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第13回 手応え
しおりを挟む「――オオオォッ……」
「…………」
コンビニダンジョンにて、スレイヤーの羽田京志郎は腕組みしながら目の前の戦況を見守っており、今まさにボスのデッドリーゼリーが登場したところであった。
(……ネクロフィリアの佐嶋康介、か。中々面白い男だが、たかが一般人だ。どうせすぐに決着がつくだろう。終わったら【転移】スキルで一旦脱出して死体の展覧会を再開し、それからボスを倒せばいい。いつものやつが来ていないなら、の話だが)
「みんなっ! 死にたくないなら俺の側に寄れっ!」
「…………」
「おい、早くしろ、藤賀、死ぬぞ!」
(……あの男、妙に自信ありげだが、まさかな――)
羽田が佐嶋に鋭い目を向けた次の瞬間、ボスが変形して酸の塊を幾つも吐き出した。
「――こんなもの……むんっ……!」
羽田にも命中しそうになったが、念力によって見えない壁を作り出し、見事に酸を弾いてみせる。その一方で佐嶋康介たちにも当たらず、いずれも難を逃れることになった。
(……佐嶋のやつ……まるでボスの攻撃を避けられる位置を完全に予測していたかのようだった。まぐれにしてはできすぎているぞ……)
考え込んだ表情になる羽田だったが、やがて首を横に振った。
(いや、考えすぎだ。エリート種からならまだしも、一般人の中から神種が生まれるとは思えん。勘がやたらと鋭いだけで長くは持たないだろう。あのお荷物たちを抱えながらボスを倒そうとしているわけだからなぁ。くたばるのも時間の問題だ……)
◆◆◆
「フシュウウゥゥッ……」
変形していたデッドリーゼリーの形状が元に戻っていく。
俺たちはボスの攻撃を回避することができたものの、それだけではダメだ。反撃してダメージを与えて倒さないとここからは出られないし、そうしないとピンチが続くことに変わりはないんだ。
でも、この時点でまだ悲観的な考えは持っていない。超レアスキルの【クエスト簡略化】は、相手の弱点すらも映し出してくれるはずだからだ。
「――ブオォッ!」
まもなくボスが飛び掛かってきたが、あらかじめ攻撃が来るという情報がカウントダウンとともに提示されていたので驚きはなかった。
「こっちだ!」
さっきの酸攻撃と違い、視界には青いセーフゾーンばかりだから脅威は感じなかった。それでも、あんな強烈な酸を生み出せるくらいだから、命中したら命はないだろう。
「「「「「……」」」」」
黒坂たちは、俺がどうしてボスの攻撃を予測できてるのかわからないと思うが、今はそれを聞く余裕もないので黙ってる感じだった。強烈な酸の塊によってゾンビが骨も残らずに溶けたのを見ればそれも当然だろう。
問題はどうやってボスを倒すか、だ。下手に手を出せばこっちがダメージを食らいそうなだけに慎重にならざるを得なかったんだ。
とはいえ、大分慣れてきてやつの攻撃パターンは掴みつつある。酸の塊を吐き出すことによる全体攻撃と、ジャンプ攻撃だ。
それ以外にボスの攻撃手段がないのであれば、思い切って反撃に転じてもいいのかもしれない。
「――フシュウウゥゥッ……」
何度目かのアシッド攻撃が終わったあと、俺は勇気をもってやつの元へ駆け寄り、バットを叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
ダメージを与えたつもりが、やたらと硬くてこっちの手が痺れて痛む始末。コンクリートか何かを叩いたような感触だった。カモフラージュゼリーどころかゾンビよりも硬い。
これじゃまったくボスにダメージを与えられそうにないが、一体どうすれば……。
「ブオォォッ――!」
「――っ!?」
デッドリーゼリーがまたしても飛び掛かってきたわけだが、考え事をしていたのでギリギリかわすことになった。危なかった……って、やつの体が着地する瞬間、少し光ったような……?
これは、もしかしたら【クエスト簡略化】スキルがヒントを出してくれているのかもしれない。
そう思って、俺はやつが着地したタイミングを狙って、回避するとともにバットを振り下ろしてみた。
「ガガッ!」
おおっ、今までと違って全然柔らかい上、ダメージを受けたらしくてボスから悲鳴も上がった。
やはりあのフラッシュは、ボスの隙、弱点を意味するものだったんだ。デッドリーゼリーは普段無敵だが、タイミング次第でダメージを与えられるということだ。
俺は一般人だから、スレイヤーのように高いダメージを出せるわけじゃないが、これなら希望が持てる。時間さえかければ、もしかしたらスレイヤーじゃなくてもボスを倒せるかもしれない。俺は確かな手応えを掴んでいた。
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