上 下
44 / 50

第四四話 朦朧

しおりを挟む

「「「エリンン……」」」

 エリンがとんでもないことをしでかしてくれた。仲間とはいえ、簡単に許せることじゃないぞこれは……。

「ひっく……い、今はそれどころじゃないはずなのだ。それに、元はと言えばエリンを箱の中に閉じ込めたケイスたちが全面的に悪いのだ。うぅ……エリンはなーんにも悪くないのだあぁ。むしろ謝ってほしいのだっ……!」

 ギリッ……苛立ちすぎて歯が軋んだ。暴力は嫌いだが仕方あるまい。みんなで有無を言わさずエリンにフルボッコという名のお仕置きをしてやった。

「やめてとめてやべてとべでぇぇっ!」
「「「とめるかっ!」」」
「……ぐふっ……」

 ばたんと仰向けに倒れるエリン。ふう……多少手加減しといたから大丈夫だろう。しばらく気絶していてもらう。

「私の【復活】で箱の復元を試みるので、少々お待ちを――」
「――いや、待ってくれカトリーヌ」
「……ケイスさん?」
「ケイス? どうした、待ってる場合かよ!」
「もうミケがあいつらに襲われてるかもしれない。連絡してきてから結構経つし、こっちからの連絡になんの反応もないんだ。今すぐみんなで助けに――」
「――馬鹿言ってんじゃねー!」
「くっ……?」

 ルザークが殴りかかってきて、俺は手で拳を受け止めていた。

「ルザーク……?」
「マスターに対して、一体何をするのです、ルザーク!」
「……わりい。けど、信じてやれよ、ケイス。ここまで来たらよ。カトリーヌの【復活】、それにミケの【回復力増大】の力をよ……」
「……ル、ルザーク……」

 衝撃的だったが、ルザークの言ってることが段々飲み込めてきて胸が熱くなってくる。そうだ、仲間を信じてやれなくて何がギルドマスターだ……。それに、これだよ、これ! こういうのに昔から俺は憧れてたんだ。意識が朦朧とするくらい、熱い思いのぶつけ合いに……。肌もヒリヒリと焼けるようで、それでいてジーンとするものが込み上げてくる。

「……か、感動したのだ……」

 誰かが拍手していると思ったらエリンだった。なんだ、もう起きてきたのか。顔は痛々しく腫れ上がってるが。

「エリン、お前はしばらく飯抜きだ」
「ええっ!? ケイス、それはないのだ! 未来の花嫁に対してっ……!」
「……は?」
「誰が花嫁だって? おいコラッ!」
「誰が花嫁ですって? エリンさん!」
「ひいぃ……わ、悪かったのだ! じょ、ジョークなのだ。エリンはただの奴隷なのだぁ……」
「「「うんうん」」」

 正直エリンにはまだむかついてるが、まあいい。許してやろう。広い器もまたギルドマスターの証なのだからな。それより、ミケのことが心配だ。カトリーヌが箱を復元させるまでどうか生きていてくれ……。



 ◇◇◇



「……ひぃ……いやぁ……」

 ミケは圧倒されていた。

(……お願い……ケイスさん、早く助けて。私を【回収】して……)

 それもそのはずで、実力も殺しの技量も超一流のギルドである『サンクチュアリ』のメンバーに対して、たった一人で立ち向かっている状況だったからだ。

「見てください、この怯えよう……。芝居でもなさそうですし、罠かと多少心配しましたけれど杞憂だったようですわね」
「可愛い髑髏ちゃんができそう……チュッ」
「いいねぇ。こんな可憐な少女が残酷に死ぬ姿こそ美しいって僕は思う……」
「まったく。みなさん、久々だからって興奮しすぎです。まあ私も少しはそうですけど、あくまで壺のためですからねえ」

(……壺? 私の骨でも入れられちゃうのかな……。そんな。嫌だよ。お母さん、お父さん……ケイスさん……助けて……)

 ミケの目元に無念の涙が浮かぶ。緊張のあまり、彼女の体はすっかり冷えて硬直してしまっていた。

「ではエルフィ、始めてくださいな」
「マスター、じっくり溶かすのか?」
「そんな時間はありません。とっとと殺してずらかりましょう」
「ささっと溶かしてあたしに髑髏頂戴ね、エルフィ」
「承知した」
「マガレばっかりいいなあ。今回は可愛い女の子のだし僕も欲しいなー」
「ロンはしょうもないホラー小説で我慢しときなっ!」
「マガレにホラー小説を馬鹿にできるのか? 朦朧法もわからないくせに」
「な、なんだい? そのあたしと同じスキル名の法ってのは――」
「――二人とも、くだらないお喋りはそこまでにしてくださいまし!【朦朧】の効果が切れる前にとっととカタをつけますわよ! さ、エルフィ。やっちゃってくださいな」
「御意」
「……ひっ……い、いやあ……」

 後退りするも、エルフィによって壁際まで追い込まれるミケ。

「あ、ちょっと待って。最後に僕のお気に入りの小説の一節をこの子に聞かせてあげるね」
「ロン……!」
「ちょっとくらいいいじゃん、マスター。ね? 本の弁償はしなくていいから」
「わ、わかりましたから早くしてくださいまし……!」
「コホンッ……何かがしきりに蠢いていた。ぬめりのある赤黒い物体同士が助けを求めるかのように擦れ合っているようだった。それが合わさるたびに液体が飛び散り、痛々しい音がこだますのだ……ククッ……」
「……いや、ぁ……」

 ロンの朗読によって完全に戦意を失ったミケの頭をエルフィが掴んだ。

「一人でこのような場所へ来た自分の無能さを恨むがいい、愚か者……」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

処理中です...