ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第3回 選択肢

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「…………」

 俺は深呼吸すると、覚悟を決めて前を向いた。

 こんな危機的状況だから冷静でいられるはずもないが、いつまでもうろたえていてもしょうがない。

 まず、周囲をじっくり確認するとしようか。隠れられる場所はないか、武器になるようなものはないか……って、あれ?

 ここにはうずくまった客が二人しかいないのかと思いきや、陳列棚の向こう側から老若男女の客がぞろぞろと出てきた。いずれも困惑した表情で辺りを見回してる。

 しかしおかしいな、あんだけいたならとっくに気付いたはずだが、彼らは今まで一体どこにいたんだ?

 ――こ、これは……。

 俺はそのことを不思議に思い、少し移動して彼らがやってきた方向を確認したわけだが、飛び込んできた光景があまりにも衝撃的だったのでしばらく放心状態になった。

 コンビニの奥に細い通路が出来ていて、そこにまた一つのコンビニがあり、さらにその奥にもいった具合に延々と続いていたのだ。

 こんなに狭いダンジョンがあるのかと思ったが、そういうことか。ダンジョンのことは話には聞いていたが、こうして実際に目の当たりにすると恐怖心で目がくらみそうになる。

「こ、こんなところで死にたくねえよ……」

「畜生……」

「ひっく……誰か、誰か助けてえぇ……」

「ね、ねえ、スレイヤーさんは? ここにスレイヤーさんはいないの? 嫌よ、まだ死にたくないのに……!」

 この状況に耐えられなくなったのか、泣き言を吐いてうずくまるやつらが増えてきた。

 マイクロチップ埋め込み、ワクチン接種、両方ともやっている人間が多いし、ここがダンジョンなのはもう通知があるからわかってるんだろう。人を害するモンスターが出てきて、ボスを倒さない限り出られないんだから一般人ならこうなるのは仕方ない。

「ったく、どいつもこいつもなさけねーな」

 呆れたような声を上げたのは、茶髪、ピアス、制服姿の少女だった。母校の制服を着てるし、近所の高等学校に通う女子高生だな。顔は綺麗なんだが眼光が異様に鋭い。

「「「「「……」」」」」

 みんな彼女のほうを一瞬だけ注目した様子だったが、巻き込まれたくないと思ったのかすぐに目を背けていた。

「おい、男ども、それでもてめえら雄かよ、あぁ? キャンタマついてんのか?」

「な、なんだと? おいお前、ヤンキーかなんか知らんが、ガキの癖に偉そうにするな!」

 年配の男が怒声を上げると、女子高生は待ってましたとばかりニヤッと笑った。

「お、元気あんじゃねーか。だったら、助けを待ってねえで戦うしかねえだろ。それとも、無抵抗のままむざむざモンスターの餌になる気かよ?」

 威勢のいい女子高生だな。しかし、結局言い出しっぺのお前がやれと言われて苛立った様子で足踏みした。

「あたしだけでやれるわけねーだろ! か弱い女子高生だぞ、オラッ!」

 周りから失笑が上がってる。この子は勇気だけじゃなくユーモアもあるみたいだな。スレイヤーが助けに来るのを待つという選択肢も悪くないと思うが、その前にモンスターが襲って来る可能性もある。そうなると女子高生が言うように無抵抗でやられてしまうだろう。

 よし、不安もあるが俺も参戦させてもらうか。ということで俺は手を挙げて彼女に近付いた。

「お、あんた体格いいな! 工事帽なんか被ってるし、もしかして近くの作業場の人?」

「あぁ、その辺の工事現場で働いてるよ。こんなのでいいなら仲間にしてくれ」

「全然構わねえし、むしろ歓迎するよ。あたしらでパーティー組もうぜ!」

 そういやそんなこともできたんだっけか。目の前の人物を仲間にするかどうかの選択肢ウィンドウが出てきたので『はい』を選択した。お互いに同意しないと仲間にならない仕組みで、メンバー同士では攻撃ができなくなる。

「俺は佐嶋康介っていうんだ。あんたは?」

「あたしは黒坂優菜くろさかゆうな。よろしく!」

 こうして俺たちはパーティーメンバーとなった。視界の片隅に表示されたマップに、二つの黄色のマーカーが同じ位置で重複してるのが見える。緩やかに点滅しているのが自分だ。

「なあ、ほかに勇気のあるやつはいねーのかよ!?」

 逞しい女子高生の言葉に対し、こっちを見ていたやつらが視線を逸らす。

 まあ無理もない。無理して戦うより、ここで待つのも悪くない選択肢だからだ。俺はスレイヤーに憧れてたから、こういう状況も悪くないと思ってるし、どうせやられるなら戦う姿勢でいたいと思ってるからこの選択肢を選んだというだけの話。

「もういい、あたしが直々に指名してやるから、覚悟しやがれっ!」

「…………」

 この子、袖なんか捲っちゃって、かなり強引だなあ。みんな余程嫌なのか露骨に顔を背けていて笑える。

「――そこっ!」

「……え?」

 彼女が指名したのは、バットを持った野球帽の少年だ。中性的な顔立ちなので一見女の子のようにも見える。ユニフォーム姿だし、草野球でもやってて帰りにここに寄ったんだろうか。なんか挙動不審な感じのやつだ。

「お、俺?」

「そうだよ、あんただよあんた! バットなんか持ってやる気満々じゃねーか!」

「こっ、これは、草野球の帰りにここへ寄っただから、それでだな……」

 やはりそうだったか。しかしこの少年、どうにも胡散臭い。気が弱いというより、何か秘密があって、それを知られたくない、そんな感じの振る舞いに見えるんだ。

「ふーん。で、どうするんだよ? 参加するのかしないのかはっきりしなよ!」

「お、俺は……」

「勇気がないならもういいって!」

「い、いや、やる! 俺もやるぞ!」

 少年は迷っている様子から一転して、急にやる気を見せてきた。少し変な雰囲気になったが、いないよりはいいだろう。

「俺は……藤賀真優とうがまひろっていうんだ」

「「「よろしく!」」

「…………」

 藤賀真優と名乗ったこの少年、歓迎ムードの俺たちに対してニコリともせず、それどころかむっとした顔で目を背けやがった。やっぱり変なやつだな……。
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