスにダメージを与えられそうにないが、一体どうすれば……。

「ブオォォッ――!」

「――っ!?」

 デッドリーゼリーがまたしても飛び掛かってきたわけだが、考え事をしていたのでギリギリかわすことになった。危なかった……って、やつの体が着地する瞬間、少し光ったような……?

 これは、もしかしたら【クエスト簡略化】スキルがヒントを出してくれているのかもしれない。

 そう思って、俺はやつが着地したタイミングを狙って、回避するとともにバットを振り下ろしてみた。

「ガガッ!」

 おおっ、今までと違って全然柔らかい上、ダメージを受けたらしくてボスから悲鳴も上がった。

 やはりあのフラッシュは、ボスの隙、弱点を意味するものだったんだ。デッドリーゼリーは普段無敵だが、タイミング次第でダメージを与えられるということだ。

 俺は一般人だから、スレイヤーのように高いダメージを出せるわけじゃないが、これなら希望が持てる。時間さえかければ、もしかしたらスレイヤーじゃなくてもボスを倒せるかもしれない。俺は確かな手応えを掴んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志
ファンタジー
高校の入学式当日、烏丸九郎(からすまくろう)はクラス全員の集団異世界転移に巻き込まれてしまった。ザイリック239番と名乗る魔法生命体により、異世界のチームとのデスゲームを強要されてしまう。対戦相手のチームに負けたら、その時点でクラス全員が死亡する。優勝したら、1人につき26億円分の黄金のインゴットがもらえる。そんなルールだった。時間がない中、呑気に自己紹介なんか始めたクラスメート達に、「お前ら正気か。このままだと、俺達全員死ぬぞ」と烏丸は言い放った――。その後、なぜか烏丸は異世界でアイドルのプロデューサーになったり、Sランク冒険者を目指したりすることに……?(旧タイトル『クラス全員が異世界に召喚されてデスゲームに巻き込まれたけど、俺は俺の道を行く』を改題しました)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...