43 / 50
第四三話 フライング
しおりを挟む「えいっ……やあぁっ!」
ダンジョン一階層の中央にある通路の突き当りにて、ドキドキしながらモンスターと交戦していたミケ。
(怪しい人が来たら連絡、すぐ連絡……)
彼女は気付けばタブレットに触れてしまうほど周りを気にしており、最早モンスターではなく緊張と戦っているといっても過言ではない状態だった。
「……」
ふと、ミケが周りを見渡す。気配を感じたような気がしたのだ。
(誰かいる……? あ……)
彼女は確かに見た。この通路の奥へ来るまでに道が二手に分かれているわけだが、その左側から誰かがこちらを覗いていたのを。それはケイスたちが待機している右側の通路とは逆であった。
「き、来たっ……あ、あれぇ……?」
それまで誰もいなかったこともあり、確信を持ったミケは急いでケイスたちに連絡したわけだが、再度確認するも誰の姿も気配もなかった。
(おっかしいなあ。確かに今、誰かいたのに。どうしよう。これじゃフライングになっちゃううぅ……)
ミケは明らかに動揺していた。いつ『サンクチュアリ』に襲われてもおかしくないというのもあったが、それ以上に自分のせいで計画が頓挫してしまうことのほうが今は恐ろしかったのだ。連絡をし直そうかとも思ったが、彼女は自分の連絡がまだケイスたちに気付かれてない可能性のほうに賭けることにした。
(お願い。可能性は低いかもだけど、何かの間違いで連絡に気付かないで。お願い……)
手を合わせるミケの願いが通じたのか、しばらく経っても自分の体が【回収】されることはなかった。
(よかった……。でもどうしたんだろう。本当にただ気付かなかっただけならいいけど……あれ?)
まもなく振動によってケイスからの連絡に気付いたミケ。取り出したタブレットにはこう表示されていた。
『こっちの手違いで計画が失敗に終わるかもしれない。なので今すぐそこから逃げてほしい』
「え……ええっ!?」
(どうして……? ケイスさんの計画は完璧だったはずなのに……)
「そこのお嬢ちゃん、一人かい?」
「……あ……」
髑髏の杖を持った怪しげな女が突如として現れ、ミケの目が大きく見開かれる。動揺する彼女の周りには、いつの間にか妖艶な女を筆頭に『サンクチュアリ』のメンバーが全員勢揃いしていたのであった。
◇◇◇
「――来たっ……」
タブレットにミケからの連絡が入って緊張が走る。
「ルザーク、頼んだ」
「おうよっ!」
これでルザークが例の箱を【回収】することでミケの入った箱がこっちに飛んでくることになり、一気にピンチがチャンスへと変わって【転送】によって畜生ギルドの『サンクチュアリ』に対し奇襲を仕掛けるという手筈だった。なので、ルザークを中心としてみんなで箱を持つような態勢になる。
「ん? ルザーク?」
「ルザークさん?」
「どうしたのだ、ルザーク?」
……だが、おかしい。いつまで経っても箱が俺たちの前に現れないのだ。
「そ、そんな目で見るんじゃねえよ、俺はさっきからずっとスキルを使ってるぞ!? なのにちっとも変化がねえんだ……」
「ええ……?」
ルザークが嘘を言ってるようには見えないし、そういう状況でもない。これはどういうことなんだ。この男のスキルは手元に違うものを持ったとしても、隠し効果によって遠方からでも手元に戻せる仕様のはずなのに、一体何故……。
「――あっ……」
急にエリンがはっとした顔になる。頭はあまりよくないが、勘が鋭いホムニ族なだけあって何かわかったのかもしれない。
「エリン、どうした?」
「どうされたんです、エリンさん?」
「おうエリン、理由がわかったのか?」
みんな縋るような顔だ。今はエリンだけが頼みだからな……。
「……んーと、多分アレなのだ……」
「「「アレ……?」」」
「箱はエリンがあまりにも憎たらしかったから、魔法で燃やしちゃったのだ。てへっ……」
「……」
それって、つまりもう箱はいくら待っても来ないってことかよ……。
「ご、ごめんなさいなのだっ。箱ならほかにもあるだろうし大丈夫だと思ったのだ……って、みんななんかすんごく怖いのだ。ひっ……あひいいぃぃぃっ!」
0
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる